2023.11.7
母親、———いやその呼び方はやめよう。例のあの女は人間じゃない。奸計の使い手。不幸を撒き散らす毒虫。醜い自意識の発酵物。あの女の口から発せられる言葉に一つとして真意は無い。主を虜にする邪な蛇の舌。嘘に真実を織り込み人心を惑わせる太古の悪霊。あの女はとっくの昔に人間を辞めている。
あの女の下で私は人を不幸にする人間に育て上げられた。私はまだ二十四だけど、私には一生のうちには幸せな日が来ないことを既に悟っている。私は、破滅と苦悶の人生を、不幸に終わる運命を、背負って生まれてきたのだ。
破滅はいつも私の傍に。
アナベルはいつも私の背後に。
泣いている時はいつだって声をかけてくれるのが家族なんじゃないのか?これは家族からはおよそかけ離れている。これではただの雑居房だ。さうとも、劣悪な雑居房。死を待つ人の家。いつまでもここに居れば待つものはただ一つ、破滅だ。死んだ方がましな苦しみが待っている。
世の中の誰一人、自分の人生を気にかけてくれる者が居ない時、お前はどうする?もしもついに何者にもなれず大成できずおびただしい数の有象無象の中の一人に過ぎない存在として、しかもそのことをすっかり受け容れてしまって「良い人生だった、良い人生だった」と耄碌老人のうわ言を繰り返しながら永遠の虚無の中に溶けていく運命にあると既に決まっているとしたら?
「今すべきことは?」
————時計の針を早めるんだよ。
どうせ変えられない運命なら、こっちから飛び込んで、飲み込んで、切り刻むしかないんだよ。できないのは分かってる。だけど永遠に苦しみ続けるのは嫌だろう?
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