女子高生〜推しは近所の女子高生

唯響

第1話 推しは近所の女子高生

 女子高生とはなんだろう。それは単なる学生区分のみならず、果てない可能性や魅力を秘めている存在だ。しかしその真価は、小学生の彼には分からない。


 彼は紳助。普通の小学生だ。毎朝目が覚めれば身支度を整え、ランドセルを背負って登校する。道中では同じ学校の児童同士が、挨拶をしていた。


「おはよう!」


「お〜おはよう!」


「なぁお前昨日のアレ観てた?」


「観てた観てた! マジ可愛かった!」


 周囲ではそんな会話が行われ、活気に満ちている。それはそれで良いが、彼はそんな会話が聞こえてくるといつもこう思う。


「朝からうるさいなぁ。そんなに騒ぐなよ……」


 周囲はそんな彼の思いとは裏腹に、騒がしいまま学校の中へと吸い込まれていく。そして、一日が始まるのだ。


 彼は、小学校というのが嫌いだった。友達がいない訳ではないが、つまらなさを感じていた。どこか周囲とは溶け込めていない様な感覚。周りの男子を子供っぽいと感じてしまう所があった。


 というのも、みんなが口々に言う「あの子が可愛い」「あの子が推し」という相手は、みんな並だと感じていたのだ。彼には、おこちゃまの戯言(ざれごと)の様に聞こえてしまっていた。


「何組の誰とか、アイドルの誰とか極端すぎる。片やお手頃、片や高嶺の花だ」


 彼は自分の好みの相手こそ、崇高(すうこう)な感性の賜物(たまもの)だと感じていた。つまり、自分の推しこそ、真に尊ぶべき存在だと感じていたのだ。


 その相手は、近所の女子高生であった。


 彼の通学路に、その女子高生が通う女子高がある。彼は登下校時いつもその女子高に差し掛かると、校門を眺めていた。お目当ては、一人の女子高生。彼の推しである。いつもその姿を見つけては、校舎へ消えていくまで、見つめ続けていた。


「なんでこんなに尊いんだろう……可愛い」


 その女子高生の肩まで伸びた黒髪、遠くから見てもよく分かるほどのパッチリ二重、膝上のかなりギリギリを攻めた魅惑のミニスカートは、彼の目には魅力的に写った。


 その女子高生の周りにいる友達らしき女子高生も、みんなミニスカートだ。だが、彼女とは異なる。彼女の足は肉付きが程よく、小麦色で健康的であった。しかし友達らは、病人のように色白であったり、骨のように細かったりして、魅力を感じさせないのだ。


 彼女は彼にとって、まさに特別な存在だった。いつも眺めるだけで満足していたが、この日は、少し違った。どんな人なのか、内面にまで興味をもったのだ。


 この日も彼女はいつもと同じように、友達らと一緒に曲がり角を曲がって、姿を現す。校門目がけて、彼の方へと歩いてくる。



「どんな人なのか知りたいなぁ。話しかけよっかな。画面の向こうのスターでもインフルエンサーでもないし、話せない訳じゃないよね」


 横断歩道を挟んだすぐ先に、校門がある。そこへ走っていけば、まだ校門をくぐる前に声をかけることは出来るであろう。


『あのすみません……!』


 彼は頭の中で、声をかけるシミュレーションをした。

 その瞬間、なんとも言えない緊張感で全身が強ばった。年上の女性に話しかけるというのは、普通の小学生男子には、難しいことなのである。彼は恥ずかしさで変な汗をかきながら、校舎へと消えていく彼女のことを見ていた。

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