第5話 ︎︎双樹の交わり
「で、でも、それじゃあセーベルハンザは何が狙いなの? ︎︎一方的に搾取されるなら和平なんて結ぶはずがないわ」
和平というのは、力が拮抗している国同士でしか成り立たない。
カミルはひとつ頷くと、幼い
「セーベルハンザの狙いは鉄鉱石、そして食料だ。この国は
「それなら尚更戦をする意味が無いじゃない! ︎︎ただ和平を結べば済む話よ。何故そうしないの」
憤る
「それが二つ目の理由だ。戦には大金が動く。武器や防具、兵糧を集めなければならないからな。それらはどこから来ると思う?」
突然の問に、パチリと瞬くと、震える声が漏れる。
「まさか……他国も関与しているの……?」
カミルは無言で頷く。その表情は険しい。
「エディシェイダは知っているか?」
その名前に
「当たり前よ……この大陸一の勢力を誇る大国じゃない。鉄器工業が盛んで、海の外にも販路を伸ばしている軍国主義国家だわ」
エディシェイダはセーベルハンザと
その歴史は血生臭く、幾度もの大戦を繰り返し、領土を広げていった。内海より先はエディシェイダが統治する領土だ。皇帝が治め、多くの属国が従っている。
セーベルハンザや
「セーベルハンザと
初夜のために飾られた
カミルはその陰謀を止めようとしている。
「貴方はそれを止められるの?」
たかだか十三の小娘一人が加わったとして、何か変わるのか。
しかし、カミルは力強く頷く。
「ああ、止めてみせる」
きっぱりと言い切ってみせたカミルに、
「いいわ。私も貴方に賭ける。どうせ死ぬ身だもの。足掻いてやろうじゃない」
その笑顔は、酷く大人びていた。婚礼衣装なのもあって、妙な色気を含んでいる。思わずカミルが頬に手を伸ばしかけると、
「じゃあ、まずは何をすればいい? ︎︎貴方の計画で、私に利用価値があるから誘ったのでしょう?」
蠱惑的な美しさに呑まれていたカミルは、やり場のない手を挙動不審に動かしながら、たどたどしく説明していく。
「あ、ああ。そうだな。お前、この国の言葉は分からないんだよな? ︎︎ずっと共通語使ってるし、そう聞いているんだが」
若干馬鹿にしているとも取れる言い方に、
「ええ、そうよ。悪い? ︎︎私は後宮の片隅に追いやられて、存在さえ忘れられていたのよ。共通語や最低限の教養は母が教えてくれたけど、外国語は範疇外」
ぷいっと顔を逸らす幼い妻に、カミルは失敗したと慌てた。なんとか機嫌を治そうと言葉を選ぶ。
「いや、そういうつもりじゃなくて……お前に間者をしてほしいんだ。言葉を覚えて、でもそれを隠す。無知な子供を装えば、口を滑らせる奴らもいるだろうからな。例えば、ハレムの茶会とか」
しかし、ハレムというある種の自治区とも言える場所は、女の情念が渦巻く
そんな場所で、自分は何を成すべきなのか。
戻った視線に、カミルはほっと胸を撫で下ろし、続きを口にする。
「王太子は自分のハレムを持っている。お前は兄弟である第三王子の花嫁として茶会に呼ばれるはずだ。そこで王太子について調べてくれ。こちらでも調べてはいるが、中々表に出てこなくて難儀している。ハレムには主人である王太子しか男は入れない。侍女として配下を潜入させているが、序列が厳しくて近付けないようなんだ。気に入りの姫でも分かれば、そこから探りを入れられる。頼めるか?」
王太子のハレム。
おそらく、呼ばれる理由は喜ばしいものでは無いだろう。珍獣の観察か、はたまた牽制されるか。
カミルが心配げに視線を寄越すと、
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