第3話 旅立ち
ぐるる、と
「すまないが、そのフェンリルをあちらの木の下まで離してくれるか?」
エヴァは頷いてフェンを見る。
フェンはルーカスを
その様子に一つ頷くと、ルーカスは剣の構えを解いて、エヴァに近づく。
「ルーカス、大丈夫なのか?」
ルーカスの後ろから焦ったようにウルリクが問いかける。ルーカスはそちらを見ないまま、軽い調子で答えた。
「少なくともそのフェンリルはエディの言うことは聞くようです。…まぁでも、もしものためにウルリク副団長はこのまま警戒しておいてください」
あの
エヴァたちに
ルーカスが差し出してくれた手を取って、エヴァは外へと出る。
先程まで、あんなに力を出せなかったのが嘘みたいだ、とエヴァは腑に落ちない。
網から抜け出ながら、ルーカスに尋ねた。
「この網、何なの?」
「あぁ、対魔獣用の魔道具が付いた捕獲用の網だな」
「魔道具…」
「魔力を吸うんだ。網自体は
ルーカスの言葉に、ふうん、とよくわからないまま頷き、エヴァは落ちた魔道具というものを拾ってみた。
黒くて丸い石に尖った5枚の花弁が付いた花の結晶のようなものが閉じ込められているように見える。
「きれい…」
世の中にはエヴァの知らないことがいっぱいある。この魔道具のように。
楽しみだなと思った。これからが。初めてのことばかりに出会うことが。
それは、エヴァにとって初めての経験だった。
エヴァが外に出ると、ルーカスは一旦後ろに下がった。
エヴァは丁寧に、リルに絡まった網を解いてめくると、ルーカスに短剣を借りて、先ほどルーカスがやったようにルルの網も解いてやった。
ルルは一瞬エヴァに顔を
その様子を眺めていると、ルーカスから声がかかる。
「それじゃ行こうか。ただ、フェンリルは連れていけないが…どうする?」
その言葉に、エヴァは
「フェンもリルもルルがいるから一緒には行けないよ」
「あいつら家族なのか」
こくりと頷き、最後に挨拶をしてくる、と言って駆けだす。
『あいつらについて行って大丈夫なのか?』
飛び付いたエヴァに、フェンは厳しい眼差しで問いかけてくる。リルも心配そうだ。
「わからないけど、ワクワクするんだ。こんなの初めてだ」
フェンはきらきらとした瞳で見てくるエヴァに、あきらめたようにため息をつく。
『…わかった。これをやる』
座り込んだフェンが頭を掻くようにして毛をむしる。
アッという間にその白銀の毛は、小さな白色の笛になった。
『何かあれば吹け。音が聞こえたら助けに行く』
「ありがとう」
エヴァはその小さな笛を握りしめて、フェンたちを抱きしめた。
「いってきます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます