第5話
この街に来てから一月。
街の広間でのライブも週に一度、少しの時間だけなら許可を取る事が出来た。
テレサの実力が高いお陰で、瞬く間に街中でアイドルが認知される様になり、テレサブームに火が着いた。
いつも人に囲まれる事になってしまったけど、それはいい。
問題は、いつもテレサの隣にいる僕が結構喧嘩を吹っ掛けられてしまう事だろうか?
テレサに剣を教えて貰い、毎日続けているトレーニングの甲斐もあって、剣の腕はかなりのものになっている。
こっちの世界の体のお陰だと思うけど、魔力を循環させて以来、身体能力が飛躍的に上昇しているみたいだ。
テレサから見ても僕の身体能力、剣術の上達速度は異才だと言う。
身体能力Kのテレサがそう言っているし、もしかして僕はそれ以上の潜在能力だったりするのだろうか?
自分を観察して能力が分かればいいのにとは思うけど、見れないものは仕方がない。
もっと稽古して強くなるつもりだし、今の所は剣だけでも十分やっていけている。
そして、今日はショーンとの約束の日でもある。
ギルドでショーンに声を掛けると、場所を変えると言って、こぢんまりとした酒場へとやって来た。
店内には店主と、僕達二人だけ。
テレサはいつも通りダンジョンに潜っている。
ショーンはまだ昼間なのにお酒を頼み、僕も何も頼まないわけにもいかないからアルコールの入っていないものを頼んだ。
「コゼットさん、早速だけど約束のものは持って来たのかい?」
「持ってきたよ。
30万ガネー、確認して。
それと、僕の能力だけど――」
「ちょいと待ってくれ。
30万ガネー、確かに受け取った。
それで、コゼットさんの能力だけど、契約者限定って事で間違っちゃいない?」
「その通りだけど、僕の情報はそれだけでいいって事?」
「ああ、十分だ。
そして、これは俺からコゼットさんにだ。
受け取ってくれ」
そう言ってショーンが僕に差し出したのはバスケットボールくらいの大きさで、お金がパンパンに詰まった布袋。
いくらあるんだ?
こんなのお店で広げて数えてられないな。
「5000万ガネーある。
これで『アイドルプロダクション』のスポンサーを名乗らせてくれ」
「テレサのスポンサーじゃないの?」
「意地悪だなぁ。
アイドルだっけぇ?
テレサちゃんだけじゃなく、新しいアイドルが生まれるんじゃないのぉ?」
「そこまでお見通しなんだ。
でも、ショーンはスポンサーになって何をするつもり?
僕に支払った5000万ガネーを回収できる見込みはあるの?」
「コゼットさん、それ本気で言ってる?」
「……馬鹿にするつもりは無いんだ。
ただ、ショーンの持つ先見の目と言うか、どの程度先が見えているのかを確認するつもりでとぼけていた。
これからは、実益についての話をしよう。
今後の僕らのプランだけど、ライブを見る為にチケットを販売しようと思う」
「なるほどねぇ、動員数は減るが着た分だけ金になると」
「そう、そしてステージ内でアイドル達のグッズなんかを販売をする。
グッズはアイドル達を模した小物や写真とかね」
「ん-成程ぉ。
それで、もうチケットやグッズってのは用意してるのかい?」
「面白い事言わないで、今度はショーンが僕を揶揄っているの?
この話をしたのはショーンが初めてだよ」
「だって実は他にもう頼んでるなんて言われたら恥ずかしいじゃない?
