「ら抜き言葉」ってどうしてダメなんだと思う? ⦇長⦈

 こんにちは、たてごと♪ です。

 「flagフラグ」ってただ〈旗〉ってだけの意味の言葉だったはずだけど、いまやあるしゅのろいの言葉になってるの笑うし、あと50年もったらじゅじゅつ化してるんじゃないかな。


 ……はい(

 さて、某Twitter()で、とあるアンケートを見掛けまして。

 

  〝「選りすぐり」どう読みますか?〟


と設題して、{えりすぐり}や{よりすぐり}など選択のあるやつなんですが。

 これね、本来なら〝どう読みますか〟じゃなくて、


  〝ニュアンス個々違うから遣い分けてちょ〟


ってシロモノだったり。

 〝同音の訓読みことばの大半は、「やまとことば」的には同源で、同様の意味合いを持つ〟。

 そんな感じのお話は、『「全部ひらがなでいいのに何で漢字使うの?」ってかれたら何て答える?』の節で、垂れ流しましたね。

 それを〔選る〕の場合で見ると、こんな感じになります。


  ◦ [る][えらぶ]= る、〈選び取る〉

  ◦ [る]= る〈ある特徴に片寄って選ぶ〉

  ◦ [すぐる]= すぐる〈優良な物を選ぶ〉


 え、「得らふ」なんてことば知らんって?

 でもこれ、古語にはあったのぜ。

 ほかに「語る」「語らう」とか、あと「さる(去る)」「さらう(さらう)」なんてのも有りますけど、それと同じ類型で。

 んでこれら、厳密には{r合}{かたr合}{r合}なのですよ。

 「」は普通に、〈合致する〉〈満たす〉〈協調する〉って意味ですね。



     †



 突然のアルファベット混じりで、びっくらこいた()かもですが。

 実は「やまとことば」には、〝いんしょうりゃくけつごう〟とでも呼ぶべきものが有りまして。

 それは、〝ある語に別語を接続するとき、その末尾母音を省略して結合させる〟ってもので。

 「やまとことば」自体、結構細かいレベルまで分解できるやつなんですが、そもそも一音一音で既に、大まかなニュアンスが決まってたりするんですね。

 〝人が音のれつに感じる印象が、そのままことばの成り立ちに関わっている〟って話を、『「ブーバ・キキ効果」って知ってる?』の節で出しましたけれども。

 ことばというものを知らない人らが、これを自力で産み出そうとしたなら、それは鳴き声の延長みたいなところから始まるでしょう。

 そうして感覚をたよりに合図を決めていった結果、子音単体に至るまでの一音一音に意味が生じた、ってわけかと思いますよ。


 え、母音省略して接続とか知らんって?

 いやこれ、現代の五段動詞でも、


  • {かたr‐aない}{かたr‐iます}{かたr‐u}{かたr‐eば}{かたr‐oう}

  • {えらb‐aない}{えらb‐iます}{えらb‐u}{えらb‐eば}{えらb‐oう}


 みたいな感じで普通にやってるやつっすよ。

 そもそも子音単体で意味を持ってなかったら、五段活用なんてものは発生し得なかったと思いません?

 まあ〝日本語として母音を音単位とする〟っていう便べん上、「選ぶ」「語る」の語幹は{かた}{えら}だ、って事にはされてますけどね。

 「活用するとき変容しない部分」が語幹の定義なのだから、厳密に言うなら{かたr}{えらb}と、子音を含めた部分までが語幹に当たるはずなんですよ。

 そのために、語に語が接続されるときに、その末尾母音が省略される、なんて事が起きる。

 というか、「本来の形にいったんもどる」と言ったほうが、適切なのかもしれません。


 ついでにつけ加えると、動詞語尾の先頭母音。

 それぞれ漢字で表すと、大体こんな感じになったりします。


  • wa):〈適合する〉〈遭遇する〉

  • :〈その状態でいる〉

  • yu):〈実行する〉

  • :〈結果を得る〉

  • o:〈目指す〉


 こんなふうに訓読みことばの、語尾の母音については大半がこのニュアンスを持つと思うので、ちょっといくつか検証してみるとおもしろいかもですよ。

 たとえば「語る」にこの定規を当ててみれば、{かたr‐aない}{かたr‐iます}{かたr‐u}{かたr‐eば}{かたr‐oう}になりますけど、だいたいその通りのニュアンスだと思いませんか。



     †



 で、さて掲題。

 この〝母音省略結合〟から考えていくと、「一段動詞の〝ら抜きことば〟を禁則とする文法は、正しいと言えるかが疑わしい」って話にもなったりするんですね。

 いやまあ、大きく間違ってもいないんですけれどもね。


 そんな疑いの持ち上がる経緯ですけど、たとえば「語る」は五段動詞なので、〝ら抜き禁止〟という制限が無い。

 だから〈語る事ができる〉は「かたれる」で、これは{かたr得る}に相当する。

 これは母音を省略せずに結合した「語り得る」と、まったく同じ意味ですね。


 これが一段動詞だと、〝ら抜き禁止〟の制限を受けるわけですが。

 だから例えば「食べる」は、〈食べる事ができる〉の意では「べられる」と書かないといけない事になる。

 ここでこれを、五段動詞のそれにならって解釈してみると、{べらr得る}……ちょっと待てやゴルァ!!(

 この「ら」、どっからいて出たよ?

 「べらる」が元じゃなきゃ、そうはならんやろ?

 んで「べらる」って何よ?

 と、そんな感じになるわけですね。


 一方で、{r得る}って言ってみたとしたら、これで解釈上の不都合とか何か有ります?

 意味、過不足なく伝わりますよね。

 つまり語の組成から考えるかぎり、〝〟。

 何も間違ってないもんを「禁則と定義する」には無理があるし、何も間違ってないのだから「許容されるべき」って見方もちょっと違う。

 「ふつうに通用してしかるべき」がとうなところ、なんじゃないですか。


 専門家としては〝きちんと文法を守らないと、意図が正しく伝わらない可能性がある〟って立場みたいだけども、「それ本当にそうかや?」って疑問も有ったりして。

 だって〈食べる事ができる〉を「食べれる」と言ったところで、誤解の余地ある?

 無いでしょ。

 当然よ、それで正しいんだもん。

 逆に〝ら抜き禁止〟を通すと、〈捕食される〉って意味の受動表現「食べられる」と区別つかない、っていう重大な問題が発生するのすよ。のすのす(

 たとえば『長い文章哲学魔王の~()』で、次のような文を書いたんですけども。


  ◦ 〝話が成立しないとは理が立てられない事、話ができないとは理が立てれない事〟


 でも「立てる」は一段動詞だからって、「ら」を入れてみたらどうでしょう。


  ◦ 〝話が成立しないとは理が立てられない事、話ができないとは理が立てられない事〟


 ……わけわかんねえでしょうが💢

 同じ動詞の受動表現と可能表現を、ひとつの文内で並べたいってニーズ、実際に発生するんですよ。

 そういう時どうすんですか。

 「理が立たない」とかに書き換えても受動表現と可能表現のどちらにも取れるんで、地味に代替手段が無いんですよこれ。

 いや、とか、マジ要らなくね?

 こんなん慣習だったとしたって、ぶっちゃけ悪習でしかないじゃないすか。

 テキトーなこと言わないでくださいよセンセイ、困るんですよこっちは。



     †



 唐突に「ら」が割り込んでくる感じだから、これって〝ら入りことば〟なんて呼ばれたりもするんですけどね。

 こいつを通用させる、合理的根拠、見つからんのです。

 それを示すには、「食べれる」じゃなくて「食べられる」じゃないと無視できない問題が発生するよ、という実例を一つでも挙げれれば済むはずなんですけども。

 皆無なんですわねこれが。

 いや確かに昔の時代なら、五段動詞でも〈語る事ができる〉を「かたられる」とか、〈行く事ができる〉を「かれる」とか、そう言ってたんですよ。

 古い案内標示で〝このさき行かれません〟なんて文言が残ってたりもしますけど、つまり{〜eる}じゃなくて{〜aれる}が、可能表現として通用してたわけですね。

 でも、これだけだと慣習として認識できるだけで、根拠と呼べるかって言うとちょっと微妙じゃないですか。


 それにそもそも、そこに不自然さが感じられてたからこそ、五段動詞では「ら入り撤廃」になったわけで。

 それなら何で一段動詞はそのままなの、っていうところに、有効な説明が付けられたためしは確認できていません。

 意味不明にも程ってものがあるでしょうし、それで多くの人が〝なんでこんな事になってんの〟と疑問を持つわけですね。

 これはなんと、おおさか弁に直すと「どないやねん」になるんですよ。


 ……はい(

 実際、〝ら入りことば〟を考慮しないと支障が出る、って場合が有るとすれば、どんなものが考えられるでしょうか。

 〝まだ高齢者に「ら入り」でしゃべる人がいるから〟って指摘が挙がってるけど、これについては「だからじっちゃん、それじゃ伝わんねえのよ」しか言えること無いっす。

 ってか伝わりづらくっても、都度教えりゃ済む話じゃないんですか、それは警戒しきゃいけないほどの苦労なんでしょうか。

 だとしたら後は、「古文書を解読する場合」くらいしか無いんじゃないすかね。

 でもそんなニッチな作業、そもそも一般人はやらんでしょ。

 だからこんな事は、「」。

 ぜん形とか、あるいは数学の二次方程式なんかと同じで、現代人全般に求められるべき「書記技能リテラシー」じゃないよ。


 ああでも、中二病かんじゃは古語必修だからよろしくな(


 と、いうのがぼくの持論なんですけども。

 「ら抜きことば」はダメって事について皆さんは、どう考えますかね。

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