05 エルフ、新メンバーの紹介をする

 夜になって、そういえばメリイさんの紹介をしっかりとしていないなということに思い当たる。

 そのことを彼女に告げ、簡単な自己紹介タイムを設けたいと言うとメリイさんはすんなりと了承してくれた。


 ただ、探索者ギルドが俺に持ちかけた「拠点を造り、充実させて欲しい」という依頼のことは伏せさせて欲しいとのことだ。機密ってやつなのだろう。


「ダンジョンクラフト部のまひろです」

「同じく新メンバーのメリイです」


 世界樹の中にある拠点、その中にある談話室を使って撮影をしている。俺とメリイさんは並んで木の椅子に腰をかけていて、俺の膝元にシロガネがべったりと甘えている。

 空中に浮かんでいるスマホにお辞儀。洪水のように流れていくコメント。こういうところからピンポイントで話が広がりそうなコメントを選んでいくのも大事な要素……らしい。


『こんこん』

『青空ったーに上げてたよね、新メンバーの自己紹介枠』

『助かる』


「俺は迷宮の中で面識があったからいいんだけれど、みんなは分からないからね。ここ一日の流れがよく分かってなかったと思うから、そこの補足も込めて自己紹介枠をやるよー」


「あはは……。たしかに見られたら恥ずかしいこととかあったから、映像をオフにしていてくれたのはありがたいんですよね」


『美少女二人。見られたら恥ずかしいこと……』

『キテル……』

『つ、強すぎる……』


 ……なんか変な勘違いをされている気がするけれど、まあいいか。

 ブランクはあれども世界ランキングに載っていた人が罠にかかっているところを映像として流すのはプライドとかに傷をつける行為だしね。


 あとはギルドとの契約のこともあるから、勘違いしてくれるならそちらのほうがいいのかもしれない。


「もう色々と呼んじゃってますけれど、まず探索者名義ギルドネームを教えてください」


「これはもう本名の柊メリイで通していますね。まひろさんは今まで通りメリイでいいですよ?」


「では……メリイさんで」


「ちぇー」


 呼び捨てにしたことって一度もないからね?


 メリイさんは不満そうに口をとがらせてはいるが、その実嬉しそうに眉根を下げてはいる。俺が彼女にばかり接していると、シロガネがおでこを俺のすねになすりつけてくるので、前屈みになって大きな甘えん坊のあごを撫でてやる。


 続けてメリイさんはこう述懐する。


「探索者としては元素魔法と神の奇跡を使えます。それ以外はからっきしなので探索技能はまひろさんとシロガネ君におんぶにだっこになるでしょうね!」


「索敵や偵察ならシロガネ、その他の陣地作製だったり罠の解除は俺がやれるからそこは安心して欲しいな」


「シロガネ君には前も助けてもらいましたものね。ありがとうねー、あっ、くすぐったい」


 メリイさんがシロガネを撫でると撫で方が気に入ったのか彼女の手を少し舐めた。気分を良くしたのかメリイさんはシロガネの喉元や頭を両手で撫でると、シロガネは機嫌が良さそうに喉を鳴らしてお腹を見せる。


『即堕ちだ』

『人たらし……犬たらし?』


「そういえばまひろさんは逆になにができないんですか?」


「メリイさんが出来ることができないよ。奇跡も魔法も、才能がないから使えないんだ」


 頑張って手に入れた魔法も出力も燃費もショボい生活魔法だからね。根本的に才能がなかったんだと思うよ。

 しかしメリイさんは疑問に思うところがあるのか、首をかしげてなにか思案をしているようだ。


「……まあ、まひろさんの届かないところをわたしが補うと思えばファン冥利に尽きますね!」


『ファンだったんだ』

『追っかけて冥境めいきょうまで来るなんて相当じゃない?』


「……世の中には行動力だけではなく実力も兼ね備えた人がいるものなんだね」


「まひろさんとシロガネ君の探索を成功させるためならたとえこの身が粉になったとしても……!」


 歯噛みをして身を震わせているメリイさん。


『あ、この人俺らだわ』

『ただの限界オタクだったわ』

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