第22話 世界の歪み
「せっかくアランの仲間が来たのだ。今日はご馳走を振舞わないとな」
村長の呼びかけに村人達は楽しそうに宴の準備をし始める。ただ見ているだけじゃ申し訳ないから五人は宴の準備を手伝うことにした。ベルとソフィアは女性と一緒に料理の手伝いを。ルフとアランは水汲みなどに力仕事を。ローは暇を持て余している子供達の面倒を見ることになった。
「なにこれ。初めて見るわ」
「確かにこれは初めて私も見た」
料理の材料を取りに、野菜や果物を村人の女性と向かった先にあったのはドーム型の建物。中に入ると暖かく緑が生い茂っているのを見て、ベルとソフィアは信じられない光景に驚きを隠さなかった。外はマイナスの世界。だが、ドームの中だと十度以上あるのだから、着ている服も相まって暑く感じられる。暗い外とは違い、火よりも明るい丸い何かが天井にぶら下がっている。
「あの丸いのどうやって光っているのかしら。火ではなさそう」
「あれかい? あれは電気で補っているんだよ」
「電気?」
丸い球体を指さしながら村人の女性は答えてくれたのだが、初めて聞く単語にベルは鵜日を傾げる。
「えぇ、そうよ。機械っていうのがいるでしょう? あれらを動かすエネルギーみたいなのを電気と呼んでいるのさ。彼らにはコアっていう核があってそれを引き抜いて様々な場所で補っているの。あれは電球というものよ」
「へぇ、すごいわね。これだけ暖かいと凍死する心配はないわ」
機械と聞いて以前、アランが鉄の悪魔のことをそう呼んでいたことをベルは思い出すと、感心をした。イグニス教では鉄の悪魔は食べれないからそのまま放置することが多い。もしもケラー教の人のように活用出来るようになれば、今いる部屋のように明るく暖かい場所が作れる。そうすれば凍死する人だけじゃなく餓死する人も少なくなるだろう。アランの槍といい、ケラー教の人の技術は優れていると実感させられる。
「この野菜とても鮮やかで好きよ」
「マトチかい? 私も好きよ。甘くて酸味があって美味しいよ。生でも食べられちゃう」
「生で? すごいわね。触るだけでも柔らかいもの」
「本当だ。美味しい」
「あっ! ソフィア勝手に食べちゃだめよ!」
「いいよいいよ。美味しいと言ってくれてマトチも喜んでるさ」
美味しそうに頬張るソフィアを見て慌てて謝るベルに対して村人の女性は怒ることなく、豪快に笑っていた。他にも見たことないような野菜や果物を収穫していき、台所へと向かうと鉄の固まりだらけで、故郷の土で出来たキッチンとは違って綺麗で感動してしまう。
「これ加工するの大変じゃなかった?」
「確かに大変ね。大体の力仕事は男の役目だけど、一応私達も技術は教えられたりするわ。このキッチンも私達が作ったしね」
ソフィアは境目のない鉄の板などを見て大変そうだなんて口にする。村の女性は確かにねと笑いながら言う。
「ねぇ、これ火をつける場所がないのだけど、どうしたらいいのかしら」
ベルの言葉にソフィアはそんな馬鹿なと思い、見に行くが確かに火をつける場所がない。鉄の板しかない。どうしようかと悩んでいる二人に村の女性は近づいていく。
「あぁ、これはね、ここのボタンを押すと熱が発生するのよ。火の調整は左に動かせば熱が弱まって、右に動かせば熱が強くなるの。面白いでしょう?他にも分からないことあれば遠慮なく聞いてね」
「うん、ありがとう! 本当にすごいのね」
それを聞くとベルは子供のようにはしゃぎながら、夢のようなキッチンだわなんていうものだからか、村の女性はまた嬉しそうな笑みを浮かべる。その後もケラー教の技術に興味を持ったベルやソフィアは、これはどう使うのかと聞くたびに村人の女性は説明をしながら逆に、イグニス教のことについてを聞いたりと楽しくおしゃべりをしながら、料理のお手伝いをしていくのであった。
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