第44話
「成程、顔ですか」
「そうなんだ。
とりあえず付き合うって話にはなったんだけど、そこだけ納得いかなくて。
アサギは僕のどんな所が好きなんだ?」
「私は大人のコゼットさんの方が見た目は好みでしたけど、そうですね。
コゼットさんは命の恩人ですし、無償の愛を向けるのは当然です。
それに、人としての能力も高いですし」
「やっぱり色々とちゃんとした理由があるじゃないか。
顔が好きと言うだけなら……僕じゃ無くても……」
「そうですか?
顔が好きって十分な理由になると思いますよ。
お金が好きって人もいますし」
「それも……そうなのかな?
経験がないし、よく分からないよ」
「付き合うきっかけなんてなんでもいいと思いますよ。
重要なのはそこからどう愛を育んでいくのかじゃないですか?
そもそも、初めから愛してくれる人なんて滅多にいませんよ」
「確かに、そうかもしれないね。
ありがとう。
少し自信が湧いて来たよ」
アサギに相談して良かった。
きっかけなんて何でもいいんだ。
テレサに恋愛感情を抱いたのも一緒にいる時間で得られたものだと思うし、これからはマリルゥとの時間を大切にしていこう。
「それで、私の事ですけど、私とも付き合ってくれるんですか?」
「それって……浮気って事?」
「本気の恋愛に決まってるじゃないですか」
「本気なんだよね?」
「ええ、本気ですよ」
「ごめん、どう答えていいのか分からない」
「いいですよ。
私はマリルゥさんと違って気長に待ってますから」
はぁ……。
まさか、自分が恋愛で悩む日が来るとは思ってもみなかった。
こんな時はあの子達に癒して貰おう。
僕は地下にあるヒュージビートル達の元へと向かう。
研究所に入るなりヴィルヘルムが駆け寄って来た。
「大変な目にあったそうだな!
しかし、こっちはもっと大変だぞ!」
そう言ってヴィルヘルムと一緒にヒュージビートル達の部屋に入ると、驚くべき事が起こっていた。
部屋の床全てが砂が敷き詰められている。
これはなんだと思い、手に取ると……魔鉱石の砂だ。
よく見ると、大きな塊もある。
「これって……飽和状態になって結晶が出来たって事?」
「恐らくその通りだろう。
この部屋に充満している未知の物質が魔鉱石を作ったのだ!」
「未知の……観測する事は出来なかったんだよね?」
「ああ、だから魔力というわけではない。
この世界には他にも未知の物質がある」
未知の物質か……考えられるのは微精霊とヒュージビートルとの共生関係で生まれる物質。
微精霊が増えた事を考えると、ヒュージビートルが怪しいな。
それならいっその事、精霊であるファーリーに聞くのが早いだろう。
僕は通信機を使い、ファーリーを呼び出した。
「パパー?」
「ファーリー、この部屋にある魔鉱石がどうやって出来るのか知ってる?」
「知らないよー?」
「そうか。
それじゃあ、ヒュージビートル達から微精霊は餌の様な物を貰ったりしてるのかな?」
「うん! 大地からエーテルを吹き上げてくれるんだよ!
ファーリーはもう食べれないけど、微精霊達はエーテルの力で増えていくんだよ」
ファーリーの言い方からして、大地以外のエーテルもありそうだな。
それを使えば人工的に精霊を生み出す事も出来るかもしれない。
大地のエーテルからは魔鉱石が生まれるのなら、他のエーテルを飽和状態にしたら何が生まれるのだろうか?
僕の考えた事をヴィルヘルムも考えたのか、不気味な笑みを浮かべている。
精霊を人工的に作り出すのは、なんとなく倫理観に反する気もするし気が引けるな。
まあ、結晶化の過程で生まれてしまいそうではあるけど。
もう一つ疑問が生まれた。
というか、ずっと前から思っていた事だけど、ファーリーの後に精霊は生まれていない。
エーテルが充満しているって事は、微精霊は少なくなっているのかな?
「ファーリー、ここに微精霊達はもういないの?」
「いっぱいいるよ?」
「それじゃあ、どうしてファーリーが生まれたみたいに、新しい精霊が生まれないんだ?」
「同じ種類の精霊は同じ場所からは生まれないよ?」
ああ、つまり大地のエーテルで育った微精霊達が集まってファーリーが生まれたからこの場所で同じ条件の精霊は生まれないと言う事か。
どうしてその結果になるのかは分からないけど、そう言う事なのだと納得しよう。
ヒュージビートル達のお世話もしたし、丁度良い時間だ。
マリルゥが僕の部屋で待ってるし、お昼にでも誘ってみよう。
自室からマリルゥを誘い出し、ファーブルにある繁華街を歩く。
ここも随分発達したな。
特産品は生産が追い付かない程需要があるし、豊かな森と畑で育った家畜も野菜も質が良いから料理も好評だ。
腕のいい職人達も徐々に集まっているし、自警団が優秀なお陰で治安も良い。
その上、科学と魔法を融合させた魔科学のお陰で生活水準も高い。
ファーブルはまさに理想郷だ。
後は教育機関か……。
生徒はともかく、先生を見つけるのに骨が折れそうだ。
「ねえ、コゼット」
「ああ、ごめん。
この街も大きくなったなと思って。
色々見てたら考える事も多くて」
「ふーん。
全部潰れて二人だけの世界になればいいのに」
ええ?
そうなったら私だけを見てくれるとかって感じなのかな?
