22 エルフ、質問に答える

 草木生い茂るベースキャンプ。そこで木の椅子に座って撮影を開始する。


「おはダンジョンー。今日はやることも片付けたし、質問に答えていくよ」


『おはダンジョン』

『おはダンジョン。昨日はモンスターの言語を研究していたとおぼしき人からアタックがあったから、そのことから?』


「うーん、それも説明したいけれど、まずは〈トリニティ〉についておさらいをしつつ、そのひとつ〈ストレージ〉について説明をしていこうと思います。レガリアスキルだから気になる人も当然多いだろうし」


『〈トリニティ〉、三つで一つの〈王権〉レガリアクラスのスキルだな。魔力消費によって成果物を作る〈クラフト〉、虚空に物を出し入れできる〈ストレージ〉、そしてあらゆるものを強化できる〈エンハンス〉の三つによって〈トリニティ〉は構成されている……だっけ?』


「おひさしー、成金先輩。ダンジョンでも潜ってた?」


『おう、久々に血がうずいてね。ダンジョンでもそっちの様子は見てたよ』

『成金先輩認知されてるじゃん』

『おかえり成金先輩』


 そうかそうか、三日目くらいからいなかったから飽きたか働いていたかのどちらかだろうと思っていたのだが、ダンジョンに潜っていたかー。俺を見て血がうずいたなんて嬉しいこと言ってくれるじゃない。


「で、話を戻すと〈トリニティ〉については成金先輩の言っていた通り。で、今回はその中で〈ストレージ〉について解説をしていくよってことだけど……。昨日のギルド員さんでもいいんだけれどさ、この中にギルドのデータベースにアクセスできる人で、レガリアクラスの〈収納〉スキルが存在するかどうかってご存じですか?」


『あれって普遍的なスキルだから特別高い位階にあるやつってそうそうなくない?』


「それを知りたいの!」


 〈錬金術〉も〈収納〉も〈強化〉もありふれたもので、ほとんどの探索者は目覚めた段階で覚えているか、ちょっと訓練すれば覚えるようなものばかりだ。だからみんなこいつらの等級なんて気にしない。


『別のギルド員ですけれど調べたところ高くても〈衛士〉ガード……下から二番目の位階までしか存在していないですね。一番上どころか真ん中の位階のものさえありません』


「……なんで雑魚スキルがレガリアに進化したんだろ」


『それは貴方の性質に沿ったスキルの進化ですよ。変生へんせいが上手くいかなければ貴方の中のスキルもレガリアスキルに変化はしなかったでしょうが』


「へー……。by場海浜迷宮で会った女神……ってお前か――!」


『女神降臨』

『スレでも降臨してなかった?』

『フッ軽』

『軽は税率安いからね』


 こいつ掲示板でも暴れてんのかよー!

 掲示板はノータッチだからどうでもいいけれどこっちにまで来てる……いや、待てよ?


 ……こいつ、もしかして前々から俺の配信見てないか?


『正解』


「心の中読むのやめてくれない!? お前ぶっこ……ぶっ……ぶっ……ぶっ潰す!」


『コンプライアンス遵守』

『どこの事務所所属?』

『女神様、これ迷宮に引きこもってるパターンだな』

『地上にいると権能チート使えないもんね』

『女神系配信者・ユノ、いきます』


「もう黙ってて!?」


『まひろちゃんがたじたじになっておる』

『ボケとツッコミで言えばボケの彼女をツッコミに回らせるとは』

『これが女神、これがワールドクラス』


「はー……。女神……ユノが言うことが本当なら俺たちが人間からドワーフやらエルフ、ハーフリング、リザードマンになったりする変生へんせいの段階でレガリアになるかどうかが決まるんだね。うわ、視聴者数が爆上がりしたんけど……?」


 これ以上があるのか? というくらいの数値をたたき出している。物珍しさで見に来ている人たちも多いのだろうけれど、一体どうしてここに集まってくるのだろうか。


『スキル検証、ダンジョン考察、神々、変生体の研究のクラスタが集まっているみたい。世界中から』

『女神ユノがヒントを置いていったのがきっかけで爆速で掲示板に流されたんじゃない? 前から注目されてたし』


「ああ……。旧時代の……そのまたむかしの人気ゲームの解析がこんな感じだったんじゃないかな……知らないけれどさ」


 有力なデータを持つヒト・モノ・場所に集まって情報を吸い尽くして検証をし続ける。昔と違うのは人々が物質的に自由になったおかげで局所的なブームで終わらなくなったところだろう。中学生高校生のダンジョン配信、結構すごいらしいからね。


『まひろちゃんがなんか疲れた顔をしはじめた』

『生きてる?』


「ん、ん! ……話を戻そうか。〈ストレージ〉は基本的には〈収納〉の上位互換だね。なにもない空間から物質を取り出したり、逆にしまったり」


 〈ストレージ〉を発動させて見せても大丈夫なものを虚空の穴から取り出していく。


「〈収納〉の状態だとこういう風に荷物の出し入れに時間がかかることがあるんだけれど、〈ストレージ〉では少しだけそこが改善されてね――」


 指をパチンと鳴らした直後に左手には小石が出現。それをノーモーションで近くに生えている木に打ち付ける!


