ド底辺Web作家の僕を初期から応援してくれてる超古参読者はどうやら同じ学校の学年一の美少女らしい〜とある拍子で人気作家になってからなぜか彼女の機嫌が悪い〜
星宮 亜玖愛
プロローグ
どぉん、どぉん、と花火が爆ぜる音が遠くからする。
今僕は走って花火が見える特等席に向かっている。
「はぁ、はぁ、はぁ」
駆け抜けた先には木々が開け、花火が真正面から見える場所に立っていた。
色鮮やかな火球が漆黒の空を色とりどりに埋めていく。
華々しい形は、やがて形を失い地に落ちていく。でも、次の瞬間にはまた新たな色で空を埋めている。
「あぁ、綺麗だ……」
片田舎の片隅で呟く声は漆黒の夜空に破裂音と共に溶けていく。
僕とあの子の物語の全ては、この日に始まっていた———
♦︎♦︎♦︎♦︎
「よし!できた!」
僕はスマホを手に持ち1人呟く。
「客観視、客観視!」
そして僕はまた一通りスマホに目を通す。
「よし、面白い。更新しよう!」
僕は右上にある青い公開ボタンをタップする。
「今日も見てくれるかな…?」
高校一年生、
でもそんな僕の作品を毎回見て応援してコメントをくれる方がいる。
アカウント名は@7Sea、いつか会ってお礼を言えたらいいなといつも思っている。
「あ!やっべ、じいちゃんもう待ってるかも」
そう呟き僕は急いで支度をした。
♢♢♢♢
「ごめんじいちゃん、待った?」
俺は家の隣に位置するじいちゃんの工房に顔を出した。
「大丈夫。ほれ、準備しなさい?」
じいちゃんは僕に優しく言った。
僕のじいちゃんは花火師だ。うちは田舎だからここら辺で上がる花火はほとんどじいちゃんが作った物だ。
僕はそんな花火師のじいちゃんの見習いをしている。と言ってもまだ資格も何もないからじいちゃんから知識を教えてもらってるだけだけど。
僕はじいちゃんから教えてもらったその知識をweb小説に活かしている。
「裕涼、花火師ってもんはな、どれだけその花火玉に思いを込められるかが大切なんじゃ」
じいちゃんはこのことを口癖のようにいつも言う。
その言葉の通り、じいちゃんの花火は見てて心を奪われるだけじゃなく花火が自我を持ったように何かを訴えかけてくるような感覚に陥るのだ。
「歳を取って物覚えが悪くなってきてもな、花火玉に気持ちを込めることに関しては衰えては無いぞ?」
そう言ってじいちゃんは「はっはっは」と努めて明るく笑った。
本当は一週間後に控えている地元の夏祭りの花火を制作するのに根詰めて大変なはずなのに…
本当は辛いはずなのにじいちゃんはいつも明るく楽しそうにしている。
僕はそんなじいちゃんが大好きだった。
だから花火師を継いでくれ、と母とじいちゃん言われた時は正直嬉しかった。
でも、僕には今花火師では無い他の夢がある…
♢♢♢
「今日はここまでじゃな」
「うん。今日もありがとう、じいちゃん」
工房を出て夜風にあたりながら家に帰る。
ぴろん!
その音に僕は足を止めスマホを取り出す。それはweb小説サイトからの通知だった。
『今日も更新ありがとうございます!とっても面白かったです!!
実は私の地元でも今度夏祭りがあって花火が上がるんですよねー。
さらゆ。さんの作品を思い出しながら眺めたいと思ってます!』
そう、花火師では無い僕の夢は小説家になることだ——
♢♢♢
「おはようー」
「おはよ!」
次の日学校に登校すると生徒たちの元気の良い挨拶が聞こえてきた。
僕は近くの高校には通わず電車に乗って片道1時間半の少し栄えた場所にある高校に通っていた。
小中学生の時は地元の学校に通っていたため、人数も少なくほぼ全員が知り合いと言った感じだった。
でも今通っている高校は生徒数もそこそこおり、全員が知り合いどころか同じ学年内でも顔も名前も分からない人がいるくらいだ。
悲しいことに正直友達は少ない方だと思っている。
まぁそんなんでも楽しくやっていけてるのだから問題は無いと思う。
「おはよおおおお!!」
そんなことを考えていると数少ない友人が背後から飛び乗って攻撃(?)をしてきた。
「おはよ
「そりゃそーだよ!なにせよ今日は待ちに待った夏大の背番号発表だからね!」
柊優は硬式野球部に所属しており、1年生ながら試合にもスタメンで出場するほどの実力の持ち主である。
ちなみにうちの高校は公立ながら毎年県大会ベスト16とか8とかまでは行ってるらしい。
俗に言う強豪校と中堅校の間くらいの位置付けだ。
「まあ、頑張って?」
「おう!ありがとなー!」
そんな雑談をしつつ柊優と共に教室に向かう。
するととあるタイミングで周りがざわついた。
「なんだ?」
「あー、あれだよあれ」
柊優がそう言って指を指した先にいたのは学年…いや、学校一の美少女と言われている
「あー、そゆことね」
「七海さん、可愛いよな」
「たしかになぁ」
「彼女欲しいなぁ…」
「モテるやつのそのセリフは嫌味にしか聞こえないよ」
実際のところ柊優はモテる。
漫画とかの世界のようにあからさまにモテるって訳では無いが、柊優に密かに恋心を抱いている女子は沢山いるのだ。
「だから俺はモテてないって、それより裕涼のこと好きなやつの方がいっぱいいるって」
「僕みたいな陰キャ誰が好きになるんだよ」
「いるかもじゃん!」
「根拠ないのかよ…」
そう言って僕は柊優にジト目を向けた。
実際僕はとてつもなく陰キャだ。
前髪は目まで隠れるほどの陰キャっぷり、オマケにメガネまでしているという始末。
これを陰キャと言わずしてなんというんだよ。
しかも一人称が「僕」の理由は、小学校の頃までは「俺」と言っていたが中学に上がった頃から人と話すのが苦手になり、自分に自信が持てず人間関係もめんどくさくなり、「僕」と言ってモブAとして空気に溶けていったからだ。
そんな過去があるから今も数少ない友人とだけ接して後は空気として毎日を過ごしている。
「ま、どちらにせよ彼女ができるか出来ないかってのも僕には程遠い話だ」
そう話を区切ったと同時に僕たちの教室に着いたようだ。
「そんなことより今日の数1の小テストちゃんと勉強してきた?」
僕が柊優にそう尋ねるとあからさまに目を泳がして下手な口笛を吹いていた。
「あ、当たり前だろ…?ビャービュー♪」
「いや、嘘下手すぎか」
さすがにこれは突っ込まざるを得なかった。
「しょうがないから要点だけまとめたノート見せてあげるよ」
「ありがとう心の友よ〜!」
そう言って柊優は俺に泣きついてきた。
「陽キャの柊優に陰キャの僕が泣きつかれるとか目立っちゃうからやめてくれ、しかものここ教室」
俺は耳元で呟くと、柊優は悲しそうな顔をしてゆっくり離れてった。
「え、柊優くん陰キャに泣きついてたんですけど」
「柊優くんあの陰キャに脅されてる…?」
周りのつぶやく声がしっかりと俺の耳まで届く。
「はぁ…」
「ちょっと俺行ってくる」
「や、いいって。僕のせいで柊優が面倒事に巻き込まれるのは嫌だから、ね?」
さっき僕が柊優のことを脅してるだとかどうとか言ってた女子の元へ行こうとする柊優の腕を掴んで引き止める。
面倒事はごめんなんだ、僕が我慢すれば終わる話なら我慢すればいい。
そう、心にいい聞かせて。
「まぁ裕涼がいいって言うなら」
「うん、ほら席座ろ?」
そう言って僕は席についた。
前の席の柊優と他愛のない雑談をしながら今日も一日が終わる——そう思っていた。
「天音Web小説で好きな作家さんがいるの」
柊優はトイレに行ってくると言って席を外しているため、僕はある一点を見つめながらぼんやりとしていた。
すると学校一の美少女である七海さん達の会話が耳に入ってくる。
「ずっと前から応援してる作家さんで人気はあんまりないんだけどその人の書く作品が大好きなの」
あーあ、僕も人生で1度は好きな作家さんって誰かに言ってもらいたいな。
いっつも僕の作品見てくれる@7seaさんも今の僕を見たら幻滅するんだろうな。
「なんて言う人なのー?」
学校一の美少女ともある方がどんな作家さんの作品を読むのか俺もぜひ聞きたいところだ。
なんか盗み聞きしてる感じで悪い気がするなぁ…
友達に聞かれた七海さんは満面の笑みで答える。
「その人の名前はね、「さらゆ。」さんって人なのっ!」
ふむふむ?……………え?なんて??
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