第7話
「あっ、ご挨拶が遅れ申し訳ありません。タンハーレ王国聖女のリリシュと申します」
さぁ、でてこい貴族モードッ!お貴族様になりきるのだ!
「うむ。我は今代魔王アルティラスである。リリシュと呼んでもよいか?」
「はい。魔王様」
「アルティラスだ」
あ、これは名前で呼べということかしら?
「アルティラス様」
「うむ。まずは医者に見てもらうかの」
「いえ、そんな……」
「いや。顔も青白いしふらついておる」
いえ、これは緊張の糸が切れただけです……と言う前に
「クルル、部屋に案内を」
「はっ」
あら、どこからともなくメイドさんが……尻尾がゆらゆらしてますね。思わず目で追ってしまう。
「こやつはクルルという。リリシュの世話を頼んだ」
「よろしくお願いいたします。リリシュ様」
「あ、あの……こちらこそ」
黒い髪にのおかっぱ頭で金の瞳。もふもふの耳と艶やかな尻尾をしたクルルさんに落ち着く雰囲気のお部屋に案内してもらいました。
ふらついていた割には尻尾を追いかけていたら転ぶことも倒れることもなく到着していたようです。わたし、小心者だと思ってたけど結構図太い気がしてきたな、うん。
「リリシュ様、こちらへ」
「え?いや、あの……」
「お部屋が気になるのもわかりますが、まずは休息を……部屋は逃げませんので後でゆっくりと」
「……はい」
クルルさんに押し込まれるようにベットに横になり……柔らかいベッドに感動していたのにいつの間にか寝てしまったようです。
◇ ◇ ◇
久しぶりにぐっすり熟睡し、いい気分で目覚めるとクルルさんからお医者さんの診察があることを聞きました。
「おはようございます。リリシュと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。私はリリシュ様の医師を務めさせていただくドゥルワと申します」
ドゥルワさんは魔人族の女性で艶やかな真紅の髪を後ろでまとめ、耳が尖っている以外は人族とあまり変わらない姿の方。
わざわざ女性の医師を呼び寄せてくれていたそう。多分、わたしの周囲のひとたちも見た目などでわたしが萎縮しないよう人族に近い姿の方をアルティラス様が選ばれたみたい。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「早速ですが、診察してもよろしいでしょうか?」
あれ、もしかして昨日から待たせちゃったんじゃないっ?
「えっと……はい。あっ、ちょっとだけ待ってもらえますか」
昨日は疲れ果ててそのままだったんだけど、身につけたもの出すの忘れてたわ。その割にぐっすりだったんだから、ずいぶん疲労が溜まってたんだなぁ。
布団の中でゴソゴソと取り出していく……くっ、こんな時に服の紐が絡まるなんて……はぁ。
「リリシュ様、何かお手伝いいたしましょうか」
「えっと、恥ずかしながら荷物をですね……」
「荷物……ですか?」
クルルさんは不思議そうに首を傾げた。たしかに昨日、手ぶらだったのに荷物って言われても困るか。
「いやぁ……服の下に持ってきたんですけど服の紐が絡まって取れなくて」
「お手伝いさせていただきますね」
「……はい」
クルルさんに任せるとほんの数秒で絡まっていたひもが解かれた。
一番上の聖女服をさっさと脱ぎ、紐の絡まっていた服を脱ぎ、さらにその下の服を脱ぎ……と重ね着していたものをどんどん脱いでいく。クルルさんはそのそばから畳んだりクローゼットへ持っていってくれた。
足にくくりつけた鞄も取り出し、その中に胸や胴体に隠した貴重品をしまい込んでいく。
「あ、これで最後です!」
ふう、身軽になったなー!
今思えば、よくこれだけを1人で身につけられたと思う……ヤケクソだったし、奴らに何ひとつ残したくないって変なテンションでやりきったんだよね……脱ぐだけなのに疲れたわ。
「あらあら、これは思った以上に不味いわ」
「ええ、いくらなんでも細すぎですっ!」
「え、こんなものですよ?」
「いえ!あきらかに栄養不足です!くらっとしたことは?」
「あー、たまに?」
荷物や服の重ね着で膨らんでいた体型が元に戻ったらふたりが思っていた以上に細かったらしい……それはアルティラス様にも伝わりちょっとした騒ぎとなった。
「リリシュ!どうしてこんなに細いのだっ」
「え?どうしてと言われましても……」
「魔王様、まだ診察が終わっておりませんので……」
「しかしっ」
「魔王様の前で診察しろと?リリシュさまだって恥ずかしいのでは?」
「た、たしかに」
「うぅむ。終わったらすぐに呼ぶように」
「「はっ」」
栄養不足、睡眠不足と診断されとにかく数日はゆっくり休みなさいと言いつけられてしまいました。
アルティラス様のご命令で3日どころか10日ほどのんびりとさせてもらった。
ご飯まで上げ膳据え膳で美味しかったが、なんだかこんなにのんびりしていいのか戸惑ってしまう。
部屋はシンプルだがあたたかみのあるもので統一されおり、すべてアルティラス様がわたしのために用意してくださったそう。
見た目はシンプルだけどものすごく高価なものばかりな気がして壊したりしないように注意して行動している……応接間や書斎だけでなく、ウォークインクローゼットや浴室まで扉で繋がっていたのでものすごく広い。
アルティラス様は日に何度か代々の聖女のことが書いてある本やおやつをもって訪ねてきてくださり、食べられるなら少しでも食べなさいって餌付けされてる気分。でも、甘くっておいしいからぺろりと食べちゃう。
内装が気に入らなければいくらでも変えると言われたけど、今まで暮らしていた部屋と比べるまでもなく豪華で快適ですと伝えた。
「そうだ、リリシュ。これをつけるとよいぞ」
「これは?」
アルティラス様は石のついたネックレスを差し出してきたので恭しく受け取った。
「うむ。叔母上から聖魔法では身を守る術が少ないと聞いたのだ」
「そうですね」
万能に思われがちな聖魔法だけど、聖魔法は傷や病気を治す、瘴気を浄化するのが主で結界などは張ることはできない。そして、自身の怪我や病気には効かないという弱点もある。聖女に護衛がつくのはそういう理由もあるのだ。
「うむ。我の使える防御魔法やらなにやらを詰め込んでおいた。そこらの魔物程度なら何てことないぞ」
「あ、ありがとうございます」
この真ん中についてるの魔石だよね?今までみたどの魔石より透明度が高いんだけど……ものすごく希少なやつなんじゃ……
「これで、魔力で体を覆わなくて済むな。魔力の消費も激しいであろう?」
「え?」
なんか、聞いたことない話でてきたぞ?
「ん?」
「あの、魔力で体を覆うとはどういう意味でしょうか?」
「クルル、リリシュは無意識なのか?」
「魔王様。恐れながら……無意識のようです」
「ふむ。そうか……リリシュ。そなた常に魔力で体を覆っておるぞ?てっきり、身を守るためかと思っておったわ」
「そうなのですね。聖魔法も自己流で使っていたので……」
魔力、無駄遣いしてたのか……くそ、教会め!きちんと指導してくれないからこんなことになるんだぞ!
「うむ。近いうちに教師を派遣……いや、ドゥルワがいいか?」
「魔王様。ドゥルワなら体調にも注意しつつ指導できるかと……女性ですし(ぼそっ)」
「うむ。それはそうだな!リリシュもそれでよいか?」
「はいっ!」
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