第20話 決意を新たにするが、やっぱりおっぱいは柔らかい

 魔物に殺されたことでPTSDを発症していた柊木に抱きしめられていた琥珀であったが、彼女が寝付いたタイミングで抜け出した。

 そのままヘリヤが眠っている寝室に帰ると、ヘリヤも揚羽さんも甘井も変わりなく眠っていた。

 今さらではあるが、四つあるベッドの内で空の一つはここにいない柊木のものなのだろう。


「キュウ……」


(やれやれ……まさか自分をイジメていた奴に抱き枕にされるとはな。参ったよ)


 部屋に戻ってきた琥珀は音を立てないよう、ヘリヤのベッドに戻る。

 自分からヘリヤの胸に抱き着く度胸はなかったので、少し距離を取ってベッドの端で横になった。


「ん……」


「キュッ……」


 しかし、すぐにヘリヤの両腕が伸びてきて抱き寄せられてしまった。

 すぐにフカフカの感触。もう何度目になるかはわからない、ヘリヤの胸の感触である。

 こうして比べて見ると柊木よりもワンサイズ小さめのように思えた。

 しかし、触り心地やフィット感は絶妙であり、これこそが自分にとってのベストなおっぱいであると琥珀は確信した。


(……って、僕は何でクラスメイトのおっぱいを比べてるんだ? 最低かよ!)


「スウ……スウ……」


 ヘリヤの顔が近づいてくる。

 ほんの少し顔を動かせばキスができそうな距離だが、今の自分だったら嘴で突いているような形になってしまうだろう。


(キスした瞬間に変身が解けて人間に戻ったりして……ハハッ、お風呂にベッドまで一緒にしたってバレたら、クラスの女子に殺されちゃうな)


 布団に入り、温かな体温に包まれていると徐々に睡魔が襲ってくる。


(次に眠って起きたら、いる場所は日本と異世界のどっちかな?)


 そんなことを思いながら、琥珀はそっと目を閉じたのである。



     〇     〇     〇



「アンバー、起きて」


「キュッ!」


 どうやら、異世界こっちだったらしい。

 琥珀が目を開くと、そこにはヘリヤの顔がアップになっていた。

 北欧系美少女の端正な顔は驚くほどに破壊力があり、一発で目覚めてしまった。


「キュウ……」


 どうやら、異世界で眠っても日本には戻れないようだ。

 昨晩と同じベッドの上。昨晩と同じペンギン姿の琥珀が短い手足を使って起き上がると、途端にヘリヤさんに抱きしめられた。


「アンバー……!」


「キュイ……」


「アンバー……アンバー……アンバー……アンバー……」


 ヘリヤは壊れた玩具のように琥珀のことを呼びながら、ギュウギュウと抱擁を続けている。


(い、いったい、どうしたんだ……いくら何でも抱き着きすぎ……!)


「ああ、すまないな。ペンちゃん。許してあげてくれ」


 苦笑しながら声をかけてきたのは、朝の身支度をしていた揚羽だった。

 寝間着を脱ぎ、下着姿になっている揚羽が制服のシャツを羽織りながら説明をしてくれる。


「この子、昨日のダンジョンで貴方が私達を庇って消えちゃってから、ずっと子供みたいに泣いていたんだ。召喚獣は敵にやられても何度でも復活できるそうなんだけど、再召喚までにはクールタイムがあるみたいでね。昨日の夜に貴方を召喚するまで、ずっと気が気じゃなかったみたいなんだ」


「キュウ」


(あ、そうなんだ)


 琥珀が短く鳴いて答える。

 どうやら、琥珀が生きているのはダンジョンの安全装置などではなく、召喚獣だからというのが理由らしい。


(つまり、ダンジョンの中であろうと外であろうと、好きなだけ死んで構わないということか)


 召喚者であるヘリヤがいる限り、琥珀は何度でもこの世界に甦ることができるということである。


(裏を返せば、ヘリヤさんにもしものことがあって僕を召喚できなくなれば、僕はこの世界に呼ばれなくなる。正直、今となってはどっちが良いのかわからないけれど)


 初めてこの世界に召喚されたときには戸惑ったし、嫌な気持ちになった。

 せっかく自分をイジメていた連中が異世界に飛ばされてお別れできたのに、彼らのすぐ傍に飛ばされてしまったのだから。


(でも……今は違う。この世界でペンギンとして生きることを受け入れてしまっている。召喚獣として、ヘリヤさんの役に立ちたいと思っている)


 ヘリヤが死ねば、この世界にもう来なくて済む。

 そうだとしても、それを望むほどには琥珀も落ちてはいない。むしろ、これからも身を張ってヘリヤのことを守りたいと思っていた。


「キュイ……」


(いったい、何が僕をこんなふうに変えたんだろう……環境か、それとも召喚獣の力か……)


「アンバー……」


「キュ……」


(それとも……現在進行形でギュウギュウと押しつけられまくっている脂肪の塊か……!)


 真面目なことを考えているはずなのに、琥珀の意識はどうしたってヘリヤの胸部に向けられてしまう。

 ヘリヤを守りたいと思う気持ちがたんなるスケベ心でないことを、心の底から祈る琥珀なのであった。


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