不ぅ倫火山


 最愛のパートナーに不倫をされた……、しかし、怒ることか?


「……怒るところでしょう……っ」


「そうかな?」


「そうよ……っ、だって私はっ、あなたというパートナーがいながら別の男性と……ッ! あなたを裏切ったのだから、もっと……っ、もっとさ――私を責めてよッッ!!」


 責められたいのだろうか。


 胸の内の罪悪感で、苦しいのだろうか? ――責めたりはしないよ。


 別に、それが罰になるから、とも思っていない……、不倫が『悪』であるとは思っていないのだから。するべき理由があるなら……というより、している時点で理由はあるのだ。絶対に。


「大前提として」


 ――どうして君と結婚をしたのか、ということを思い出す。


「僕は、君を幸せにしたかったんだ」


「…………」


「不倫をしたということは、現状に不満があったということだ。どちらが悪いか、なんてのは後回しにしておくけど……、不満がある時点で君は幸せではないわけだ。

 嫌々、毎日をこの家で過ごすのが、果たして幸せな生活と言えるのか?」


「……それは……」


「僕はね、苦しみながら毎日、僕と顔を合わせてほしくはないんだ……君を支配したいわけじゃない、幸せにしたいだけだ……笑顔でいてほしい、見せてほしい。でも、それができないという状況に追い詰められているのなら、それが不倫をすることで解消され、僕のところへ戻ってきてくれる可能性が残るというのであれば――不倫をした君を責めたりしないよ」


「……私が、そのまま不倫相手とくっついても、いいの……?」


「それで君が『幸せだ』と自信を持って言えるのであれば」


『幸せである』ことが大前提だ。それが維持できないのであれば、僕と結婚しているという状況は、彼女を攻撃しているようなものではないか。不幸の元凶を叩くとすれば、彼女の幸せを維持できなかった僕の努力不足だ――実力不足とも言う。


 だったらもうしょうがない。


 彼女にとって、僕の隣が一番幸せであると思わせられなかった僕の落ち度だ。

 彼女に頼り過ぎだ。

 絶対に僕から離れないだろう、と過信し、怠惰な生活を送っていたのは、僕である。

 他の男に奪われても文句は言えない。


「……そう……変わらないわね、あなたは」

「ぶれない、と言ってほしいね」


「昔から、私が他の男の人と喋っていても嫉妬しないし、怒ったりもしないし……気味が悪い……」


「それは傷つくね……、だって他の男と喋っている君は楽しそうだから……邪魔するのは違うかなって……。だって邪魔をすれば、君は笑顔を引っ込めるだろう? それは僕の望むところじゃない……。なにもしないことで君が笑顔でいられるなら――まあいいか、って思っただけだよ。笑顔を引き出すために別の男を僕が使ったと思えば、嫉妬もしないし、怒ったりもしないさ」


「(嫉妬はしてほしいんだけどねえ……)」

「ん?」

「なんでもないわよ……じゃあ、なによ、あなたは私と離婚してもいいって言うの?」


「君が、離婚した方が幸せになれると言うのであれば、」


「――っ、ああ、そう! そうなのね! わっかりました、好きにさせてもらうから!!」


「うん……君が幸せでいられる場所ができるなら、それ以上に嬉しいことはないよ」


 ただ――、


「君の幸せを望むとは言っても、貰えるものは貰っておくよ。

 まあ、いずれは君のために使うことになるかもしれないけど……一応ね」


「……なに、を、」


「だから、君の粗相で離婚するなら、貰えるだけ貰うからね。――君の幸せを望むし、できることなら君のために使ってあげたいけど、ただそれができるのは、最低限、僕が幸せであることが条件だからね……まずは自分。その次に他人だ……だから――君から支払ってもらうお金で、僕は僕の幸せを買うよ――その後で、君が僕を頼ってくるなら、絶対に助ける――」


 僕は、笑顔で言ってやる。


「その時になってもまだ君が僕の中で最優先である限り、僕は君の味方だからね」




 …了

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