第13話
アサギを宰相に指名してから五日経った。
それまでの間はいつも通りの日課を送っているだけだったけど、大きな門出の前だ。
アイリスとセシリアがアイドルになってからは忙しすぎて、ずっとテレサのサポートをして貰う形になっていたからな。
二人が主役のライブもやりたい。
そういう訳で、テレサには今日一日、二人に振り付けや立ち回りなどを中心に、二人が主役として動けるように教育して貰っている。
僕はショーンに用があったので、彼を誘って酒場へとやってきた。
「調子はどうかな?」
「絶好調だよ!
いやぁ、コゼットさんとの出会いは俺にとって最高の出会いだったわけだ!
今日はどうした?
金の催促でもなんでも歓迎するぜ!」
「まだ名前は決まってないんだけど」
「おっ! また新しいアイドルの誕生か?」
「いや、国の名前」
「そうかー今度は国がアイドルって……そんなわけねーか!
国か……あー心当たりあるぜ。
スリンク王国の宰相ジャマル。
あいつとは関わって欲しくなかったんだけどなぁ……。
まーでも、丁度良かったと言うべきか、なんと言うか……。
こっちの国の貴族達がテレサちゃんに目を着けていたからな。
コゼットさんが他国の王になったんなら厄介払い出来たも同然だ」
「流石だね。
チケットやグッズの販売で忙しいのに、ちゃんと情報屋としても仕事をしている」
「ははっ当たり前じゃねーか。
んで、今日俺に会いに来たって事は建国した国の国民にならねーかって話か?」
「その通りだけど、ショーンには出来れば僕の国の貴族としてやっていって貰いたい」
「俺が貴族?
柄じゃねえけど、まあ、コゼットさんの頼みじゃ断れねえか。
自由にやらせて貰うが構わねえか?」
「最初からそのつもり。
それで、明日建国予定地へ移住するんだけど、その前に大きなライブを開催したい。
盛り上げられるだけ盛り上げてほしいんだけど、頼めるかな?」
「ああ、任せてくれ」
そして翌日。
ショーンは僕との約束通り、バザーと共に盛り上げてくれていた。
元々許可を取っていたので、街にある大きな広場でライブを開催する。
そして、テレサ、アイリス、セシリアと僕とでステージを召喚すると大きな歓声が聞こえた。
「準備はいいか?」
「私は今回サポート役だし問題ないよ」
「私も準備万端です」
「……。」
「アイリス?」
「大丈夫だ! 問題ない!」
困ったな。
アイリスがガチガチに緊張している。
セシリアは精神強化の付与のお陰か随分余裕そうにみえる。
「セシリア、今日は二人が主役なんだ。
アイリスは緊張しているし、いざとなったら助けてやるんだぞ」
「はい! 姉様の事は任せて下さい!」
アイリスは「私は大丈夫だ!」と言って頬を膨らませていたけど、大きな耳がペタンとなっているし、心配だな。
ステージにBGMが鳴り響く。
予定では軽くおしゃべりをしてから曲に入るのだが……。
“あっあ……今日は、キテクレ、テ、アリ――ガト”
大きな声援に交じって、どうしたんだと言うファン達のどよめきが波のように押し寄せる。
“はーい! 姉様に変わりまして、妹のセシリアが皆を紹介します!”
セシリアのフォローのお陰で、なんとか一曲目の準備が整った。
しかし、アイリスはまだガチガチで声も外すし、振り付けも曖昧になり、耳もペタンとしたまま瞼に涙を溜めていた。
一曲目の終了と共に歓声にまじってアイリスを応援する声も聞こえる。
ん? 馬鹿でかい声でアイリスを応援する声が……。
よっぱどのファンなのかと思い、視線をやるとアイリスとセシリアのグッズで完全武装しているファン? の集団を見つけた。
元ジール獣王国の難民……先頭には神輿の様に担ぎ上げられたジュラとライズが……。
それでもアイリスは上の空で必死になって出来る事をやろうとしているが全部から回ってアワアワと慌てふためいている。
すると……なんとジュラとライズが髪を赤く染め、周囲に強大なプレッシャーを与えた。
応援するのに
しかし、それに呼応するように、アイリスも
“皆ごめん! アイリス、頑張るから! 応援! よろしく!”
アイリスはここ一番で声を張り上げた!
どうやら吹っ切る事が出来たみたいだ。
アイリスは自分を取り戻し、持ち前の元気な姿をファン達に披露する。
ひとつ曲が終わるごとに声援が大きくなる。
そしてメインである二人の初めてのオリジナルソング。
昨晩出来たばかりの曲なので初のお披露目であり、ファン達からも期待が集まり、場内は熱狂につつまれた。
元ジール獣王国民達に向けて作られたその曲は少し悲しげでもあり、新しい生活をスタートさせる自分達が明るい未来に向かう為に当てられた曲でもあった。
二人共声のキーが高く、その二つの声は美しいハーモニーとなって場内にいる全てのファンを魅了し、明るい曲なのになぜか涙が込み上げてくる。
そんな曲にファン達はただただ、魅入られていく……。
その後も曲が一つ終わる度にアンコールが巻き起こり、何度か繰り返した後、最後に感謝の言葉が飛び交う中、アイリスが終幕の為の挨拶を行い幕を閉じた。
ステルス状態に入った僕達は、みんなそろって開拓地へと戻って来る。
ちょっとしたトラブルもあったけど、ライブは大成功だったと言えるだろう。
「アイリス、セシリア。
今日はよく頑張ってくれたね」
そう言って頭を撫でてあげると、アイリスは大泣きした。
きっと緊張の糸が途切れ、感情を抑えきれなくなったのだろう。
セシリアはしっぽをグルグルと回し、はにかんだで見せてくれた。
テレサも僕を覗き込むように下から僕を見上げて来る……。
まさか、頭を撫でて欲しいのか?
スッと手を出すと少し
すごく年上だし、失礼かなと思ってこういった行動はしていなかったけど、テレサも女の子なんだな……。
なんだか胸が高鳴ってきた……なんだろう?
ちょっと苦しいような、でも幸せな様な、そんな曖昧な感情が僕の心の奥深くに渦巻いた。
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