だったら、チケットとグッズに関しては俺に任せてくれ。
取り分はどうする?」
「僕達の主目的はダンジョンの踏破とアイドルとしての活動。
お金は欲しいけど贅沢したいわけじゃない。
最低限の資金さえあれば十分なんだ。
だから、取り分はショーンが決めて構わない」
「そっかそっかー成程なるほどぉ。
俺の存在はコゼットさんにとっても都合が良かったわけか。
主目的以外の余計な部分に時間も悩みの種もいらないって訳だ」
「理解が速いね。
そう言う訳だから、全部ショーンに任せようと思う。
言うまでも無いとは思うけど、力不足だと感じた場合はスポンサーを降りて貰うよ」
「裏切り者には死をってか。
心配いらねぇ。
全部任せてくれ、信頼には答えるつもりだ」
「うん、頼んだ」
ショーンとの交渉が終わり、宿へ帰ると既にテレサが帰って来ていた。
ダンジョンに潜っていたにしては早い帰りだな。
僕の事が心配になったのかな?
なにか様子がおかしい。
珍しく焦った表情をしている。
「マスター……私はもう駄目かもしれない」
「ん? ダンジョンで何かあったの?」
「出ないんだ……」
「出ない? 何が?」
「うんちが出ない」
ああ、今更だ。
実は僕も出ない。
それに、体調も崩す事も無いし、肌が汚れても少し時間が経てば綺麗になる。
体臭も控えめで清涼感のあるいい香りがする様になっている。
「テレサ、よく聞いて。
アイドルはうんちしない!」
「なん……だと……」
「驚いている様だけど、僕のいた世界では常識なんだ」
「本気で言ってる!?
どういう原理なのかは分からないけど、それが本当なら助かった。
でも、そう言う大事な事は最初に教えていて欲しい。
本当に死ぬかと思ったんだぞ」
本当に死ぬかと思った?
いっそ野垂れ死んでもいいやって思っていた人の言葉とは思えない。
まぁ、不本意な死に方は嫌だと言う事かな。
「安心して。
僕の能力だから。
それにしても、大袈裟だね」
「大袈裟ではないぞ?
この世界で、自然死による死因の一割は糞詰まりと言われているんだぞ!」
そんな馬鹿な?
とは言えテレサの表情を見れば嘘をついている様には思えない。
この世界の人ってそんなに便秘に悩まされているのか……。
薬がないとは思えないし、そう言えば治療を行うにはオーダー教会へ行く必要があるんだった。
それに、奴隷もいる国だし、色々あるんだろうな。
ん? 奴隷か……。
「テレサ、二つ提案があるんだけど聞いてくれるかな?」
「構わないけど、どうしたの?」
「一つは、僕達の拠点となる家を買おうと思うんだ。
今後の事も考えて広い土地がいい」
「いいんじゃない?
街の外れなら広い土地が空いてると思うよ」
「二つめだけど、奴隷を買おうと思う」
「奴隷ね。
マスターの事だから不当な扱いはしないとは思うし、反対する理由はないけど、今の時期はおすすめしないかな?」
「時期? どうして?」
「ついこの間、約三年間続いていた戦争が終わったばかりなの。
どっちも小さな国だけど、一つは獣人族の国、ジール獣王国。
小さな国と言っても弱小国家と言うわけではなく、戦争においては負けなしだった。
獣人国家でも列強の一つに入る国よ」
「負けなし〝だった〟か。
つまり、ジール獣王国は負けたんだね」
「そう、相手は人族の国家で、こっちは逆に弱小国の一つに数えられていたスリンク王国」
「成程、言いたい事は分かったよ。
つまり、スリンク王国がどうやって勝利したのかは一先ず置いといて、奴隷市場にはジール獣王国の人が大量に売られていると。
そして、人族は相当恨みを買っているわけだね。
質問なんだけど、他にも獣人族の国はあるんでしょ?」
「小さな国家も合わせれば数えきれないくらいある。
一番大きな国はグエルマンと言う国で、私達のいるシーンヴィアス帝国とは友好国よ」
「そうなの?
獣人族だから奴隷にされてるって訳じゃないんだね。
それなら、友好国のグエルマンから獣人の奴隷を解放しろって言われたりはしないの?」
「獣人族が獣人族を奴隷にする事もあるからね。
強さこそ正義みたいな所あるから、戦争に負けた国の人間には人権は与えられないって話よ。
優しい人がいないわけじゃないけどね」
「わかった。
それなら、一度見て決める事にしよう。
話して見ないとどんな人達なのかもわからないしね」
「うん、他の種族との交流自体は悪くないと思う。
それじゃあ、まずは土地の方から済ませちゃおうか」
テレサに了承も得たので土地を買いに行く。
ショーンから受け取った5000万ガネーもあるし、足りないと言う事はないだろう。
まあ、足りなくても今までの稼ぎもあるから問題ない。
街の役場に行き、話を聞くと、土地自体は無料だった。
空いている土地なら勝手に開拓しても構わない。
何かしらの実績があれば開拓した土地が私有地として認められる制度になっているので、アイドル活動のお陰で開拓すればすぐに私有地として認めて貰える。
開拓して家の建築か……時間も掛かるだろうし人手が無いと大変そうだ。
「テレサ、開拓と建築って、業者に頼めばやってくれるのかな?」
「それは無理ね。
街外れの空いた土地の開拓なんて引き受けて貰えないよ」
「やっぱりそうだよね。
開拓すれば住めるんだから、中心地から離れれば離れる程治安が悪いだろうし、まだまだ発展途上だから仕事も沢山あるだろうしね」
「その通り。
時間は掛かるけど、ゆっくり開拓して理想のクランハウスを作ろう。
掘っ立て小屋でも立てれば、私達で見張りをして、職人達を護衛出来るから説得すれば聞き入れてくれる業者はいるんじゃないかな?」
「成程、それは良い案だ。
それじゃあ土地は後回しにして、奴隷市場へ行こう」
テレサに案内して貰い、奴隷市場へ到着する。
意外な事に、奴隷市場は普通の市場のすぐ近くにある。
薄暗い通りを抜けた先の闇市みたいな場所を想像していたけど、奴隷制度が認められているからこんな目立つ場所でも問題ないのか。
大きなテントの中へ入ると物凄く獣臭い。
まあ、獣人が多いと聞いているし、ここに捕らえられているから水浴びすらしてないだろう。
「いらっしゃいませ。
奴隷をお求めでしたら中を自由に見回ってください。
御用があればお伺い致します」
「わかった、それじゃあ適当に見せて貰うよ」
言葉使いは丁寧だけど、そっけないと言うか淡々とした話し方だ。
もっと悪そうな感じの商人が出て来て押し売りされるのかと想像していたから拍子抜けだな。
テレサに聞くと、奴隷商はみんなあんな感じらしい。
なんとなく理由は分かる。
買われた奴隷達の事を考えれば、奴隷と客、そのどちらとも接点を持たない方が商売的にはやりやすいんだろう。
奴隷を見て周ると、テレサの言っていた通り獣人ばかりだ。
それも、同じ特徴の。
耳としっぽの大きい狐っぽい獣人達だ。
人族や見ても分からない種族もいるな……。
獣人達を観察すると、身体能力が平均的に高いけど、魔法能力は控え目かな。
「おい! おい! こっちを見ろ! 私を買え!」
なんだ?
獣人族の小さな女の子に声を掛けられた。
僕の目から見ても幼く見えるし、10歳くらいかな?
それにしても……周りの獣人族は大人も子供も含めて一言もしゃべらない。
ん? この女の子……身体能力がHで獣人族なのに魔法能力がGだと?
