第12話 ヒロインはモブでいたい

 先輩こと新湖駿あらこ はやお二年生の話を簡潔に説明すると、自主映画の出演オファーだった。文化祭に上映したいらしく、新湖先輩をリーダーとして数名でチームを結成して取り組んでいるんだって。


 ただ、メインヒロインがまだ決まってないらしく今朝、扇木さんと一緒に歩いてた私を偶然目撃した新湖先輩が自分が思い描いていたヒロインにピッタリ当てはまったらしい。


 なんとまぁ。……とんだとばっちりだ。


 自主とはいえ映画に出演するなんで嫌だ。しかも脇役じゃなくメインヒロインとしてなんて絶対に嫌だ。ヒロインだよ? ヒロインってことは女性だよ。


 何故に好き好んでこの姿を世間に見せないといけいないのか。ただでさえ女装がバレないかビクビクしているのに映画なんかに出演できるか!


 今は講堂内に設置してあるオープンラウンジに移動して私と美里さん、新湖先輩の三人で話をしている。


 成り行きとはいえ美里さんを巻き込んでしまったことに申し訳なさが生まれる。


「出演してもらえるかな?」


 さてさて、どうやって断ろう。嫌です。って素直に言って引く先輩ではないような気がする。


 美里さんを見る。誤解が解けたことで新湖先輩にあたりが強かった美里さんも落ち着いて話を聞いている。


「沙月さんの判断で良いでしょう」


 ま、そりゃそうだ。美里さんは関係ないし。


「ただ、うちの高校の芸能科は関連業界に有名です。自主映画もそれなりに注目されていますわ。そして新湖駿先輩は『あんたの名前は。』や『つばめの戸開き』で有名な新湖誠の息子よ。名前を聞いて思い出したわ」


 えっ、あの超有名な監督の息子? まじですかぁ。


「……まぁそうなんだけど、あまり親父の名前を出してほしくないかな」


「失礼しました。先輩の知名度はかなり高かったのでつい」


「え~、俺のこと知っててあの対応だったの?」


「知名度が高いのは名前だけですよ。もし知っていてもあなたが行った行為を認めることはできませんが」


「あはは、俺の悪いクセで興奮すると周りが見えなくなっちゃうんだよねぇ、ごめん」


「大和黎明高校の生徒として自覚を持ってください。とくにあなたは上級生なのですから誤解を招くような言葉で下級生を怖がらせたりしないでください」


「……はい、気をつけます」


 しゅんとなる新湖先輩と凛としている美里さんを見てるとどちらが先輩かわからないな。


 ともあれ先輩の自主映画がかなり注目を浴びていることが判明した。


「私にお声をかけていただき光栄ですが、そもそも演技をしたことがありませんし、大勢の方に見せるような姿でもございません」


 男の俺が現在進行形で女の子として演技をしていることは内緒だ。


「演技はこちらの指示に従ってもらえば大丈夫な内容だよ。それに謙遜する容姿ではないことは俺と長瀬さんが保証するよ」


 うんうんと頷く美里さん。こんな時にまで気遣いはいりませんよ!


「……内容もわかりませんし、それに体力についても不安がありますので」


「ん? 体力?」


「はい、実は私、昨日まで自宅療養していて今日が初登校なのです。あまり無理をし過ぎると周りの皆様にご迷惑をおかけする結果となりますので……お誘いいただいたのに申し訳ございません」


 ぺこりと頭を下げる。


「あ~、なるほど。道理で君を今まで見かけなかったわけだ。……うん、わかった。ちょっとシナリオいじって出直してくる」


「あっ、ちょっ」


 そう言うと新湖先輩はガバっと椅子から立ち上がりその場からいなくなった。


 ……


「自由な先輩ですね」


「ええ、芸能科はその性質上あのようなタイプの人間が多いそうよ」


 そうなのですね。と相槌をうつ。


「二年生の進級は自分が行きたい科を選択するのだけれど、限られた生徒しか芸能科にいけないの」


 へぇーそうなんだ。その辺りはまだ勉強不足で知らなかった。扇木さんから私は総合進学科ってしか聞いていなかったから。


「もう少し校内を案内するつもりだったけど、先輩の話を聞いてたら時間なくなっちゃったわ。今日はこの辺にしましょう」


 私はそうですね。と返事をして美里さんと一緒に立ち上がった。


「…らや…いわ」


 ん? 美里さんが何か言った? 気のせいかな。


「さ、行きましょ」


 その後は何事もなく無事帰路に着いた私であった。



--------------


最後までお読みいただき感謝いたします。

まさか芸能科があるとは。都会の私立はすごいです!

次話も読んでいただきたいです^ ^



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