第14話 逃避、そして拘束
「これはこれはミシェウ殿楽しそうでしたな──」
ミシェウは汗をかいて、父上から目をそらしゆっくりと後ずさりする。
「これから会議だというのに、どこへ行ってたんですかな?」
顎をカタカタとさせて、びくびくしている。怖がっているのが、私からも理解できた。
「えっ……あっ。その──いろいろとあって」
「また、占星術とかいうやつですかな? この──うつけ姫が、この後の会議。どうするんですかな?」
「どうせ参加したってやることないし、風邪ってことで。決定には従うからさぁ……」
ミシェウは、お父様から目をそらして指をつんつんしている。そんな煮え切らない態度にお父様……額をぴくぴくと動かして、イライラしているのがわかる。
「さあミシェウ、ドレスを着て軍事作戦に参加するのです。王家として、命令です!」
真剣な表情で、1歩ずつ迫るお父様。その姿にミシェウは汗をだらだらと汗を流し同じだけの距離を一歩一歩ずつずさりした。
そして──。
「ごめん、今日は風邪ってことで!!」
そう言ってくるりと体を反転させて走ってこの場から立ち去ろうとしたのだ。
「私は自由!! フリーダム」
いつもこうだ。何度言ってもミシェウはこうで──。
「させるかぁぁぁ! ミシェウをひっとらえろ!!」
お父様が叫ぶと、建物の影や部屋から何人もの兵士が出てきてミシェウを追いかけ始めた。
追いかけっこ、私も後から追いかけるが──ミシェウ足速っ!!
「追っかけっこなら慣れてるもんね。簡単に、捕まるもんですか! 私は、自由だぁぁぁ~~」
他の兵士たちも振り切ってしまいそうな勢い。そんな中、前方にメイド服を着た女の人が出現した。
「させません!」
なんと、ララーナまでもが登場。きょとんとしていると、視線が合って話しかけてきた。
「ちょっと、どうしてあなたまで?」
「コルウィル様から協力してほしいとたのまれたんです。ミシェウを捕らえるのに協力してほしいと」
そしてパッと右手をかざすと、右手が黄色く光り始めた。初めて見た、何これ……。
ララーナは、こっちを振り返って言った。
「これが、秘密兵器です。大丈夫です、怪我はさせませんから」
ミシェウに向かってかざした右手から人のサイズほどの円形の、紋章のようなものが現れる。
そして、紋章は一直線に逃げていくミシェウの方へと向かっていく、ミシェウの腰あたりに直撃すると、一瞬紋章が白く光った後ミシェウの体にとりつくような形で動きが止まった。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
「観念してください。今のミシェウ様では、逃げられません」
星の形をした、平らで円形の紋章。ミシェウの体と手足はそれに縛られて拘束されたようになっている。走って逃げていた状況から急に拘束されたせいで、前に体が転がって倒れこんでしまう。
「ちょっと、動けないんだけど!! 助けて、私に自由を与えて、フリ~~ダム!! フリーダム!!!」
苦しみもがいて、何とか逃れようとするが、拘束は全く動かない。暴れるミシェウに、ゆっくりとララーナが近づいた。
「さあ、ドレスを用意していますから着替えて会議に参加してください」
「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ──暑苦しいドレスなんか着たくな~~い
「ミシェウ様はお嬢様なんだから、我慢してください!」
ミシェウにとって、ああいった息苦しい服は性に合わないのだろう。やっぱり、お嬢様なんて柄じゃないのがわかる。やんちゃ娘。
「お外に出て、精いっぱい実験したい!!」
「姫様、シャマシュ様──父上やほかの貴族達が待っています」
嫌そうに暴れるミシェウ。こういった会議に顔を出すことだって、貴族との信頼を構築することに大事だ。嫌がっていても、さぼるわけにはいかない。優しく肩をゆすって言った。
「一緒に行きましょう? そしたら実験協力しますから」
優しく語り掛けると、涙目でこっちをじっと見つめてきた。かわいい。
「本当?」
「はい、協力します。だから行きましょう」
ミシェウは、もがくのをやめて顔をぷくっと膨らませながら言った。
「わかったわ……行けばいいんでしょ、行けば」
まあ、政務に関する会議ならわざわざドレスでなくてもいいと思うんだけど、周囲に対する評判とか威厳もある。権威を周囲に保つには、豪華な服装の方が都合がいい。少しでも権威が守られるようにする必要がある。
これから、国は大変なことになる。それでもミシェウに賛同する味方を増やすためにもできるだけ味方は増やしておきたい。
やれることは、すべてやる。それから、拘束を解除して私の部屋を貸す。
「どう?」
恥ずかしそうにその姿を見せてくる。大きな胸元とセクシーな肩が強調された、ミシェウの髪と同じオレンジを基調としたフリフリのついたドレス。ついつい、胸元に視線が言ってしまう。
「うん、とってもかわいいわ」
「本当に?? う~ん、動きづらい……」
「同感です。活発的なミシェウ様にとっても似合ってると思います」
自身のドレス姿を困惑した表情で見まわすミシェウにララーナが続けて言う。ミシェウの表情がどこか柔らかくなっていくのがわかる。ララーナは、こういう時自分がどう立ち回ればいいかわかってる。
そしてこの会議、私の復讐にとって今後重要なものになる。
絶対に、うまく立ち回っていきたい。ミシェウを犠牲になんかさせないために。
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