……それに、見栄えも悪くない。
アイドルとして活動すれば人気も出るだろうし、逸材だな。
だけど、この子を買うには色々と問題もある。
人族を恨んだままじゃ、アイドル活動に支障が出る。
それに、奴隷としてアイドルをやれと命じてもある程度活動は出来るかもしれないけど、そんなやり方は僕が気にいらない。
本人がアイドルとして、やりがいを持って活動しなければ僕の理想としているアイドルプロジェクトにはならない。
だからこの子と契約を交わすなら、絶対的な信頼関係が必要だ。
その為にもまずは知る事から始める。
色々と揺さぶりをかけて、反応を確かめるとしよう。
「君を買ってもいいけど、僕は従順な奴隷が欲しいんだ。
君は随分と立場を弁えていないみたいだけど、もう少しお淑やかには出来ないの?」
「立場を弁えろだと?
私は獣王マカイルの娘、アイリス・サヴァッサ=カトリム・ジールだ!
立場を弁えるのはお前の方だ人族!
つべこべ言わず、私を買え!」
アイリス・サヴァッサ……長い名前だな。
とりあえず、今はアイリスと呼ばせて貰おう。
それに、国王の娘か。
きっと甘やかして育てられたからこんな我儘で支離滅裂な性格になってしまったんだろう。
まぁ、この子くらいの歳なら可愛らしいで済ませられてきたのかもしれない。
ん? 奥にアイリスと似た女の子がもう一人……身体能力E! それに、魔法能力もG!?
今までで一番潜在能力の高いアイリスを越えた逸材だ!
この子の事も知る必要が出来たな。
「そうだな、君とよく似たそっちの子の方が大人しそうで好みだ。
君、こっちきて話できる?」
僕が声を掛けると、奥に居る女の子は肩を
アイリスが割って入り「こいつはダメだ! 私の方がいい! 私を買え!」とアピールしてくる。
見た目も似ているし姉妹なのか?
となると……アイリスがこの子を庇っている様にも見えてきたな。
ん-……。
列強と呼ばれていたジール獣王国が弱小国家であるスリンク王国に敗れた……か。
憶測だけど、ジール獣王国は弱小国家相手に策謀なんてプライドと獣人の気性から選ばないだろう。
つまり、真正面からの真っ向勝負を挑んだはずだ。
しかし、スリンク王国は弱小国家。
列強であるジール獣王国相手に真正面からの戦いなんてするはずがない。
勝者がスリンク王国である以上、ありとあらゆる罠にハメて獣王国を蹂躙したに違い無い。
その事を考えると、他の獣人達が沈黙している意味も怪しく思えてきた。
彼等の牙はまだ抜かれていない。
ここに王家の娘がいるんだ。
新たな国家、あるいはジール獣王国の再建を企んでいるのかもしれない。
目には目を、歯には歯を。
策謀には策謀を持ってやり返す……なんて、流石に飛躍しすぎたか。
まあ、でも、仕返しくらいは企んでいてもおかしくはない。
その為にも、雇い主を殺して、アイリスが皆を逃がすとか?
能力が高いとは言え、こんな小さな子にそんな事を託すのか?
