綻びゆく世界
遊bot
第1話 検証
『綻び』とは、本来は衣服の切れ端をさして使われる。衣服の端を適切に処理してなければ、そこから糸が抜け穴が空いてしまう様をさす言葉なのだ。
似た言葉に『解(ほど)ける』というのもある。
こちらも、衣服に穴が空く様を指しているのだが、どちらかといえば毛糸の洋服など、編み込む事で形をなしている衣服に使われる。
『綻び』と『解ける』。どちらも似た意味の言葉であるが、いま世界中でおきている現象はやはり『綻び』という方があてはまるのだろう。
そう。世界は、いままさに『綻び』つつあるのだ。
始まりはどこからかなのかはわからない。
気がつけば空が、山が、海が、街が、世界中のあらゆるところが『綻び』だしたのだ。
ある場所では、それと気がつかれずに、ゆっくりとゆっくりと『綻び』た。また別の場所では、何かが糸くずを引っ張っているかのように、急速に『綻び』ていった。
それを見た人々が、大きなパニックになったのは当然のことだろう。
なにせ世界の『綻び』は、生き物にさえ生じたのだから。
想像してみて欲しい。自分の体が、まるで糸を抜かれるかのように『綻び』ゆく様を……。
それは言葉に言い表せない恐怖でしかない。
そのため、人によって世界の『綻び』に対する行動は違った。
ある人々は"神の罰"として受け止め、宗教に救いを求めた。そして、宗教的儀式によって『綻び』から見を守ろうとした。
またある人々は、"自然現象"として受け止め、科学の力解明し、人の叡智で解決しようと奔走した。
しかし、どんな事をしても世界は時間とともに確実に『綻』んだ。
最後に人類が選んだ選択は、宇宙への脱出だった。
その時には、すでに『綻び』により消滅した国や、『綻び』に囲まれ孤立した国があった。
だが、残された人々は互いに助け合い、可能な限りの物資を宇宙に上げ、可能な限りの人類を宇宙へと逃がした。
それでも、自分の意志で『綻ぶ』世界に残る選択をした人々もいた。
私もその1人である。別に自暴自棄になったのだとか、生まれ育った地を離れるのが嫌だったという訳では無い。
私の通信端末に、いまでは『綻びた』はずの地域から通信が入ったのだ。
通信内容は、単なる企業広告であったのだが、だたそんな事は関係がない。
私にとって大事だったのは、『綻びた』地域から"通信が入った"という事実だった。
これにより、私にはある仮説を立てることができたのだ。
"電波"でなら『綻び』の先に行けるのではないかと……。
『綻び』の先にはいまだ世界が"ある"のではないのかと……。
私は、この2つの仮説を証明するために、この地に残ったのだ。
そして、これまで世界に起きた経緯をまとめ、私の仮説を証明できるよう、あらゆる方向に電波通信を行っている。
私の名はあんな。宮古杏奈(みやこあんな)。
最後の賭けに出るためこの通信をしています。
どうか、どうかこの通信を拾った方は、返事をください。
どうか誰かに届いてくれますように。
仮説が証明されれば、きっと……。きっと……。
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