私の体はバラバラ

一宮 沙耶

第1話 神谷 莉緒

 私は、神谷 莉緒。今日は、付き合っている三島 将生と一緒にレストランに来ているの。彼は、私の自慢。私には、人に自慢できる所はひとつもないから。将生は、アメリカのハーバード大学を出てて、日本で誰もが知ってる丸菱商事で働き、25歳なのに年俸が2,000万円もある。将生だけが唯一、私の自慢なの。


 私は、奈良の高校を出て、東京の女子大に入った。東京に憧れて、カフェ巡りとかしてインスタにアップしたりしながら東京生活を謳歌した。


 でも、実家はそれほど裕福じゃないし、私より可愛い子って、いっぱいいるし、いつも自信がなかった。だから、男性からも声かけられなかったんだろうし、自分からも積極的になれなくて、結局、大学時代には彼はできなかった。


 大学卒業後、一流の製薬会社に秘書で入社した。でも役員秘書なんて、日頃会うのはおじさんばかり。時々、課長クラスの人が役員のアポどりでくるけど、そんな人達は大抵、既婚者だから、交際の対象にはならないもんね。だから、付き合う人と出会うチャンスがない。


 別に、ガツガツしているわけじゃないけど、彼は欲しい。私に優しくしてくれる人で、甘えられる人。もし、できれば、私も、彼のためになんでもしてあげたい。これって、普通の願いよね。なんか、友達と話していても、私だけ、付き合った経験がないって、言いたくないじゃない。


 ある日、横に座ってる秘書から、丸菱商事の男性と合コンするんだけど女性1人足りないから来ないかと誘われた。一応、見栄張って、どうしようかなとか言ってみたけど、あの丸菱商事ならもちろんOK。1時間ぐらいに経ってから、予定確認したら、大丈夫だったから行くと答えた。


 合コンでは、オーラが半端じゃない将生の横に座ることになり、色々聞いていたら、年俸2,000万円なんだって。イケメンだし、これだと思ったわ。


 お店は暗かったし、お酒も入っていたので、自信がない容姿はあまり気にせずに、いつもより積極的になれた。いつもだと、端に座って、話しもしないけど、今日は、せっかくの特等席を他の女性に譲らず、いつもよりも明るくて高い声出してお酒を次いだり、話しを聞いて、すごいとか言いながら笑ってみた。


 将生は、誰にでも優しいのかもしれないけど、私のことを避ける気配はなかった。せっかくのチャンスだもの。なんとか、彼女になりたい。


 私のどこが気に入ったか分からないけど、数日後、将生から連絡があり、一緒に映画を見にいった。その後も、レストランで一緒に食事することが増え、なんとなく付き合っている関係かなと思えるようになった。これまで彼はいなかったので、男性とどう接すればいいのか分からず、いつも、将生に教わってばかり。私は、いつも甘えて、夢心に浸った。


 将生と会うとのは、いつも六本木で、なんで六本木ばかりなの、六本木が気に入っているのかなと少し不思議にも思った。でも、六本木にはおしゃれなお店も多いし、毎週誘ってくれる彼がいるということで、頭の中は幸せでいっぱいだったわ。


 そして、連絡があってからちょうど1ヶ月の日、夜の公園でのキスをしてくれた。そして、一緒に神戸とか旅行する約束をした。神戸では、夜、バスローブを着て恥ずかしかっていると、将生は優しく包んでくれた。朝、遊びに行く前にメークしてた時は、恥ずかしくて、ただ、笑っていた。


 今日は、何か話しがあるからって、夜景の見える六本木のミシュラン3つ星のフレンチに連れてきてくれた。話しって何? まさか結婚とかじゃないよね。まだ早いものね。なんだろう、海外転勤になったから、ついてきて欲しいとか? 同棲しようとかかな。


 お店に先に着いたけど、雰囲気はさすがね。やっぱり、将生が選ぶお店は違う。ずっと、私の彼でいてね。私には将生しかいないんだから、ずっと、大切にするわ。


 お料理は美味しくて、デザートまで出てきたけど、将生は話し出せないようで、結局、話しはなくレストランを出てしまった。あれ? なんだったんだろう? でも、同棲とか言うの、勇気がいるから、言い出せないっていうこともあるよね。私は、なんでもOKなのに。恥ずかしやがり屋なんだから。


 まだ一緒にいたら、話してくれるかもと思って、レストランが入っているホテルに泊まりたいと言ったら、部屋をとってくれてた。ワインを飲み直し、話しを待っていたけど、やっぱり言い出せないみたい。そして、今日は疲れているから、悪いけど、僕は寝るねと言われた。本当に疲れているみたいで、お仕事大変なんだなって思って、ゆっくり休んでねといいキスをした。


 将生の寝顔を見ながら、幸せを噛み締めた。ベットから起き上がり、ライトを消した部屋から見た夜景もとっても綺麗。将生と、ずっと、このような生活をしたい。

 

 朝になり、将生と別れるのは寂しいと伝えた。でも、僕も一緒にいたいけど、今日は大切な会議あって、会社に行かなくてはいけないんだと言われた。ちょっと拗ねて、下を向いていたけど、最後は笑顔でお見送りをした。


 その時、将生の鞄から床に手紙が落ちた。気づいた時には、将生はもうドアの外に出ちゃっていて、渡そうと思ったけど、まだ下着だったので、携帯にメッセンジャーを送り、今晩、渡すから、また会おうと伝えた。


 そして、服を着て、中野にある会社に向かった。六本木から新宿に行き、JRのホームにいるときだった。通勤でホームは混雑していて、最前列にいた私は、突然、ホームから転落し、突進してきた電車に轢かれた。こうして私は死んだ。

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