不思議な女教師
彩花の機嫌も戻り、しばらく彩花と智也の3人で話をしていると見るからに美人といった容姿の女教師が教室に入ってくる。恐らくこの人がこのクラスの担任なのだろう。
女教師は教室に入ってくるも一言も話すことなく、教卓の置かれている辺りで後ろの黒板にもたれるようにしながら目を瞑っている。
「あの人が担任の先生……だよね?」
「多分……?」
「まぁ、そうなんだろうけど……」
彩花の問に対して、俺と智也は少し自信なさげに答える。俺達以外のクラスメイトも俺達と似たような心境なのかボソボソとした囁き声があちこちから聞こえてくる。それから、誰かが指示を出した訳でもないにも関わらず各々の自席に向かい着席していた。
どれくらいだろうか? 時計を見れば2分程しか経過していないのだが、体感時間だともっと長く感じるような奇妙な時間を過ごしていると不意にチャイムが鳴り始める。
「……ん? おぉ、偉いなお前ら。チャイムが鳴る前に席に着いてるなんて」
「「「「「……………」」」」」
「なんか、雰囲気が暗くないか?」
お前のせいだよ! っと誰もが心の中で思ったことだろう。この担任は何なんだ? 教室に入ってくるなり、挨拶もなく黒板にもたれて目を閉じて黙りこくっていると思ったら今度はまるで普通の教師のように振舞ったり。担任の教師についてまるで意味が分からないと思ったのは人生でも初めての経験であった。
「まぁ、いいか。ふわぁ~。いかんな。数分寝た程度だとまだまだ眠い……」
「……あの先生」
「ん? なんだ?」
「もしかして、教室に入ってきてから寝ていたんですか……?」
よくぞ聞いてくれた! っとクラスの大半の人が思ったことだろう。誰だか知らないが、俺としても気になったのは事実なので心の中で素直に感謝しておく。
「あぁ、そうだが? ここ最近忙しくて寝不足でなぁ」
「あぁ、そうなんですね。お疲れ様です」
「あぁ。今回こそはイベント上位を狙うしかないからな。推しのイベントなんだ。これはもう頑張るしかないだろ?」
「は、はぁ……」
そう言って女教師は手をワキワキと動かしゲームのイベントであることをアピールする。恐らくあの手の動きはスマホゲームの何かしらのリズムゲームだろう。それに推しだ何だの言っているということは……そのクール系美人の見た目で中身はオタクなんですか……。それも寝不足になるまでやり込んでいるあたり、かなりのオタクなのだろう。世の中、見た目だけじゃ人は分からないということを改めて再認識した瞬間であった。
「おっと、そろそろ教室を出ないと入学式に遅れてしまうな。全員そのまま出席番号順に2列に廊下にでて並んでくれ」
「「「「はーい」」」」
俺達は指示された通りに教室を出て出席番号順に整列する。
「なんか、面白い先生だな」
「面白い……というか、変わった先生だ」
「どうやら俺は運がいいみたいだ」
「先生が美人だからか?」
「違ぇよ。悠だけじゃなくてあの担任の教師も面白そうだ。俺はこの1年間退屈することは無さそうだと思ってな」
「なんだそれ」
俺がそう言うと智也は嬉しそうに笑っているが、俺としてはあの変わった教師と一緒にされたのは思うところがあった。それ以前に俺は高校生活も陰キャとして教室の隅っこで地味で平穏な日々を送りたいと思っているので、智也ともすぐに関わらなくなるだろうと俺は考えている。
それからも智也と軽く話しながら担任の教師に先導されながら歩いていると体育館の入口まで辿り着き、そこでしばらく待たされていた。
「それでは、新入生の入場です。皆様、拍手でお迎えください」
「よし、それじゃあ行くぞ」
そう言って担任の教師が体育館に入っていくので俺達もそれに続くようにして、保護者の方々や教師達の拍手の音を耳にしながら進んでいくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます