02 いざ出発、移動方法は――棺桶⁉
ヴェリテ城があるローズレイ領は島である。セゾニア王国の王都ミニュイはシルフィールの故郷であるイヴェル領よりさらに北東に在った。
「移動って、船ですよね……」
出立の日、旅装に着替えアンにまとめてもらった荷物をルイに奪われ、シルフィールはヴェリテ城の廊下を小走りについていった。
またあの長い階段を降りて、しかも今度は長距離を船酔い覚悟で移動――なかなかにハードな行程を覚悟していたのだがとうのルイは「ああ、そういう方法もあるか」とすっとぼけたことを言った。
いや、逆に聞きたいけれどそれ以外の方法なんてあります――? と思っていたシルフィールだったが、たどり着いたのは毎度お馴染の棺が大集合している広間だった。
城から領民が暮らす集落に行ったときにも訪れたし、なんだかんだ立ち入ることが多いので、あまり不気味という感覚も薄れつつある。いまとなっては棺桶を椅子にして読書が出来るくらいになじみつつある。
まあそんなのんびり優雅な生活も、王都ではできなくなるのだろうけれど。名残惜しく思いながらもルイが足を止めたことで、目的地がこの広間であったことが確定してしまった。
「……まさか」
「二人とも、準備は出来ているかい?」
ローズレイ公爵が、前回外出するときに使ったのとよく似た大きな石棺の前に立っていた。いやまさか、そんなまさか。城の外に出る抜け道と繋がっているとされれば、それなりに納得できる。
が、今回は以前とは明らかにようすが異なる――!
ずももも、と濃紫の雲のようなものが中で渦巻いているのが見える。あ、怪しい。棺桶だからとかそういう理由とは別の意味で不気味がすぎた。
「こここここ、これ、中、どうなっているんですか……⁉」
「この石棺を王都にある石棺と繋げてあるんだ。向こうにいるヴァン――カトルたちと同じ眷属だけれど――に蓋を開けておくように言っておいたから」
なんてことないようにローズレイ公爵は言った。隣でルイが嘆息しながら補足する。
「この中に入れば一瞬で、王都ミニュイに着くってこと」
「あはは……そんなまさかぁ。冗談ですよね」
「疑うくらいなら確かめた方が早いよ」
ルイが手にしていたシルフィールの鞄を放り投げる。
ずむ、ごっきゅん、とその紫の煙を出す棺桶が子豚程度の大きさがある鞄を呑み込んでしまった。
「ひぇ……」
なんだかグロテスクに思えて若干引いていたのを察したのか、ルイがぐい、とシルフィールの手を引いた。
「え、ちょ、待ってくださ……」
言いかけたシルフィールの声は巨大な石棺の中に沈んでいった。
紫の雲にぺろりと平らげられる瞬間、見送りに訪れていたカトルとアンがひらひらと手を振っているのが見えた。
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