04 久しぶりのイヴェル領
イヴェル侯爵領へは、棺桶移動ではなくてヴェリテ城に来たときと同じようにカトルによる舟での送迎だった。里帰り期間は一週間と定められ、また同じ時間に迎えの船を寄越してくれるらしい。
ローズレイ公爵から与えられた里帰り中の注意事項としては、日光に極力当たらない、極力長袖の衣服を着用して肌を晒さないようにするということだった。【
気を付ける、と告げて地下港から舟に乗り込むとき、見送りに来てくれたのはローズレイ公爵だけだった。
すまないね、と苦笑しながら公爵が言う。
「ルイは拗ねているんだ」
「拗ね……えっと」
「君がルイを置いていくのが嫌だと駄々を捏ねているのさ。まるで子供だよ」
おいていく、という言葉が胸にぐさりと刺さった。
いまシルフィールがしていることはそれに他ならないことに、自分だけは気づいている。初めて自分に優しくしてくれた温かいひとたちを騙してきたツケを、いま払っているのだと思うとさらに胸がじくじくと痛んだ。
「それにルイも立て込んでいてね――君が帰る頃には解決しているだろう」
立て込んでいる、という言葉に集落へ連れて行ってもらったときルイが住民と話していた内容をふとシルフィールは思い出した。
「あ……っと、もしかして青光石を許可なく採掘している者がいるっていう」
「そうだ。よく知っているね【蕾姫】……つい昨日、採掘していた男たちを捕らえたから誰の命によるものかをきちんと彼らの口から教えてもらうつもりだよ」
そう言ってローズレイ公爵は片目を瞑ったが、なんとなく背筋が寒くなった。なんとしてでも聞き出すつもりなのだろう。顔には出していなくても察してしまった。そのためには詳しく知らない方がいいような手段を取ることも考えられる。
シルフィールは半笑いの表情で別れの挨拶を終え、舟に乗り込んだ。
二度目とはいえ海に揺られる感覚はいつまで経っても慣れない。こみ上げる吐き気を堪えながら薄暗い夜の海を一艘の舟が岸に向かう。しばらくするとちらちらとオレンジの灯がともっているのが見えた。
海上を照らすイヴェル領の灯台――そして迎えの馬車がシルフィールを待っていた。
イヴェル侯爵の邸宅に着いたのは深夜で使用人もほとんど眠りに就いていた。護送されるように部屋まで送り届けられ、外側から鍵が掛けられた。
半分ぐらい予想はしていたが酷い扱いである。
寝台がある部屋に入れてもらえただけマシというものだろう。
普段は白布で家具を覆い物置のようになっている部屋は埃っぽくて、城での優雅な暮らしに慣れた身には少々堪えたが――使用人の頃の二人部屋とはくらべものにならない、待遇の良さだった。
シルフィールは窓辺に立つとカーテンを閉め、ぺらぺらのふとんに潜り込んで目を閉じた。黴と埃のにおいが漂う部屋の中で自分の咳音で何度か目が醒めたが、それ以外はまあ、快適には過ごすことは出来たのだった。
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