第4話 俺のステータス弱っ! ガクブル、ガクブル……


「オーケー……まずは情報を整理しよう。大丈夫だ、まだ焦るような状況じゃない」


 異世界から自室に戻ってきた琥珀は、自分が置かれている状況を整理する。

 ベッドの上に胡坐あぐらをかいて、自分の身体を見下ろした。


「身体に異変はない……人間に戻ってるな」


 あえて声に出して確認する。

 異世界ではペンギンの姿になっている琥珀であったが、現在は間違いなく人間だ。

 手も足もちゃんと人間のもの。身体に羽毛は生えていない。鏡を確認したが、顔に嘴もついていなかった。


「だが、間違いなく異世界召喚はされていた」


 それは身体に残るヘリヤの感触から疑いようもなく確信している。

 背中からハグされたときの柔らかさも、撫でられた頭やお腹を通じて伝わってきた体温も、どちらも生々しいほどに思い出すことができた。


 クラスメイト達が教室から光と共に失踪して、それから帰ってきていないことを考えると……異世界召喚は一方通行のものと考えられる。

 それでも、琥珀が日本に戻ってくることができたのは、琥珀が召喚されたのがクラスメイトとは異なるイレギュラーなものだから。


「言っていたな……あの自称・女神が。召喚するのを忘れていたと」


 察するに、琥珀もまた本来はクラスメイトと一緒に異世界に召喚される予定だったのだろう。

 だけど、引きこもっていたこと、そして女神のミスによって召喚されることなく日本に留まることになってしまった。


「……女神はこうも言っていた。異世界との間につながりができてしまったと」


 あの女神は謝るばかりで完全に説明不足だった。

 情報が足りないので予想に頼っている部分が大きいが……その異世界とのつながりのせいで琥珀はあちら側に呼び出されてしまったのではないだろうか。

 他でもない、ヘリヤ・アールヴェントの召喚獣として。


 召喚されたクラスメイトは教室のような場所で、魔法についてレクチャーを受けていた。

 おそらく、そういった授業の過程でヘリヤが召喚魔法を実践することになり、琥珀がペンギンの姿となって呼び出されたのだろう。


「どうして僕が……せめて、ステータスとかあれば良いんだけど……お?」


 ボヤいていると、突然、目の前にPC画面のようなウィンドウが表示された。


―――――――――――――――

水島 琥珀(アンバー)


年齢:16

種族:人間(フロストフェニックス幼体)

職業:ヘリヤ・アールヴェントの召喚獣

召喚回数:1


レベル 1

体力 F

魔力 F

攻撃 F

防御 F

速度 F

器用 F

知力 F

魅力 A


スキル

・異世界言語 NEW

―――――――――――――――


「低っ!」


 本当にステータスが出てきた。

 レベル1。おまけに魅力以外のステータスが軒並みFランク。スキルも『異世界言語』以外に何もなかった。

 クラスメイトがどれだけのステータスを持っているのかは知らないが、今の琥珀よりも低いということはさすがに無いだろう。


「いや、待て。落ち着け……気にするのはそこじゃない」


 そう、本当に注目するべきなのは『種族』と『職業』の項目だ。

 種族名は『人間』となっていたが、括弧かっこ付けで『フロストフェニックス幼体』となっていた。

『フロスト』というのは『霜』という意味の単語である。フェニックスは言うまでもなく『不死鳥』のことだ。


「それに……ヘリヤさんの召喚獣って……」


 わざわざそんなふうに記載されるということは、これから先もヘリヤによって召喚されるということだろうか?


 途中だけしか聞いていないが、指導役らしきメガネの女性が召喚獣は成長していくと話していた。

 つまり、あの世界における召喚魔法というのは様々な精霊や魔物を召喚するのではなく、特定の召喚獣を育てていくタイプのものなのだろう。


「ということは……またあの世界に行くことになるのか……」


 琥珀は複雑な面持ちでつぶやいた。


 ヘリヤの召喚獣になったことはまだ良い。

 不思議と悪い気はしないし、抱きしめられた時のおっぱいの感触も……ともかくとして、クラスで普通に接してくれた彼女を助けることに不満はなかった。

 だが……ようやく縁が切れたはずのクラスメイト、自分をイジメていた連中と再び関わらなければいけないのは不快そのものだった。


「どうなるんだ……いったい」


 琥珀は肩を落として、ベッドの上で項垂れた。


 次に召喚されるのはいつだろうか。

 今日か明日か明後日か。

 場合によっては、数分後の可能性もある。


「ガクブル、ガクブル……」


 いつ大嫌いなクラスメイトと顔を合わせることになるかわからない不安から、琥珀は自分で自分の身体を抱きしめて震えるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る