42 エルフ、墓を作る
戦闘が終わりスノーウルフの巣である洞窟に行くと、そこには氷が溶けて触れられるようになったシロガネの父親の遺体がひっそりと横たわっていた。
シロガネはおずおずと遺体のそばに寄り、顔をペロペロとなめて……押し黙った。そして堪えきれない感情を天に向けて吼えて放つ。
俺はその様子を見て、やはり彼は身体こそもう大人だがまだまだ生後数ヶ月の子供なのだと思い知らされる。
黒い体毛であるシロガネの父を見遣り、俺は静かに手を合わせる。
複雑な感情を抱いたままであろうシロガネはその場から一歩も動かない。
俺はある提案を彼に持ちかけてみることにした。
「シロガネ、このままだと屍肉をたかられてしまう。……燃やすか、土に埋めよう」
オオカミの価値観がどういうものかは分からない。火葬がいいのか土葬がいいのか、それとも鳥葬がいいのか……。
なるべくならこいつがやりたいようにやらせてあげたい。家族との別れをどう済ませるかは、そいつのわがままなんだから。
シロガネはこちらを向かず、父親を見つめたまま「土に埋めてくれ」と呟いた。
それからは良い場所を探して……結局、洞窟を通った魔導具を拾った場所である薬草園の一画に埋めることになった。
土属性の生活魔法で深く地面を掘り起こしてシロガネの父親を埋めて、また土をかぶせる。
手持ちのスコップで墓の土を堅く締めて、それでおしまい。弔いが終わるとシロガネはぴたりとこちらにくっついて押し黙った。そんな彼を撫でてやると、感情を堪えきれなくなったのだろう、大きな遠吠えをひとつした。
俺はかがみ込んでシロガネを抱きしめてやる。彼の震えていた身体は徐々に心を持ち直していって、呼吸も深くなっていく。大丈夫、大丈夫だ。そう唱えながら撫でてやると次第にシロガネは凜々しさを取り戻してきたようだった。
シロガネが突如反抗期を迎えて「離せ」と犬パンチを加えたので苦笑いして離してやると、彼はなにやら顔を作っているようだった。その直後にホワイトウルフたちが洞窟の近くまで来ていることを知ったので、思わず笑ってしまうと再び犬パンチを顔に喰らってしまう。
「行くぞ」
「バウ」
洞窟の途中のゴーレムたちを難なくやりすごして抜けていく。そうして洞窟を抜けた俺たちを出迎えてくれたのはホワイトウルフたちの群れだった。彼らは二度の俺やスノーウルフとの戦いで欠員を出すことはあっても、致命的なまでに減ることはなかったらしい。
彼らホワイトウルフたちは、俺からでも分かる期待のまなざしをシロガネに向けている。
シロガネはそんな彼らを見て一歩前に進んだ。
ホワイトウルフたちの表情がさらに華やぐ。
いつの間にか威風堂々たる貫禄をもって彼らの前に立つシロガネ。
……その様子を見て、俺は言葉にできない感情を覚えた。
だから、ゆっくりと。分からないように歩き出す。
……頑張れよ、シロガネ。
ゆっくりと、歩くように。
彼らが見えなくなってからはとにかく走って、走って。
守護者の行動なんて分からないくらいに無茶苦茶なまま、倒して。
さあ、第二階層に行くぞ。
そんな時になって――黒毛の巨大なオオカミ――シロガネが「なんで置いてきたの?」と言いたげに第二階層まで進む階段前に着いてきていた。
「お前、群れはいいのか?」
「大丈夫。なんとかしてきた」
なんだか目の前がぼやけてきて、思わず手首で目を拭ってしまった。
なんだよ、俺の勝手な思い違いかよ。
「……分かったよ。行くぞ、シロガネっ」
「バウ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます