イカロスの探求者

多田羅 和成

第1話 イグニスの邂逅

 世界には闇しか存在しない。凍て付く寒さと暗がりの中で鉄の悪魔と獣の軍勢に人々は成す術がなく、蹂躙されるしかなかった。絶望に打ちひしがれていると、一筋の赤い光が空から降り注ぐ。赤き光はこう告げた。


「我、イグニス。汝に希望を授けん」


 イグニスは各村の近くに神の箱を置き、火を授けた。火は氷のような寒さと先も見えない暗闇を照らす希望に、神の箱はモイラという神の加護を授け、鉄の悪魔と獣に打ち勝つ力をもたらした。


 人々はのちにイグニスを神として崇め、感謝の思いを彼を語り継ぐのであった。


「今日はインノ祭じゃ。皆よ、無事に帰るんじゃぞ」


 村長らしき男が祭壇の上で村の男に話しかける。男達はその問いに答えるように声をあげた。


 そんな中つまらなさそうにしている少年が一人。白くハーフアップバンクの髪に切れ長一重の淡い色合いの水色。幼くも男だと分かる顔立ちからはやる気が見受けられない。周りの男達はぞろぞろと獲物を得るために村の外へと出ていく。未だ出ていこうとしない少年に対して近づく影が一つ。


「ルフ! なにしているのよ! もう皆行っちゃうわよ!」


 ルフと呼ばれた少年はめんどくさそうに後ろにいる少女の方を向く。少女は炎を思わせる赤い髪を二つにくくり、レモンイエローの目は未だ行かないルフを睨みつけている。睨み付けられてたまったものじゃないとばかりにルフは肩をくすめる。


「そんな顔をしなくても行くよベル。さぼったら怒られてしまうし」


「当たり前でしょ。今日はインノ祭。イグニス神へ祈りを捧げる日なのだから。ほら、頑張ってらっしゃい」


 ベルが力強くルフの背中を叩けば、ルフは痛そうに背中をさすりゆっくりとした動きで大人達の後をついていく。その姿にベルはイグニス神に祈りを捧げ自分が行かねばいけない場所へと向かって行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る