馬鹿な話だ。
僕が彼等の立場で、復讐を決めたのならそう言う行動を取るかもしれないけど、もう少し客観的に見ないといけない。
「店主、奥にいる子と話してみたいんだけど」
「畏まりました」
店主は奥に居る女の子に繋がっている鎖を牢の外から引っ張り、無理やり僕の前まで引き寄せた。
女の子は怯えて顔を伏せてしまう。
「少し手荒になりますが、無理やりしゃべらせてみますか?」
「そんな事をすれば僕の楽しみが減る。
却下だ。
でも、この子いいな。
こいつを買おう」
「畏まりました」
「待て! 私を買え! 私を買うべきだ!」
アイリスは私を買えの一点張り。
瞳も潤んでいるし、少し可哀想に思えてきた。
「そこの御仁。
少し、いいか?」
ん? 沈黙していた獣人の一人が僕に話しかけてきた。
壮年の男で見るからに強そうな体をした獣人。
「なんだ?」
「その二人は姉妹だ。
引きはがすのは、とても可哀想だ」
「僕にこの五月蠅い方も買えと?」
「そうだ、二人が可哀想だからだ」
「何故見ず知らずの奴隷の頼み事を僕が聞いてやらなきゃいけないんだ?」
「失礼した。
我が名はライズ。
高貴なる御仁であれば、我の様な小さき者の言葉にも耳を貸して貰えると思い、声を掛けた。
姉妹、親、兄弟。
皆、尊い。
引きはがすべきでは無い」
思い切り作り笑いしてるし、胡散臭い話だな。
それにこの人、言葉下手だなぁ……。
自国の姫を庇う訳でもなく、おすすめしてくるとかもう、あからさまじゃないか……。
アイリスを買えば明らかに何か仕掛けてくるんじゃないかと勘繰ってしまう。
あながち考えすぎと言うてわけでも無いかもしれない。
ライズの身体能力はJで魔法能力がM。
成人しているし、戦闘経験も豊富そうだ。
そのライズが自国の姫であるアイリスを誰かに買わせようとしてくるって事は、買われた先でアイリスがどうとでも出来る力を秘めている。
あるいは、物凄く嫌われているかのどちらかだろう。
このタイミングで沈黙を解いたと言う事は、前者と見た方がいいな。
そして、店主は何で泣いてるんだ……?
「わかった。
この五月蠅い方でも楽しんでやる」
僕が笑みを浮かべると、ライズの目が鋭く光る。
不器用な奴だ、殺気が漏れているぞ……。
奴隷市場を後にして、開拓予定地へと向かう。
あそこなら暴れても平気だし、アイリスも仕掛けやすいだろう。
「さて、アイリス。
あそこに居た大きな耳の奴隷達は王国民なんだろ?」
「そうだ!
だから私が稼いで皆を解放する!
私を冒険者にしろ!」
アイリスはいちいちピョンと飛びはねて僕に強くアピールしてくる。
元気なのはいいけど、もう少し落ち着いて欲しい。
それにしても、真面目に働いて奴隷達を買うつもりだったのか?
恥ずかしいな、やっぱり僕の考えすぎだったじゃないか。
アイリスは単純そうだし、嘘なんて付きそうにない。
それならライズが最後見せたあの感じは……ただ姫を解放する事が目的だった?
よく分からないな、何処の馬の骨か分からない人族に姫を託すだろうか?
矛盾を感じる。
買われた先でアイリスがどうとでも出来る力を秘めている……か。
それが正しいなら矛盾は無い。
僕としては二人の実力を知りたいし、アイドルとしてやっていけるかの資質を確かめる為にも、そろそろ仕掛けてみるか。
「アイリスが稼いで皆を解放するのか。
それなら僕があいつ等を買って解放してあげようか?」
「本当か!?
皆を買ってくれるのか?」
「ああ、君達二人が僕にとって価値があると証明してくれたらね」
「そうか、なんでも出来るぞ!
モンスターを倒す事が出来る!
護衛だって出来るぞ!
それに! セシリアはもっと凄いんだぞ!」
アイリスは戦闘に自信があるみたいだ。
セシリアと言うのは、アイリスの後ろに隠れてる子の事か……。
「セシリアと言うのか、君はアイリスの後ろに隠れてるだけで、何も出来ないのかい?」
「私は……戦えないです。
戦いたく……ない」
容姿は似ているけど、対照的な性格の姉妹だな。
この性格だとダンジョンで戦闘なんて出来ないし、アイドルとしてもやっていけないだろう。
しかし、潜在能力は高い。
きっかけさえあれば化けるのは分かっている。
プロデューサーの腕の見せ所だな。
開拓予定地にも着いたし、早速始めよう。
「さて、この辺りでいいか」
「ん? ここには何もないぞ?」
「うん、ここで二人の実力を確かめさせてもらう。
二人が僕にとって有用であれば、さっき言った通り奴隷になったアイリスの王国民達を僕が買ってあげよう」
「よし、わかった!
