かつて、前世で子供だった者達の「今」。
ベリアが次に向かったワープ先は、荒野が広がるまた別の異世界。
西部劇の映画で見るようなオレンジの台地に、小さな
ベリアは引き続きその近くまで歩き、とある人だかりを眺めた。
そこにはあのウィリアムス鉄道会社の社長夫妻が、複数の上流階級の人達とともにテーマパークを練り歩き、何かを楽しそうに話していた。
中には荒野に似合わず背広を着用している男性もいる事から、恐らく首都圏から公人も訪れている様だ。よくよく耳を澄ませると、こんな話し声が聞こえてきた。
「そうでしたか! お孫さんは幼稚舎の授業だけでなく、家でも本を読むのがお好きと」
「はい。お陰様で、今や私達よりも物知りではないかというほどに博識です。あんな小さい子にあれだけの学力と好奇心があるのなら、是非その才能を伸ばしてあげたいですね」
と、ウィリアムス家の社長が優しい笑顔でいう。
彼らはテーマパークの遊具に乗る事はせず、ビジネスを含めた談笑を交わしているところだ。という事は、近くにそのウィリアムス家の跡取り世代もいる。
ベリアは顎をしゃくった。
――へぇ。あの人だかりの感じだとあのエマって子、名門校の幼稚舎に入学して勉強を頑張っているみたいだね。まさか、あの娘さんにそこまでの地頭の良さがあったとは。
ベリアは続けて、稼働しているテーマパークの遊具を1つ1つ見渡した。
その中にウィリアムス家の跡取り世代、つまりコンラッドとその妻・マチルダがいると睨んだからだ。すると、その中のメリーゴーランドにベリアお目当ての人達を発見した。
「わーい! お馬さんたのしー!」
「あはは」
エマだ。後ろには養父となったコンラッドがエマを支えていて、2人とも笑顔である。
やがてメリーゴーランドの速度がゆるやかになり、完全に静止すると、2人は手を繋ぎながら降りてマチルダの元へ歩いていったのであった。
「すっかり親子の顔だね。楽しそうでなにより」
と、ベリアは陰で呟く。
ところでマチルダは遊具に乗らず、一人メリーゴーランドを眺めながら椅子に座ってレモネードを飲んでいるが、そこへコンラッドとエマがかけつけてこういう。
「調子はどう?」
「うん。あれから、少しは良くなったかな。このレモネードを飲むと、あの気持ち悪い感覚がすぐに収まるの」
「そうか。それは良かった」
「ねぇ、ママもいっしょに乗ろうよー」
「ありがとうエマ。でもごめんね、私ったら最近、すぐ酔っちゃうみたいで。元気な時と、だるい時が交互にくるというか」
そういって、再びレモネードを口にするマチルダ。
中身(前世)は遊園地へ行くのを心待ちにしていた子供のはずだが、乗り物酔いでもしたのだろうか? ベリアがそう遠くで疑問視している間、コンラッドがマチルダを気遣う。
「…つらそうだな。無理させちゃったかな」
「ううん、大丈夫。ずっと、遊園地に行くのが夢だったから… うぐっ!」
「だいじょうぶ!?」
マチルダが、レモネードを飲み終えてすぐに吐き気を催した。
幸い、嘔吐まではしなかったものの、コンラッドが慌ててマチルダの背中をさすり、心配そうな表情を浮かべる。確かにマチルダの顔色があまり宜しくないようで…
「あら、マチルダさん大丈夫?」
そこへ、コンラッドの母であるウィリアムス社長夫人がかけつけてきた。
かねて嫁入りしたマチルダの様子を見かね、同じように体調を気遣ったのだ。マチルダは体調不良の波が少し収まったのか、夫人へと頭を下げた。
「ごめんなさい。最近、ずっとこの調子で… 何かの病気、じゃないといいんだけど」
「まさか。縁起でもない事を言わないで、きっと病気なんかじゃ… あ。もしかして」
夫人は何かに気がついた様だ。だんだんと喜びの笑みを浮かべるものだから、コンラッドとエマが揃って「?」となっているが…
「!!」
ベリアも気がついた。ベリアはとたんに赤ら顔で、自身の口元を両手で塞ぐ。
夫人は頷いた。
「うふふ、きっとそうだわ。今度、一緒に女医さんの所へ行きましょう? きっとエマちゃんにとっても、いいお知らせが聞けると思うから。ね? 暫くはゆっくり休んで」
「え? …はい」
夫人はなぜ、こんなにも嬉しそうなのか。今のマチルダには分からない。
でも、信頼できるコンラッド達家族の言うことだから、ここは素直に従った方がいいとの判断である。マチルダは夫人の言葉に頷き、引き続きエマがコンラッド付き添いのもと、次の遊具へ乗りにいく姿を眺めたのであった。
「マジかぁ。マチルダ、ご懐妊か。さて、お邪魔虫はとっととずらかろうっと」
ベリアは咳払いをし、赤ら顔にその場を去っていく。
マチルダ達家族が先の体調不良以外、うまくやれている事が確認できたので、さっさと次の場所へ移動である。次、また様子を見に行った頃には家族が増えている事だろう。
当然、ベリアがその場にいた事に、マチルダ含め誰一人気づいている家族はいなかった。
(つづく)
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