本気でそんな事は思ってないとは思うけど……。
「ん-っと、あのお店、料理がおいしいって評判だし行ってみない?」
「いいわよ。
コゼットの行きたい場所ならどこでも着いて行くわ」
お店の中は広くて丸いテーブルが沢山ある。
椅子は無くて頼んだ料理を立って食べるのか。
僕は食べるのが遅いし、椅子があった方がいいけど、たまにはこういう雰囲気で食べるのも悪くない。
皆楽しくおしゃべりしながら食事をしているので、落ち着く場所ではないけど、活気があるって言うのかな?
賑やかで少し楽しい。
カウンターに行くと店員に注文を聞かれたので、メニューをマリルゥと一緒に眺める。
「何か食べたいものはある?」
「コゼットが私に食べさせたいものがいい」
ふぅ……危ない危ない。
少しムッとしてしまった。
何て言うか、距離感が違うと言うか、根本的な部分でずれていると言うか……。
相性が悪いのかな?
僕がマリルゥに食べさせたい物とか、正直言ってない。
好きな物を選んで食べて欲しい。
それって僕がマリルゥに興味がないって事なのか?
そうでは無いと思う。
じゃあ、マリルゥは僕に何を求めてるのか?
僕がマリルゥに食べさせたい物を食べて貰って、好印象を抱いて欲しい?
そんな気持ちになった事が無いし、分からないや……。
「僕が選んでいいのなら、これとこれかな?
マリルゥは僕に何を食べさせたいの?」
「ん? 好きな物を食べればいいんじゃない?」
マリルゥが僕に食べさせたい物があるわけではないと……。
じゃあ、尚更どんな気持ちで……。
いや、もう考えない様にしよう。
きっと乙女の気まぐれってやつだ。
空いたテーブルを囲み、二人で頼んだ料理に手を付ける。
結構大きなお皿で渡されたから驚いたけど、確かに美味しいし、スパイシーな香りが食を進ませてくれる。
さて……これからマリルゥにとってはあまり楽しくない話を切り出そうかと思ってるけど、怒らないで聞いてくれるのか心配だな……。
「マリルゥ、今後の事について少し話しておきたいんだけど」
「どうしたの?」
「僕って国王じゃないか。
だから、社交界の話しをしたと思うんだけど、その続きの話しなんだ」
「ああ、婚約者を募るって話?」
「うん、もう少し先の事ではあるんだけど、やっぱりその、子供とか作らないといけないみたいだし」
「コゼットの子供かぁ……いいわね!」
いいわね?
僕が子供を作るって事は、他の女性と結ばれる事になるけど、構わないのかな?
「他の女性と結ばれる事になるけど、それは大丈夫なの?」
「大丈夫も何も、王様が子供作らなきゃ国民と言うか、慕って仕えてくれている人達が可哀想よ」
「そうなんだ。
じゃあ、例えばなんだけど、その相手が他のエルフでもいいわけ?」
「ハアァッ?
他のエルフに興味があるわけ?」
うわ、いきなり怒ったぞ!?
他のエルフはNGなのか。
もしかして、マリルゥは子供を作る事自体にはそれ程関心がないのかもしれない。
「マリルゥ以外のエルフに興味はないよ。
ただ、相手が他種族なら良いって感覚が分からなくて」
「ええ! それって私が他の種族と仲良くしてても妬いてくれるって事?」
嬉々としてそう返事をするマリルゥに理解が追い付かない。
きっと感覚が違うのだろうけど、理解しておきたい部分ではある。
種族も違うし、分かり合えない部分もあると思うけど、理解するのはそれとは別の事だと思うし、もっとマリルゥの事を知っておきたいな。
「嫉妬しちゃうかな……。
でも、それって僕の我儘かもしれないし、感覚も違うからね。
お互いに理解して、僕達の関係を築き上げたいと思ってる」
「そうねぇ……じゃあ逆に、コゼットは私以外の人と婚約したりすると罪悪感とか感じちゃうんだ?」
「え? そうだけど……。
だから色々と困ってるんだ。
王様なんてするんじゃなかったって後悔はしてるよ」
「コゼットが王様じゃなかったら私達は出会って無かったし、私はコゼットが王様で良かったって思ってるわよ」
フフンと鼻を鳴らすマリルゥは御機嫌だなぁ……。
でも少し気は楽になったかな。
マリルゥはエルフ以外との関係は認めてくれているみたいだし。
「後、実はアサギにも付き合って欲しいって言われてるんだ。
今のままの関係がいいんだけど、どうしたらいいのか分からなくて……」
「アサギかぁ……。
悪い子では無いし、付き合ってみたらいいと思うけど、鬼人族だから難しい所ではあるわね」
「鬼人族? アサギは人族じゃないの?」
「鬼人族よ?」
「鬼人族ってどんな種族なのか教えてもらえるかな?」
「人族と殆ど変わらないけど、一族とその仲間達に向ける愛情が重い種族って話よ。
今でも人族に紛れて集落でも作ってるんじゃないかしら?」
「ん? 鬼人族って人族と共存しているわけじゃないの?」
「出来るわけないじゃない。
だって、ほんの500年前までは鬼人族の主食は人間だったのよ」
「ええ……じゃあ、鬼人族って捕食する為に人族に紛れていたって事?」
「そうよ。
最近は人族の方が数も多いし、強い人族が鬼狩りなんて始めちゃったから、人を食べなくなったって話だけどね」
「そうなんだ……アサギは人を食べてないよね?」
「流石にそこまでは知らないわ。
でも、別に食べていてもいいんじゃない?
アサギはアサギでしょ?」
アサギが鬼人族。
人を捕食していた種族か……。
確かにアサギはアサギだし、もし食べていたとしても……。
いや、分からないな。
もしそうなら僕はアサギを怖いと思ってしまうし、見る目も変わるかもしれない。
何て切り出していいのか分からないけど、帰ったらアサギと少し話してみよう……。
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