第22話
あれから二日経った。
カーラッド達は戻ってこない。
ファーブルのアサギ達の事も心配だけど、流石に今帰る訳にはいかない。
第七階層から第八階層への階段も埋めてしまっているし、しばらくは帰れそうにない。
そういえば、新しくアイドルになった三人に能力の付与とマスコットを着けないといけないな。
丁度近くにファーリーとミルアが居るので、聞いて見た。
「ファーリーはパパとママが喜ぶ能力いい!
マスコットわぁ……ハンマーがいい!」
「ハンマーかぁ、マスコットは道具は持てないと思うよ?」
「それじゃあ、パパが決めていいよ!」
結局僕が決める事になってしまったな。
ミルアはどうだろう?
なんかずっと考えているけど、なかなか決まらないのかな?
「ミルアはどんな能力が欲しいの?」
「ん-っとねー。
お花の魔法が使いたいの!
マスコットはお花を手入れする能力がいいの!」
ミルアは花が好きなんだな。
けど、付与する事の出来る能力は、僕の経験によって変化するから……ん?
花を出す魔法はないけど、花を開花させる能力はあるな。
きっと小学生の時にチューリップを育てたり、朝顔の種を撒いたりしたから得られた能力かな?
マスコットは冒険のサポート能力しかないから、花のお世話は出来なさそうだけど、菜園家と言う能力を持たせる事が出来る。
この能力は……微妙だけど、ミルアは喜ぶかな?
採取した植物をストレージを使って育ててくれるから、一応花のお世話も出来そうだ。
ミルアに一通り説明すると、その能力が欲しいと答えたので、花を開花させる能力と菜園家のマスコットを与えた。
ファーリーは僕とマリルゥの喜ぶ能力か……。
よし、それなら調理能力を付与して、マスコットには拠点化の能力を与えた。
マスコットを拠点化すると簡易的なテントが出来るので、どこでも寝泊まり出来る。
後はマリルゥだけだな。
周囲を見渡しても見つからなかったので、少し探してみると、木の影で一人でいたので、声を掛けてどんな能力がいいのかを聞いて見た。
「能力? なんでもいいの?」
「なんでもいいけど、付与できるのは僕の経験で得た能力に関する能力だけだから、希望通りの能力を得られるとは限らないよ。
マスコットの能力は冒険のサポート能力だけだね」
「それじゃあ、相手を惚れさせる能力とか?」
「魅了能力ならあるけど、それでいい?
アサギと一緒の能力になっちゃうけど」
「アサギと一緒? じゃあ駄目ね。
一番凄そうな能力言ってみて」
「一番凄そうな能力?
「じゃあそれでいいいわ。
冒険のサポートなら馬車とか出せないの?」
「馬車はないけど、タクシーならある」
「タクシー?」
「お金を払って目的地まで向かってくれる車の事だけど、実際に使ってみないとわからないかな」
「じゃあ、それで」
「適当だなー。
後で後悔しても知らないぞ?」
「大丈夫よ、使えなくても困らないから」
そう言う訳で、マリルゥには
さて、何もする事がなくなってしまった。
テレサはずっと埋め立てた通路付近で見張りをしてくれてるみたいだし、様子を見に第九階層の階段があった場所へと向かった。
テレサに声を掛けようとすると、人差し指を唇に当てた。
近づくと小声で今の状況を知らせてくれる。
「魔族達がこの辺りを探っている。
もしかしたら通路がバレたかもしれない」
「それは一大事だね。
皆に知らせて、戦闘準備を整える様に伝えてくるよ」
「うん、任せた」
ついに訪れてしまったと言う気持ちだ。
僕はコロニーにいる冒険者達に手当たり次第状況を報告して、戦闘準備を整えておくようにと伝えた。
僕達のパーティーも集合して戦いに備える。
ファーリーは能力は高いけど、実戦経験はないし不安だな。
それに、ミルアは明らかに戦えそうにない。
出来る事なら二人には街まで戻って欲しい所だけど、ここから二人だけを送り出すのも不安だ。
迷子にでもなれば餓死するまでダンジョンで彷徨う事になりそうだし。
そうこうしている内に、テレサが徐々に下がり、僕達の方へとやって来た。
テレサが大きく手を振って、他の冒険者達にも合図を出す。
いよいよ……来るか。
塞いであった壁が、弾け飛んだ。
魔法を使って穴を空けたみたいだな。
そして、ぞろぞろと魔族達が第八階層へと侵入してくる。
でも様子がおかしい。
今の所、戦闘をする感じではなさそうだ。
魔族達が入って来る中、一人の男に目を奪われる。
身体能力AAA魔法能力AAAだと?
最高がAと思っていたけど、その上があったのか。
見た目は多少派手ではあるけど、他の魔族とあまり変わらない。
けど、ただそこに居るだけで凄まじい威圧感を感じる。
あれは……魔王なのか?
