ベリア、今日まで出会った悪女達に助けられる。

「「わあああああああ!!」」


 手下達の突撃スタンピードは、容赦なく悪女たちのいる方向へと向けられた。

 邪魔が入ったので、まずはその者達を排除する、というルシフェルの悪あがきか。だが、それで怯む女性たちではない。


つるぎの舞よ! 我をまもたまえ!』


 最前線に立つのは、歌を武器にして戦う修道女の佐藤まりな。

 父親が逮捕され、「犯罪者の娘」というレッテルを貼られ一時は自殺を計ったものの、転移先の異世界での経験を通じ、今やその境遇を乗り越えた歌姫である。

 そんな彼女が「音をカタチに」して作り出すものは、とても強力であった。


『皆のもの、進め! この苦境を打ち破れ!!』


 と、まりなが詠唱した瞬間、浮遊していた無数の剣が一斉に手下たちへと飛んでいった。

 剣は、その殆どが手下達に命中し、彼らは次々と断末魔を上げ、倒れていく。

 今の遠隔攻撃で、スタンピードの約半分が蒸発したのであった。


 だが、生き残っている手下たちは、中々に手ごわい。更なる戦力が必要だ。

「どりゃあああ!!」

 そこで同じく最前線から、強烈な熱風とともに豪快な剣術を披露したのはピティエ。

 前世が極道令嬢で、異世界では村で慕われている聖火騎士として過ごしていたが、毒親を制裁し、願いを叶えた後は一度現実世界へ戻っている。

 だがそこも恐らく、ソウちゃんの願いの影響だろう。魔法を保持するには「その体が転生/転移先の異世界にいる」事が条件だからだ。


「この聖火騎士様、伊達にドラゴンをぶちのめしたガラじゃねぇんだよ!!」


 そう叫びながら、剣の一振りとともに強烈な炎舞を発現する。

 予知能力もあるから、一際強力な手下でも攻撃を躱され、歯が立たないほど。

 こうして彼女の近くにいた手下たちは、どんどん炎に焼かれ、倒されていった。


「彼女の予言通りね。敵の大群は、別の方向からも攻めてくる… みんな! 作戦通りに配置について! 姫ちゃんは砂を、クリシーヌはデコイ、エレノアは猫で悪戯いたずらよ!」

「「「はい!」」」


 後方支援で、ほか女性たちにそう指示を送ったのはサラ。

 保育士から一流宝飾ブランドの次期会長に転生したあと、人と人の心を入れ替える能力を駆使し、婚約破棄を言い渡してきた元婚約者の浮気や悪行を暴いた。ここにいる悪女メンバーの中でも聡明で、指導者としての素質がある。


「ふざけた格好をした女だな! ひっ捕らえろー!」

「「おー!」」


 早速、手下たちが1人の女性に標的を絞った。

 この殺伐とした地獄に、なぜか結婚式で着用する純白のドレスを着た女性が、1人で立っているのだ。目立つのも無理はない。


 そんな誰もが目を惹く格好でその場に佇んでいるのは、クリシーヌであった。

 前世を男の暴力によって殺され、転生先の異世界でも結婚初日から監禁されそうになったり、何かと不遇な扱いを受けてきたが、それゆえ危機的状況から逃げる足は秀でている。授かっている能力も、それに準拠しているものだ。


