第5話 ミティアライトの影像 4-⑷
港の風景はいつもと変わらず穏やかだった。
凪いだ海峡を行き来する貨物船を眺めているうちに、流介はそう言えば天馬が船を出すところを一度も見たことが無いということに思い当たった。
――いつも陸の出来事にばかりわずらわされ、船を出す暇もないということか。
しかし、と流介は思った。あの天才的な頭脳を持つ男がひとたび外海に漕ぎ出そうものなら、探検ではなく海賊にでもなってしまうのではないか。
そんなことを考えていると、目の前に小さな洋館を乗せた奇妙な船が見え始めた。天馬が己の才覚で作り上げた海を征く館『
果たして主は書斎にいるだろうか。流介は桟橋を渡って玄関の前に立つと「こんにちわあ」と声を張り上げた。するとややあって頭上から「やあ飛田さん、鍵は開いてますよ」といつもの朗らかな声が降ってきた。
玄関の扉を開け一階のロビーに足を踏み入れると、気配を察したのからせん階段の上から「どうぞ、いつものように二階にお越しください」と声が響いた。促されるまま二階に上がると海の見える大きな窓と左右に造りつけられた書棚、そして船の舵輪を背ににこやかな表情を浮かべている天馬の姿が目に入った。
「きょうはどうなさいました。また奇妙な事件に悩まされているのですか?」
「実はこの前話した多近顕三郎氏の事件についてなんだが……」
「やはりその話でしたか。では飛田さんが現在までに知り得た事柄を細大漏らさず、思い出せる限りここで僕に話してください」
美しい青年はとんでもない難題をさらりとふっかけると、天使の笑顔を見せた。
天馬は流介がうんうん唸りながら記憶を辿っている間も、のんびりした様子で外を眺めたり本棚の本を手に取ったりと優雅な態度を崩さなかった。
「――というわけで、あちこち抜けている部分もあると思うが気がつき次第、補足して行くので大目に見て欲しい」
「わかりました。では少しだけまとめる時間をください」
そう言うと天馬はしばし瞑目し、まるで彫像か何かのように数分間、その場に固まった。
「おいおい、いくら君の思考が複雑だからといって、長考にもほどがあるんじゃないか」
痺れを切らした流介が声をかけると、天馬は人形が命を吹き込まれたようにパッと目を見開いた。
「……大体のことはわかりました。ただ、これから僕が話すことは飛田さんのような方からすればあまりに突飛に聞こえるかもしれません。途中で疑問を抱かれたとしても、この男はどうかしているのだと思って最後まで聞いて欲しいのです」
「あ、ああわかったよ」
流介は天馬がここまで考え込むとなるとたぶん、普通の推理ではないに違いないと腹を括った。
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