何をすればいいのだ?」
「とても簡単な事だよ。
僕と戦って君達が勝てばいい」
「倒せばよいのだな?
それじゃあ、私からいかせて貰うぞ!」
「私から? 二人纏めて掛かって来ても構わないんだぞ?」
「私一人で十分だ!
いくぞ!」
アイリスはやる気満々だ。
武器も無いのに早速僕に突っ込んで来た。
スピードは速いけど、攻撃は単調。
今の僕にとっては造作もなく躱せる。
紙一重で躱したはずけど……腕を少し切られた。
よく見るとアイリスの両手が光っている。
成程、獣が爪を武器にする様に、獣人族も爪の様な武器を持っていると言う事か。
アイリスの怒涛の攻撃が僕を襲う。
まだ速くなるのか。
あれからアイリスは更にスピード上げて僕を攻撃し続けている。
しかし、単調で動きが読みやすいので僕に攻撃が掠る事すらない。
少し頭を使ってフェイントも織り交ぜて来るけど、テレサを相手するよりもずっと楽だ。
「なぜ攻めて来ない!」
「こうして居れば、君は勝手に力尽きて動けなくなるだろう?」
「ずるいぞ人族!」
早くもアイリスの動きが鈍って来た。
思ったよりも体力あるな。
僕は、アイリスに攻撃する。
アイリスはその攻撃を大袈裟に躱して距離を取った。
ポテンシャルは高いけどやっぱりまだまだ未熟だな。
しかし、このスピードならダンジョンでも十分戦えそうだ。
「アイリス、君の力は僕にとって有用だ」
「おお、私を認めたか!
それなら――」
「いいや、まだだ。
アイリスの力は有用。
だけど、それは将来的にと言う話しだ。
セシリアはもっと凄いと言っていたな。
それを証明出来たら奴隷の王国民を解放してやる」
「セシリア!」
「姉様、私は……戦いたくない」
「セシリア、皆の為に戦うのだ!」
「姉様……わかりました。
戦います」
不本意だろうけど、セシリアも戦う気になってくれたか。
それにしても……セシリアはドシドシと無防備にこちらに歩いて近づいて来る。
なんだ?
臨戦態勢も取らずにただ歩いて来る。
王族だし、これから攻撃すると宣戦布告的な事でもするのか?
セシリアが間合いに入ると、普通に殴りかかって来た。
僕はそれを簡単に避ける……。
アイリスと比べればはるかにスピードは劣る。
流石にこれは……ダンジョンでも危ういだろう。
しばらく様子を見る為、セシリアの攻撃を交わし続けているがただ愚直に殴りかかって来るのみ。
しかも攻撃の時には足が止まっている。
次の攻撃を躱し、寸止めするつもりでカウンターのストレートを放つと、セシリアは僕の腕をガッシリと掴んだ。
これは……まずいぞ!?
振りほどこうとしてもビクともしない!
少し気は引けるが、地面に寝そべる形になってセシリアの顔を蹴り上げる。
下から突き上げる形で蹴り上げたのに、セシリアは僕の腕を離さないどころかダメージを負った事すら感じさせない。
もしかして、セシリアは防御に特化した身体能力を得ているのか?
それなら、かなりいいぞ!
セシリアはゆっくりと寝そべっている僕の上に乗り、マウントを取られた。
「私の勝ち……ですか?」
「凄いよセシリア!
二人共合格だ!」
セシリアは少し笑みを浮かべ、アイリスはそのセシリアを抱きしめて喜んでいる。
僕も立ち上げって土埃を払い、二人にもう一度賞賛の声を掛ける。
王国民の奴隷は何人くらいいたかな?
少し手痛い出費になってしまうけど、二人の信用を得られるのなら安いものだ。
殺気!?
突然背後にそれが現れた!
そして……この剣は……。
「テレサ……?
なぜ?」
腹部を背中から貫かれた僕は、その場に膝から崩れ落ちた。
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