「うおおおおおお! …て、あれ!?」

 手下たちが一斉にクリシーヌを捕獲しようとしたが、気が付けばそこに彼女はいない。

 一瞬で、消えたのだ。一体、何が起きたのやら。

「見ろ! あそこだ!!」

 手下の1人が、別の方向へと指をさす。そこにクリシーヌはいた。


 彼女の能力は「ワープ」。デコイとして動いている理由はそれ。

 まさかそんな理由で翻弄されているとは知らず、手下たちはなお、一見ただ逃げているだけのクリシーヌを追いかけ続けた。


「よーし、その間に」

 一方、時同じくして別の所では準備が進められていた。

 準備を進めているのはマチルダ。12歳で虐待死を遂げた転生先は、同じく虐待で苦しむ娘を育てている専業主婦。娘を幸せにするため、武器にもなる錬金術を授かってきた。


「そーれ!」

 マチルダは地面の砂をひと掴みし、それを空へと投げた。

 ながら、呪文を唱える。すると、砂粒だったものが全く別のものへと変換された。

「よいしょ~」

 マチルダがその中から降ってきたものを手に取り、手下たちが暴れている所へと構える。

 砂から物質変換がされたのは、まさかのロケットランチャー。その重く大きな銃砲を肩に乗せ、銃口を敵陣へと向けた。そして、

「いま住んでいる異世界で、実物に触れて学んできたの。私を見くびらないでよね!」


 刹那。マチルダが引き金を引いた口から、ロケットが爆音とともに放たれた。

「うわあああああ!」

 ロケットは敵陣へと命中した。ベリアが戦いの際に用いた爆発と同じくらいの勢いで、手下たちは木っ端微塵に吹き飛んだのである。


『おのれ、余所者が! 今すぐここで消してもら…!!』


 これには魔王ルシフェルも苛立ちを隠せず、悪女たちに攻撃しようとする。

 だが、足元を何かが這うような感触が走った。ルシフェルが言葉を止め、そちらへ振り向くと、そこには1匹の長毛のイエネコがスタスタと走り回っていた。

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」

 猫の正体は、人間が動物に変身している姿。エレノアだ。

 望まぬ結婚によって悲しい最期を迎えた彼女を、ベリアが逆行転生させたことで本物の幸せを手に入れた。その変身魔法だけでも、正に癒しというべきか。


『ゴミが、ちょこまかと!』

 だがルシフェルは、猫程度では決して改心しない。

 それどころか、走り回るエレノアを拳で殴り潰そうとするほど、情の欠片もなかった。


「こっちよ! クリシーヌ!」

 その間、サラの手にはマチルダの物質変換魔法によって作られた、成人女性とほぼ同じサイズのミサイルが抱えられていた。

 それを掲げ、敵を翻弄していたクリシーヌを呼ぶ。クリシーヌがすぐさまサラの元へワープをすると、ミサイルが手渡され、ミサイルのお尻には長い導火線が着火された。

「急いで! ここからは私が惑わせる!」

 サラの指示を仰ぎ、クリシーヌがコクリと頷く。

 こうしてクリシーヌが魔王ルシフェルの近くまでワープすると、エレノアに気を取られている隙にルシフェルの足元へこっそりミサイルを置き、続けてエレノアを抱え、すぐさま再びワープして消えたのであった。正に目に見えぬ速さであった。


「「やあああー!!」」

 手下達は遂に、サラ達の方向へと突進してきた。

 中には、強力な翼竜もいる。それでも、サラは決して逃げはしなかった。


「ふん!」

 自らの両手を交差してから、すぐに腕を力強く広げたサラ。すると、


「おわぁっ!」

「ぶべやぁぁー!!」

 翼竜が、次々と軌道を狂わせ墜落。人型が、将棋倒しに倒れたではないか。

 そう。サラの「心と体を入れ替える魔法」の発動により、翼竜の心は人型へ、人型の心は翼竜へと替えられ、みな身体上のコントロールを失ったのである。


「さぁ、あれが爆ぜる前に早く逃げるわよ!?」

 サラにそう促され、マチルダ達がうんと頷きながら、その場を離れる。

 そして次の瞬間、


 ――。


 足元に置かれていたミサイルが、今日一番の大爆発を引き起こした。

 ルシフェルはそれに飲み込まれ、爆風と共に地獄の断末魔を上げる。

 ベリアの時とは訳が違うので、次こそは本当に深手を負った事だろう。手下たちも全員、逃げきれず蒸発していった。


 悪女たちが独自に練ってきた無双作戦は、無事に成功したのだ。


(つづく)

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