スキル【疲れ知らず】を会得した俺は、人々を救う。

一章 十年後の解放 ５

　※※※

　そうして、また今日も仕事の時間が差し迫ってくる。

　俺は床で寝ている体勢のまま、聞き耳を立てながら、外の様子を伺う。さらに、

　(今日は、奴らが手錠をかける前に、返り討ちにして逃げてやる。)

　と心の中で決意していた。口から深く呼吸しながら殺気を抑えるのに努めつつ、機会がくるのを待っていた。

　やがて遠くから人の足音が聞こえてきた。

　此方の方に近づいてくると、俺のいる牢屋の前で止まった。

　「おい、ヒルフェ！」

　「………。」

　「おい、起きろ！！」

　すると監視員の男は怒鳴りながら、呼び掛ける。

　対して俺は、敢えて無視して、行動に移せる様に身構える。

　その直後に、監視員の男は舌打ちすると、ようやく扉を開けて中に入り、再び呼び掛けてきた。

　「おら、早く出て、付いてこい。…主が、お呼びだ。」

　「なに？」

　と俺は思わず声を出してしまい、上半身を起こしていた。

　しかし、監視員の男は素知らぬ素振りのままだ。普段の様に手枷を掛けてこず、さっさと牢屋から出ていき、廊下を歩いて先に進んでいく

　何故か、今までと違う事が起きていた。

　俺は戸惑い首を傾げてしまう。まだ訳が分からないままだった。仕方なく急いで立ち上がると、後を追いかけていくしかなかった。

　※※※

　しばらく歩くと、炭坑の外へと出て、すぐ近くの巨大な建物の前にたどり着いた。

　二人組の別の監視員が見張りをしている。

　先導していた方の男が耳打ちすると、見張りの二人が扉を開けた。

　「ほら、入れ。」

　そのまま俺は中に入る様に促され、扉を潜り抜けていくと、周囲の様子に目を奪われる。

　建物の中は、まるで事務所のようである。

　凄く豪華な造りだ。壁には複数の絵画と馬の石像や、床には獣の皮を加工した敷物がある。

　彼方此方の棚にも、調度品が飾っていた。

　家具には、金の装飾が施されているようだ。

　なんとも、悪趣味な雰囲気だ。

　さらに部屋の中央にも、大きな机と椅子があり、ーー

　「やぁ、…久しぶりだね、…ヒルフェ。」

　と、キールがふんぞり返って座っており、何気なく挨拶をしてくる。

　約十年振りの再会だった。