10 エルフ、道具を作る
「今回は余裕も出来てきたから戦闘用の道具を作っていくよ」
『〈クラフト〉の本領発揮だな』
『奇跡も魔法も使えないもんな』
「ギリギリ生活魔法が使えるくらいだからね……。回復手段と特殊な攻撃手段は準備しないと」
以前は〈錬金術〉で爆弾やら投げナイフ、
「爆弾も普通に火薬を使ったものからエレメントを燃料にした魔法爆弾もある。どちらかというと俺は魔法爆弾を使うかな。地上で採れる素材を使った道具は取り扱いに特殊な免許が必要だったりして面倒だからね」
『魔法爆弾も危ないんじゃない?』
『地上では決められた時しか使えないようになってるんだよ。そういう約定がある』
へー、爆発しないのは知ってたけどそういった取り決めがあるんだなあ。
通常のフラググレネードなどは鉄片を炸裂させて殺傷力を高めるらしいが、魔法爆弾は中に込められている魔法が重要なので外側の殻は木でもなんでもよかったりする。
〈クラフト〉でこれまで倒してきた魔物の素材を魔法元素――エレメントに還元していく。
〈ストレージ〉の中から要らないものを引っ張り出しては還元還元大還元。このスキルの燃費がいくら良くても切り詰められるところは切り詰めていかないと気が気でなくなってしまう。
……職業病だな。
「前はなー、低級ながらも魔法と奇跡が使えたんだけど。今は生活魔法しか使えなくなっててねー」
ソフトボールくらいの大きさの魔法爆弾を流れ作業で作りながら昔のことを呟いていく。
『じゃあ前より弱くなったんだ』
「いや、強くなった。忌々しいけれどこのレガリアってやつは常人が持ちうる能力より遙かに高いそれを誇る。以前は考えて使わないとろくに効果が出なかった手札ばかりだったけれど、今は雑に使って楽勝だからなー」
『考えて戦うのが強みなんだ』
「以前はねー。正直、いまは適切に準備をしていればごり押しできるから、いざって時の機転は確実に弱くなったよ」
スポーツでもそうだが、単純なフィジカルの強さというのは生半可な技術を上回る。しかしそういう手合いは得てして戦略性や下準備、賢く立ち回り、力を上手く使うということに慣れていない。その人を上回るフィジカルが現れればなすすべもなく倒れるだろう。スポーツならば再起可能な敗北で済み、次は足りないものを補おうとできるだろう。しかしこと戦いにおいては再起不可……死だからなあ。
どこかの戦士は「達人になるまで稽古しているつもりか?」と言っているが、あれは生き残っている人間の生存バイアスがかかった言葉でもある。まあどこかで実戦に出るのは大事だけどね。
「〈錬金術〉のときは全部自分で作る必要があったけど、〈クラフト〉だと魔力を対価にそれを省けるからその分他のことに時間が使えるのでいいね」
『ところで、あの服は着ないの?』
「あー……」
折りたたみ式の椅子に座って作業をしている中、そんなコメントが流れてくる。
うん、そう聞きたくなるのも分かるよ。お気に入りのVtuberの新衣装配信とか盛り上がるもんね。
うん、まだジャージなんだ。あのチャイナローブはまだ着る気になれないっていうかさ……。
『まひろちゃんの! ちょっといいとこ見てみたい!』
「煽ってもダメ。だってさ、アレを着るのって覚悟がいるよ?」
『たしかに……』
「そりゃあ今の俺は誰もが認める美人さ。そこは認めよう」
『うお、すごい自信じゃん……』
「でもやっぱりあのスリットはさ……うん……」
などとうんうんと唸りながらも作業を進めていく。そうしていくうちに日はすっかりと沈み、焚き火の光がなければ手元もおぼつかないほどに暗くなってしまった。
〈ストレージ〉から例の服を取り出してじっと見つめる。
これを……着る……。着られるのか……? サイズは合っているけれどそういう問題でもないんだよ……。
しばらく煩悶としていると、リスナーから『今日の護法灰はいいの?』と声がかかる。日もすっかり暮れているし、そろそろ寝ておくか。
スキルの倉庫に衣服を直して、そのついでに灰の入ったポリバケツを取り出す。
「……今日はもう護法灰を撒いて寝ます。それじゃあ、明日は井戸掘りをメインにやっていこうと思いますので、よろしくー」
そういえば昨日の大蜘蛛はなにかに追われているようだったと助けた探索者が言っていた。明後日以降は彼らから貰った地図を頼りに大蜘蛛の遭遇現場まで行ってみるのもいいかな。
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