緊迫した空気の中、その男が手を上げると、後から来た魔族達が引き返して行った。
そして、その男は腕を振り、一言こう告げた。
「殺せ」
その言葉を合図に一斉に魔族達が臨戦態勢に入り、突っ込んで来る。
相手は平均して能力が高いが、こっちの冒険者達も第八階層まで来た猛者ばかりだ。
最初の当たり合いは拮抗する。
しかし、僕のパーティーは魔族達を次々に倒していく。
あいつが動かない限りは僕達の方が圧倒的に強い。
ファーリーは光り輝く砂の様な物を操って攻撃している。
あれは魔法なのか?
発動する時にオールザラッハホロンと言っていた気がする。
スピードも速く、真面に当たった魔族達は殆ど一撃で倒している。
そして、意外な事に、ミルアも善戦している。
攻撃こそしている様には見えないけど、ミルアの周囲にいる魔族達の動きがおかしい。
混乱して同士討ちを始めたり、持っている武器を闇雲に振り回したり。
たぶん、幻術みたいな魔法を使っているのだと思う。
マリルゥは新しく覚えた
僕に攻撃した時もそうだったし、雷属性の魔法が得意なんだろう。
圧倒的な範囲と火力で魔族達を蹴散らしている。
テレサ、アイリス、セシリアの三人は連携して戦っている。
セシリアが前に出て、テレサが隙を突いて行く。
アイリスは持ち前のスピードを活かして魔族達を
皆上手く戦えている。
僕も傍に来た魔族達を倒しつつ、例の男への注意も怠らない。
皆の頑張りで魔族達の数は激減した。
再び例の男が腕を上げると、また魔族達がぞろぞろと中へ入って来る。
切りが無いな……でも、入って来た魔族達はまだ臨戦態勢に入っていない。
例の男は腕を下ろした後、前へ出てきた。
あいつが出てきただけで、こちらの前線が下がってしまった。
一歩も引かなかったのは僕のパーティーだけか……。
どうせ逃げ場はない。
僕達が生き残るには戦って勝つしかないだろう。
それなら。
僕が一歩前に出ようとしたその時、テレサが例の男に向かって走った。
テレサの攻撃が当たる直前に男の姿が消えた。
その直後、テレサは上空へと打ち上げられた。
テレサが相手の攻撃を真面に喰らったのを始めてみた。
あの感じ……テレサでもあの男の動きが殆ど見えていなかったのか……。
僕はアイリスとセシリアに引けと命じる。
勝てる見込みがあるとすれば、ファーリーとマリルゥの魔法だけだ。
僕は二人に魔法で攻撃をする様に指示を出す。
しかし、二人の魔法は男の魔法によって打ち消された。
あの男が使った黒い炎の様な魔法。
僕の魔法と対照的なその魔法は闇属性の魔法で間違いないと思う。
つまりあいつは……闇の使徒、もしくは闇の信徒で間違いないだろう。
でたらめな強さなわけだ。
打ち上げられていたテレサが地面に落下したけど、受け身を取り、距離を取った。
今は魔法で回復に専念している。
あいつを倒せる可能性。
もう一つしか残っていない。
僕がやるしかない!
手の平に魔力を集中させ、魔法を放つと、男の顔色が変わる。
そして、ニヤリと笑った。
男は僕の魔法を闇の魔法で打ち払い、距離を詰めてくる。
駄目だ、僕の力じゃ全然足りない。
攻撃を躱そうと後ろへ飛んだ瞬間、その何倍ものスピードで追いついて来て、叩き伏せられる。
地面に張り付いた僕は身動きが全く取れない程のダメージを負ってしまった。
能力に差がありすぎる……。
もう打つ手が無い。
けど、やれるだけの事はやってやる。
今できる最善の手は、仲間を逃がす事だ。
こいつがその気になれば、逃げだしたとしてもすぐに追い詰められるだろう。
けど、テレサの探知能力を活かせば、上手く逃げられるかもしれない。
本の僅かな希望に託す。
僕は立ち上がろうとした。
くそっ!
体が全く動かない!
いつの間にか闇の炎が僕の体に絡まっている……。
これのせいか!
僕は抜け出そうともがくと、どんどん強く縛り上げられていく。
魔力を集中して聖属性の魔法を使い、なんとか闇の炎を振り払う事が出来た。
僕がもがいている間に、マリルゥとファーリーも地に伏せていた。
よくもやってくれたな。
僕はありったけの魔力を練り上げ、製造性の魔法を放つ。
聖なる光の炎が巨大な渦を巻いて、男に向かって行く。
魔力を全て解き放った僕は膝を突き、絶望した。
僕の魔法はあっけなく躱されてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます