第23話 無自覚

 私のタブレットの初期設定が未完了で使用できなく、急きょ前の席の郷くんのタブレットを一緒に使用しながら授業を受ける事になった。


 郷くんの机の横に椅子を置いて座っている私は、膝の上に筆記用具を乗せて授業を受けるスタイル。


 郷くんには講堂でキラキラ文房具を見られているから、気にしないで使うと決めた。


 でも本心は恥ずかしいですよ。だって私の中身、男ですから。


 郷くんはタブレットを机ギリギリに置いて私によく見えるように気遣ってくれてる。だけどその位置だと自分が見えないんじゃないかな。しかも自分の机なのに端っこすぎない?


 私だけ見えてもしょうがないからタブレットを移動させようとしたら、どもりながらも、そこでいいって言うから、もうちょっと近くにきたら? って言ったら、そっぽを向いて無反応。


 むむぅ。女の子に慣れてないのか、はたまた女の子が嫌いなのか。それとも私がダメなのか。


 ……郷くんよ。こんな姿してるけど私は男なんだ。君と同じ男なんだ。だからもっと気楽にいこうよ。


 そうだ! この機会に仲良くなって男の輪を広げるのいいかも! よく考えたらクラスの男の子と話しするのこれが初めてだし。


 男なんて女の子と違って機微に聡いヤツなんていないだろうから女の子といるよりバレる確率がグッと下がるんじゃないか? むしろ男といた方が断然いいじゃん!


 名案きたコレ!!


 ……とすると、まずは郷くんと仲良くならねば。


 でも、会話が成り立たないんだよねぇ。


「郷をあまりいじめちゃだめだよ。ほら見てみなよ、固まっちゃってるし」


 あいかさんが声をかけてくる。


 ちょっとあんまりな言い草じゃない? 誰がいじめたって? 私? 私なの? 


「変なこと言わないでください。郷さんのタブレットなのに本人が見えないからもっと近くにって言っただけですから」


 郷くんと意思疎通が出来てないけど、これからだから。


「わかってないなぁ。沙月ちゃんもっと自覚した方がいいよ〜」


 ちょっと苦笑いであいかさんが言ったけど、意味がよくわからない。そんな姿を見てあいかさんが、そのずれもまた良いんだけどね。って。


 はぁ。言いたい事はあるけど、一旦保留にしよう。


 今は男の輪を広げるためのきっかけをこの郷くんから始めるんだ!


 てことで、とりあえず郷くん。そろそろ反応しなさい。


「郷さん。周りから私があなたの事をいじめているように見えているようです。タブレットの位置を変えるか、もしくは私に近づいてほしいのですが」


 私の言葉を聞いた郷くんはタブレットの位置を変えるため手を伸ばす。


 そっちを選んだかぁ。それだと郷くんと少し距離があるから話しづらくなっちゃうな。


「出来ればこちらに近づいてもらった方が私的にはいいのですが」


 !!


 郷くんがこちらを見る。


「ダメですか?」


 このチャンス逃してなるものか! 恥ずかしいけどやってやる!


 ここで扇木さん直伝のお願いフェイス発動、あんど胸の前で両手を組むお祈りポーズ! これでどうだ!!


 !!!!


「だだだだだだだっ……だっ……だっ!」


 機関銃でも打ち出したかのような事を言ったと思ったら急に椅子から立ち上がった。


 ちょ、ちょっと、どうしたのよ? みんなびっくりして見てるじゃない。


「郷、どうしたんだ? 急に立ち上がって」


 郷くんの奇妙な行動に先生がこちらにやってくる。


「おい、郷! 返事しろっ……て、あー……なるほどな。東雲、悪いが桃原のタブレットを使ってくれ。桃原もいいよな?」


 私達の前まできた先生が郷くんを見て、それからお祈りポーズのままになってる私を見るなり言ってきた。


「はい。わかりました先生!」


 この状況に即座に反応する桃原あいかさん。


 先生が郷くんに座れ。って言って無理矢理座らせてから、あいかさんに頼んだぞ。と言って教壇に戻って行った。


「それじゃあ沙月ちゃん。こっちにおいで〜」


 ……結局はこうなるのね。私は渋々あいかさんの方へ椅子を寄せる。


 にっこにこ笑顔のあいかさん。


「からかい過ぎちゃた結果だよねぇ。でもそのおかげで沙月ちゃんと一緒だから問題なしだよ!」


 なぜこうなったかわらない。だけどひとつだけわかったことがある。それは男の輪計画が白紙になったことだ。


 郷くんを見れば心ここに在らずってかんじの顔になってる。


 何がいけなかったのだろう? からかってもいじめてもいないのに。


 本気で悩む私だった。



--------------


お読みいただき感謝いたします。

沙月は鈍感ではありませんが自分の容姿評価はかなり低いです。

次話も読んでもらえたら嬉しいです。

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