第17話 美少女とのベッドイン!
(さて……これから、どうしようかな?)
保健室から出て、そのまま学校を後にした琥珀は帰り道を歩きながら思案した。
気になるのは、琥珀がやられてからヘリヤがどうなったかである。
ペンギン姿の琥珀が庇ったおかげで、ヘリヤはダンジョンの外に脱出できたはず。
仮に失敗していたとしても、ダンジョン内で死んだ人間は外にはじき出されるだけ。死んでいるということはないだろう。
(とはいえ……あんな化け物に食べられたりしたら、身体が無事でも心に傷を負ってしまうよね。無事だと良いんだけど)
柊木がそうであるように、巨大なミミズに喰われるだなんて正気を無くしてもおかしくはない。
(家に帰ったら、早く向こうの世界に行かないと……ヘリヤさん、それに揚羽さんの無事を確かめたい……!)
三度ほど召喚されたことで、向こうの世界に行く条件は見当がついている。
向こうの世界にいくためにはただ眠ればいいのだ。眠りにつけば、時間に関わらず向こうの世界に召喚される……だからこちらの世界とあちらの世界の時間にズレが生じているのだ。
琥珀は足早に帰宅して、家にいた母親と二、三会話をしてから自室に戻った。
鞄を床に放り出して、そのままベッドに横になる。
(推測が正しいのであれば、このまま眠ればまた召喚されるはず……)
とはいえ……自分の意思で眠りにつくのは意外と難しい。
それでも、三十分ほど目を閉じていると睡魔が襲ってくる。
(お……いけるか……)
意識がぼんやりとしてくる。
これで眠れる……そう思っていると、細胞が置き換わるような不快感。
過去の召喚時にも味わったそれに襲われた。
「う…………」
琥珀はそのまま完全な眠りにつき、意識が……魂が、別の世界に飛ばされた。
〇 〇 〇
「ピュイ?」
再び意識が覚醒した途端、フニュリと柔らかい感触に顔が包まれた。
目を覚ましたはずなのに視界が暗い。何も見えない。
それでも……召喚獣としての特権なのだろうか。すぐに暗い中でもぼんやりと視界が開けてくる。
「ピュッ……!?」
自分が置かれている状況に気がついて、琥珀は狼狽する。
琥珀がいるのはベッドの中だった。おまけに、隣には眠りにつく直前まで気になっていた少女がそばにいる。
琥珀はベッドの中で、ヘリヤにぬいぐるみのように抱きしめられていたのだ。
(ま、まさかの同衾!? お風呂の次はベッドインだって……!?)
琥珀は錯乱する。
ベッドで琥珀を抱きしめているヘリヤは下着姿になっていた。どうやら、彼女は眠るときには服を脱ぐ派の人間らしい。
ギリギリで下着を付けているからまだ良いのだが、それでも小柄な体格には似合わぬサイズのおっぱいが包み込んできて、色々な意味で正気が吹っ飛んでしまいそうだ。
「アンバー……」
「…………!」
ヘリヤの口から吐息のように声がこぼれる。
まさか目を覚ましたのかと緊張する琥珀であったが、どうやら寝言であったらしい。
「ダメ……アンバー。いなくなっちゃ、や……」
見れば、閉じられたヘリヤの瞳からは涙がこぼれている。
(悪いことをしてしまったな……目の前で僕がやられて、心配かけちゃったみたいだ)
「キュウ……」
琥珀はそっと羽毛に包まれた手を伸ばし、流れる涙をぬぐった。
ヘリヤを守り抜くことができたという達成感に、悲しませてしまったことへの怒りと無力感が湧いてくる。
(強くなろう……この子を守れるように。心配をかけずに済むように、もっともっと強くなろう……!)
そんな決意が自然とできてしまうのは、自分がヘリヤの召喚獣だからだろうか?
「キュイ」
「んんっ……」
琥珀はヘリヤの手が緩んだタイミングを見計らって、ベッドから抜け出した。
母性の象徴である乳房にはいつまでも顔を埋めていたいものだが、正直、この状況では罪悪感の方が強い。
別に悪いことをしているわけでもないというのに、寝込みを襲っているような気分になってしまうのだ。
「キュウ」
周囲を確認すると……そこは暗闇に包まれた寝室だった。部屋には四つのベッドが置かれており、明かりは灯されていない。
「スー……スー……」
「スヤスヤ……」
他のベッドのうち二つには、それぞれ村上揚羽と甘井紫雲が眠っていた。
二人はクラスの男子(?)が見つめているとも知らず、無防備な寝顔をさらしてしまっている。
(気の強い委員長、それにクールで無関心な女も、こうやって寝顔を見るとあどけないもんだな)
琥珀がペタペタと部屋を歩いていき、窓を確認した。
空には青い月が昇っており、無数の星々が煌めいている。
(やはり、この世界と向こうの世界では時間の流れが違うみたいだ。今は夜中なのかな?)
おそらく、城の中と思われる一室は静まり返っている。
今ならば誰にも邪魔されずに城の中を探索することもできるかもしれない。
(この世界に召喚されてから、自由に動いたりできなかったからな。ちょっと見て回ってみようか)
琥珀はそう決めるや、ペタペタと扉に向かっていった。
部屋に鍵はかけられていない。物騒である、誰かが侵入したらどうするというのだろう。
「キュイ」
琥珀はできるだけ音を立てないように扉を開き、廊下に出ていったのである。
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