第16話 異端な医者
「おはようルフ」
「おはようアラン。よく寝れた?」
「あぁ、おかげさまで。ルフは寝なくていいのか?寝ている間にご飯作るぞ」
「そう? じゃあ、仮眠させてもらおうかな」
くふぁと大きな欠伸をすると眠気が襲ってきた。アランの優しさに甘えて仮眠をすることになった。テントの中へと入り、横になると植物を切っているのかトントンと切る音が聞こえてくる。子守歌のように聞こえて安心したルフはゆっくりと瞼を閉じて眠りについた。
「ルフ、ご飯ができたぞ」
「んー、ありがとうアラン」
アランはテントを捲り、寝ているであろうルフを起こしに行く。その声が聞こえると眠たげに目をこすりながら身体を起こす。そして、テントを片づけた後にアランの隣に座る。今日はジャガーとトビーの炒め物のようだ。ジャガーのほくほくとした食感と、トビーの赤身の多いあっさりとしたお肉が美味しい。
「今日も美味しい料理ありがとう」
「あぁ、気にするな。オレはシンプルな料理しかできない」
ルフはアランの方を見て笑みを浮かべたが、アランからしたらよく分かっていないのか無表情で返事をする。褒められ慣れていなさそうだから、ある種の照れ隠しなのかなとルフは勝手に思っておいた。
「今日も医者見つからなかったね」
「……そうだな」
二日目も歩いて探索をしていたのだが、医者は見つからない。ベルの熱も下がらずにいる。流石にアランも考えるところがあるのか、料理を作りながらもベルがいるテントを気にしている。ルフも正直焦っていた。日に日に弱っていくベルを見ると、自分が代わりになれたならばと考えてしまう。
「明日が山場かもしれない」
アランはポツリと呟いた。ルフは聞こえているが反応ができなかった。ルフも分かっているのだ。これ以上はベルが保てるか分からない。今のままでは死んでしまう可能性の方が高いのだ。きゅっと唇を噛み締めて泣きそうになっているルフを見て、アランは頭を撫でた。
「まだ希望を捨てるな。医者が見つけると信じよう」
「……うん」
「ほら、まずはご飯を食べよう。明日も歩くからな」
差し出されたスープはいつもよりもしょっぱく感じた。ルフは考えたくなかったのだ。もしもベルが死んでしまったらということを考えたくなかった。いつも一緒にいたベル。いつでも味方になってくれたベル。気は強いけど本当は優しいベル。自分の人生の中でベルがいない時はなかった。だから、今失われようとしている現状が怖くて仕方がない。ベルという地盤を失ったときルフは果たして前に進めるのか。自信がなかった。
「今日はもう寝ろ。疲れただろう」
「……アラン。今日は一緒に見張りしてもいい? 一人が怖いんだ」
「分かった。じゃあ、一緒に傍にいよう」
ルフのことを心配してかアランは寝るように言うが、ルフが首を振ったので傍にいることにして、毛布をルフにかけた。すすり泣きが聞こえる空間は何処か足りなくて、寂しくて、冷たくて、ルフはアランにもたれ掛かっていた。アランは文句を言わずに支えていた。
「オレ、父さん探しているって話したろ。実はさ、謝りたいことがあるんだ。父さんに酷いことを言ってしまった。本当は謝りたかった。一緒に旅に連れて行って欲しかった。……だから、ルフ。オマエは後悔しない選択をし続けろ。もしもがある今だからこそ言うが、大事な人ほど素直に接した方がいい。……後悔を背負うのは苦しい」
「……うん」
パチパチと燃える炎は暗い世界を照らす。アランの言葉にルフは頷いた。アランはきっと自分のようになって欲しくないのだろう。この広い世界で何十年も前に旅立った父を探すのは、無謀の一言に尽きるのだろう。それでも探すのは後悔の念からだと伝わってくる。ルフは一瞬でも思った。自分が太陽を探すと言わなければ、ベルは今でも村にいて大事にされていたことだろう。でも、旅立ったことに後悔はなかった。それが、答えだったのだろう。二人は沈黙のまま明日を迎えることになる。ルフは今日こそ医者を見つけるのだと心に決めた。
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