第4話 キュンストレイキの立像 3-⑵


「実はあの事件の真相を突き止めようとしている人たちに、色々と吹き込まれまして……話が難しすぎて信じる信じない以前の状態なんですが……」


「なるほど。私はもう日本に来て長いので、英国の話題は港に来る母国の商人たちから聞くしかないのだが、今年に入ってまた新しい噂が仲間たちから入ってきているよ。なんでも疑わしい人間が多すぎて犯人の目星がつけられないのだそうだ。スコットランドヤードは時間が経っても一向に真相が明らかにならないことに参っているらしい」


「やはりそうですか……実は明後日の夕方、安奈君のカフェで催される『港町奇譚倶楽部』の例会でこの話題を取り上げるつもりなのだそうです」


「よいのではないかな。……どれ、私も商売仲間の英国人たちから仕入れられるだけの話を仕入れておくよ」


 ウィルソンがそう言って姿を消すと、流介は「やれやれ、なんだか随分と大きな騒動になってしまったな」と頭を抱えた。


                ※


「ふうむ、それはたぶんメスメルの動物磁気理論を下敷きにした磁気治療もどきでしょうな」


 流介の話を聞き終えた四辻よつつじ医師は、戸惑いの色を目に浮かべながら言った。


 四辻医師は二十軒坂の近くに治療院を開いており、とある騒動の時に天馬の紹介で話を聞きに来たことがきっかけで知り合いになったのだった。


「メスメル?」


「中世の人物ですよ。動物磁気理論自体、怪しい理論として既にすたれてしまっています」


 流介はなるほどとうなずいた。たしか布由も同じようなことを言っていた。


「布由さんは医学を学んでいると言っていましたが、本当なんでしょうか?」


「そうですね……メスメルの理論を応用していたからといって怪しい人物と決めつけるのは早い気がします。普通の西洋医学を学びつつ、過去に存在した療法も取り入れようとしているのかもしれませんし」


「ううむ、そうなると白黒つけがたくなるな……」


 流介が思わずため息をついた、その時だった。


「やあ、飛田さんじゃないですか。ここにいらっしゃるとは珍しいですね」


 流介と四辻医師が会話をして入る部屋にひょっこりと顔を出したのは、なんと天馬だった。


「天馬君か。ちょうどいい、安奈さんをつけ狙っている人物に関する手がかりを知れたんだが、君にも聞いてもらいたいんだ」


「手がかりですって?ぜひ聞かせて下さい」


 目を輝かせて身を乗り出した伝馬に、流介は礼太郎と百彦の話をかいつまんで話した。


「ふふ、興味深い人たちがいるものですね。覚えておくことにします」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る