真実よりも大事な罪
夜に書くアルファベット
アメリアとウィル
「20人もの若い女性殺した世界最恐のシリアルキラー二人組、ウィルとアメリアの死刑が執行される」
木々が枯れ始め、もうすぐ冬が来る月の初め。
アナウンサーは男と女の死刑囚の名前をカメラに向かって告げた。
私がFBIに入って6年。「犯罪」というものを学んで10年。
これほどまでの強い悪を私は見たことがない。
彼らは夫婦で殺人を犯しているという世にも珍しいケースなので、私はこの事件を教科書で見たし、この事件を知らない人はほとんどいないくらいとても有名な事件だった。
しかし、知名度の割にこの事件は解明されてないことが多く、謎に包まれていた。
わかっていることは
・”最低でも”20人の若い女性を殺して色々な場所に埋めているということ
・夫のウィルの方が主導して殺していたこと
・アメリアには娘がいたが、逮捕時に娘の姿は見当たらず、アメリアは「娘は夫に言われて殺した」と供述していること
・ウィルは典型的な社会病質者で、シリアルキラーの素質を元々持っていたこと
20人の女性の命を奪った事件にしては、わかっていることが少ない。
ウィルとアメリアは娘の遺体をどこに隠したのか、何人殺したのか、アメリアはどのようなことを手伝ったのか、死刑が執行する前に解明しないといけない。
そのために私は今、シリアルキラー夫婦の面接をするために向かっている。
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「協力感謝します。」
地元の警察が私に握手を求めてくる。
私は心理学でいうエンパス(共感力が高く、嘘や相手の挙動に敏感である気質)というもので、握手をするのもハグをするのも苦手だ。
エンパスのおかげで、こういう職業についているのも間違いではないので、自分の気質にはかなり自信を持っている。
「ごめんなさい。私は握手はしない主義なので。死刑まで後何時間ですか?」
「ああそうなんですね。あと9時間ちょっとです。」
「分かりました。早速面接に取り掛かりましょう。ウィルの方から話を聞きたいです。
マスコミなどの対応はこちらでやるので、こちらが支持するまで何も言わないでください。」
「分かりました。取調室はこちらです。」
案内された部屋に入ろうとする前に一回深呼吸をする。
社会病質を持っている人は、罪悪感というものを持つことができないため、論理と感情が通じない。
その上、目の前の相手に恐怖を植え付けることが大好きな人種だ。
発する言葉を予測することが不可能なので、こちら側の気が持って行かれないことが非常に大事である。死刑囚は失うものがない人間が多いからとても手強い。
主導権はあくまでもこちら側にある。これを忘れないようにしないといけない。
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「よお、FBIのお偉いさん」
取調室に入った瞬間、不快な笑みを向けられ不快な声で話しかけられる。
「女と喋るのは十数年ぶりだなぁ、記憶が蘇ってくる」
私の顔を見てニヤ、と笑い、ここに漂っている空気を胸いっぱいに吸い込む行為でさえ、とても性的に見えて、実に不快だ。
「お前は今日、死ぬ」
「そんなこたぁ分かってるさ。待ち侘びていたからな。だが言っておく。最後に何か聞き出そうったって無駄だ。最後の晩餐のメニューに想いを馳せているからな。」
「お前が殺したのは20人の女性で合ってるか?」
「少なくとも、な。ジャンクフードを目一杯食べるのはどうかなぁ?健康に悪いか?ははは。」
「他に殺した女性の名と遺体の場所を言え」
「おおい。そう焦るなよ。俺はお前と楽しく話がしたいんだ。ジョークにも笑ってくれよ。大体、これから死ぬ俺が俺だけの記憶を話すことに何のメリットがあるんだ。」
「お前がする最初で最後の善行だ」
「よせよ。まるで俺が悪い人間みたいじゃないか。」
「ああそう言ったんだ。逆にどんな善行をしたというんだ?」
「したさ。いろいろ。たとえば子育てとか。」
「だがお前はアメリアに娘を殺せと命令したらしいじゃないか」
「命令?あいつが率先してやったんだ!」
余裕がある話ぶりを変えなかった彼が、アメリアと息子の話になった途端、少し語気を強くした。まるでムキになっている子供のようだった。
罪悪感を感じることができないサイコパスは、愛をも感じることができないため、たとえ自分の血が通っている娘も愛してはいないはず。愛することができないどころか、他の被害者同様に性的な目で見て殺したいと思ったはずだ。自分の手で。
なぜアメリアに殺させたのだろうか。
そして何も情報を出さないアメリアが、まぜ娘を殺したことだけ自供したのだろうか。
このままこの夫婦と話していると何かが分かりそうな気がした。
しかし残された時間は9時間。時間がない。
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