『いま、左手にはなにもなかったよね』

『普段戦っている時にもしているやつでしょ、指の動きと連動させてすぐ取り出せるようにしてるんじゃない?』

『速すぎて気付かんわ、普通は』


「さすがは成金先輩、ご名答。〈ストレージ〉に進化してからは一定の行動に紐付けてアイテムを取り出せるようになっているんだ。たとえば右手小指に短剣を連動させたりね」


『つか左手で投げるの上手すぎない? 両利き?』


「うん、両利き。といっても生まれつきじゃなくてきちんと訓練してここまで仕上げたんだよ」


 師匠による地獄の訓練により俺は扱える武器であればまんべんなくどちらの手でも行うことができる。右手を怪我した時に訓練をしていて、師匠は「敵は待ってくれると思うか?」と怪我をガシガシと狙うもんだから、戦闘中であれば負傷を我慢する癖がついたし、問題なく動けるように仕上げている。

 ただ女になったことで背が縮んだりして身体の使い方が若干変わったのでそこら辺の微調整はその都度行っている。


「俺の見立てではホワイトウルフでも投石で倒せないことはない。手間も時間もかかるけれどもね。ただ今回この投擲技能に求められている役割は、ニンニクを材料にしたにおい玉をホワイトウルフの集団に投げ込むこと。そうすれば猛烈な臭いでやつらは一時ひるむ……だろうね」


『その間に安全に狩るってことね』


「そゆことー。……俺のプランも話したし、今度はリスナーのみんなからの質問に答えようか」


『君の全部……見せて……』


「いきなり厳しい発言来たなあ……」


『この人、昨日モンスターの言語について研究しているって言ってた人だよ』

『申し遅れてすみません。貴方のスキルを解析させていただきたいのです。モンスターの言葉を理解できる貴方にはなんらかのスキルが芽生えている可能性がある』


「ああ、〈隠蔽〉を解いて欲しいのね。じゃあギルド員さんなら見られるくらいに精度を下げるんで、ギルド員さんのコメントから拾って貰う形でよろしく」


 〈隠蔽〉は主に〈鑑定〉による戦力看破などを防ぐスキルではあるが、これの精度を下げようと思うと気を緩めないといけないので同時に〈気配察知〉あたりも鈍くなることがある。どっちかを随意に下げる……という訓練はやらないからなあ。

 ゴロゴロと長椅子に寝転がりながら空を見上げていると、視界の端にコメントが流れてくる。


『まひろさんには〈精神感応言語〉というスキルが芽生えかけてますね』

『なんそれ』

『心で通じ合ってる……ってこと!?』

『詳細まではわかりません。あと鑑定するのにドーピングしたので少し休んできます』

『あんだけゴロゴロして精度下げているように見えてたんだけどまだ足りないの?』

『ギルド員って倍率めちゃ高くてSランク探索者でもなれないことがあってェ……』

『てかその横になり方だと見えるよ』


 おっといけねえ。

 居住まいを正して先ほどまでの格好に戻る。


「〈精神感応言語〉ねえ。便利なような……」


『もしかしたら他のモンスターの言葉も分かるんじゃない?』


「……それはちょっとやだなー。だって否応なく分かるなら殺す相手の言葉まで分かって嫌になっちまう」


『そうじゃなくて。仲良くしたいと思っている子とだけなら話せるようになるんじゃないかって言いたくて』

『ちなみに貴方のそれは貴種プライド――上から二番目のランクのスキルよ。〈精神感応言語〉も〈トリニティ〉も、貴方が成長すればするほどその中身も変わってくるから。じゃあ――私を殴りに来るのを待ってるわ』


『……なんか最後全部女神サマが持って行っちゃったね』


「まあ上等だよ。なんの意図があるかは分からないけどさ、少なくとも招待されたんだから拝みにはいくさ。……ところで、シロガネは?」


 狩りから戻ってきてない?

 と、気付いた直後、オオンとシロガネの遠吠えが拠点の近くから聞こえてくるのですぐに駆け出すのであった。

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