第14話 美少女に褒められたが下がアレです

「キュイ! キュイ!」


「あっちから、くる」


 パーティーの先頭に立った琥珀が気配察知のスキルを使用して、魔物を見つけ出していく。

 草原エリアは遮蔽物が少ないので隠れる場所もないのだが、小型の魔物が茂みなど潜んでいたり、地中や空から敵が出てきたりする場合もあるので意外と使い道が多かった。


 敵が出てきたら琥珀がフロストバーストで、甘井が攻撃魔法を使って迎撃。

 遠距離攻撃を突破した敵を揚羽と柊木が倒している。


「索敵もできて遠距離攻撃もできて……すごいわね、ペンちゃん。やるじゃないの」


「ペンちゃんじゃない。アンバー」


 揚羽の称賛にヘリヤが抗議をする。


 実際、琥珀はよく働いていた。

 気配察知による索敵をして、見つけた敵にはフロストバーストで一撃を喰らわせる。

 ここまでよく働くオスはペンギン界でも滅多にいないはず。


(フロストバーストを使うと疲れるんだけど……不思議とヘリヤさんに抱きしめられると回復するんだよな)


 敵を倒すたびにヘリヤがハグをして褒めてくれるのだが、そのたびに疲労がなくなっていた。

 何らかの回復魔法を使ってくれているのか、それとも豊かなおっぱいを押し当てられたことで疲れが吹っ飛んでいるのだろうか。


(おっぱいヒーリング……うん、良い言葉だな)


―――――――――――――――

水島 琥珀(アンバー)


年齢:16

種族:人間(フロストフェニックス幼体)

職業:ヘリヤ・アールヴェントの召喚獣

召喚回数:3


レベル 6→11 UP!

体力 E→D

魔力 E→C

攻撃 E

防御 F

速度 E

器用 E

知力 F→D

魅力 A


スキル

・異世界言語

・フロストバースト(弱)

・気配察知

―――――――――――――――


 そうやって前に出て戦っていたおかげでレベルも上がっている。

 まだダンジョンに入って二時間弱だというのに、5レベルも上がっていた。

 幼体であるがゆえにレベルが上がりやすいのか、それとも、このダンジョンの経験値効率が良いのだろうか。

 レベルアップ時の能力値の上がり方にムラがあるのは、フロストバーストという魔法攻撃(?)をメインにしているためだろう。

 魔力と知力がそれぞれ二段階も上昇しており、魔力が高くなると魔法発動時の倦怠感が軽くなり、知力が高くなるとフロストバーストの威力や射程距離が上がっていた。


(気になるのはスキルが増えないことかな? 短期間で二つも手に入れたから簡単に増えるものだとばかり思っていたけど、レベルアップが上がっても全然覚える様子がない。何か他の条件でもあるのかな?)


「アレ、何か見えてきたんじゃね?」


 柊木が進行方向上を指差した。

 進む先に白い建物が見えてくる。ギリシャのパルテノン宮殿のようなそれはサバンナのような平原の中では場違いで、酷く目立っていた。


「ああ、アレが次のエリアへの入口です」


 シャーロットが柊木の疑問に答える。


「あの遺跡のような建物の中に上層につながる転移門があります。ダンジョンの外に出るための脱出ポートも。平原エリア以外の場所も同じようになっていて、最上階層に到着するまで、魔物と戦いながら転移門を探すといった行動の繰り返しになっています」


「フーン……ちなみに、一番上の階はどんくらい門をくぐったらいけるわけ?」


「……最上階層は百階層です。以前、召喚された勇者は五年かかりました」


「百階層、五年……」


「ただし、前の勇者が魔物や地形の情報を集めてくれたから、君達はもっと早くたどり着けるはずです」


「…………」


 シャーロットがとりなすように言うが、柊木がショックを受けたような顔になっている。

 五年間も元の世界に帰れない可能性があるのだから、無理もないことだろう。


「そんなにかかるの……そんなに長い間、彼ピッピと会えないなんて……」


「……すまない。本当に申し訳なく思っています」


 顔を青ざめさせている柊木にシャーロットが再び謝罪をする。

 ダンジョンの階層は少なくても二十六階層。キリが悪いから、もしかすると五十階層や百階層という可能性もあった。

 柊木だけではなく、ヘリヤや揚羽も表情を暗くさせている。唯一、甘井だけは無表情で冷めた顔をしていたが。


(五年……前の勇者とやらの情報で時短できたとしても、三年くらいはかかるかな?)


 琥珀はクラスメイト達にわずかな憐れみを覚えた。

 それだけの長い間、異世界で過ごさなければいけない。行き来できる琥珀と違って、家に帰って家族に会うこともできないのだ。

 ざまあという気持ちもあるが、ヘリヤや揚羽には同情が勝っている。


(これで召喚された日時に戻るパターンだったら良いんだけど……日本でも、ガッツリ時間が経っているからな。微妙に時間の流れも違う気がするし……浦島太郎にならないと良いけど)


「ともかく、今日のところはお試しです。次の階層にいかずに、脱出ポートから城下町に戻りましょうか。今日は初めてのダンジョン探索だから、城で料理長が腕によりをかけて夕飯を作っていますよ」


 シャーロットが励ますように言って、全員を鼓舞した。

 やや重くなってしまった空気と足取りで、百メートルほど先にある建築物へと向かっていく。


「キュ……」


 そんな時、ふと強烈な気配を感じた。

 これまで戦った魔物の気配とは明らかに違う。とんでもなくデカい気配が近づいてきている。


(気配の方向は……下だって!?)


「キュウッ! キュウッ!」


「アンバー?」


 琥珀は慌ててヘリヤの手を引いて、転移門まで連れていこうとする。

 ヘリヤは尋常ではない琥珀の様子に目を白黒とさせながら、引かれるがままに小走りになった。


「ヘリヤさん、どうした!?」


「わから、ない。アンバーが早くって……」


「ペンちゃんが……?」


 小走りで追いかけてきた揚羽が首を傾げる。

 二人の会話が聞こえたのか、甘井とシャーロットも警戒した様子になっていた。


「その子は気配に敏感だったな……もしかして、強い魔物が近づいてきて……」


「ちょっとー、アタシ走るの怠いんだけどー。ゆっくり歩いてこーよ」


 最後尾を歩いていた柊木が抗議の声を上げる。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 しかし、悠長にしていられるのはここまでだった。

 突如として、地中から巨大なミミズのようなものが飛び出してきたのだ。


「へ……?」


 地上に出ている部分だけで十メートル以上もある巨大なミミズは、パーティーの最後尾にいた柊木をパクリと丸呑みにした。

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