冒険配信者の俺はケモ耳美少女と手を取り合って成り上がるようです ~スキル言ノ葉飛ばし&音玉飛ばしでダンジョン攻略~

腰尾マモル

第1話 強面の文字使いとケモノ少女


※第1話だけ9000文字もあるので他話に比べて3倍ぐらい多いです


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「だ、誰か! 助けてっ!」


 至る所に石柱が並ぶ薄暗い洞窟型ダンジョンを歩いていた俺の耳へ鼻にかかった高くて可愛らしい声が飛び込んできた。声質からして小学生、いや女性の可能性も高そうだ。


 モンスターに追われているのだろうか? それとも質の悪い冒険者に狙われているのだろうか? どちらにしても助けられるなら助けてやりたいところだが、声が聞こえた位置は近そうなのに不思議と足音が聞こえてこない。


「う~ん、どういうことだ? まぁ、声はしっかり聞こえたわけだから、そっちに向かって歩けば分かるか。確か、この道を左に曲がれば、痛ッ!」


 俺の腹に何か硬いものが勢いよくぶつかり、堪らず俺は後ろへ仰け反った。ショボい革鎧しか装備していないから正直結構痛い。


 ぶつかったものがモンスターだったら危険だと思った俺は慌てて武器である棍棒を構える。しかし、俺の前にいたのはモンスターとは真逆の超絶可愛い少女だった。


 背は140ちょっとぐらいだろうか、ローブを羽織っていても華奢だと分かるぐらい細い体格、丸っこいスカイブルーの瞳は西洋人形のように美しく可愛らしい。


 加えて栗色をした長めのボブカットは年相応の快活さを感じる……とは言っても勝手に14歳ぐらいだと予想しているだけなのだが。


 ローブの下に着ている服は半袖にショートパンツ、ゲームで言えば盗賊装備っぽい感じだが、青い宝石の付いたブレスレットがどこか高貴さを感じさせる。


 とにかく見た目も声も可愛いから好みが二次元美少女に偏っている俺ですら一気に三次元へ傾いてしまいそうな破壊力だ。生粋のロリコンなら手を繋いだだけで魂が浄化されることだろう。


 少女は涙目で自身の頭を両手で抑えると初対面の俺に対し、上目遣いでとんでもないお願いをしてきた。


「お、追われているの、何処かに隠れないと今度こそ掴まっちゃう。逃げるのを手伝ってくれませんか?」


「えっ? 逃げると言っても相手がどんな奴らなのか教えてもらわないと手の打ちようが――――」




――――ガキはこっちに逃げたはずだ! 絶対に捕まえるぞ! ――――




 まずい……悠長に話を聞いている暇はなさそうだ。とりあえず一時的にでも身を隠してあげなければ。急いで周りを見渡した俺は近くの岩壁に大きな亀裂が入っているのを発見した。


 あの亀裂なら奥に入れば暗くて見つからないはずだ。俺の体格では通れないが小柄な少女なら大丈夫なはずだ。俺は亀裂を指差し、身を隠すように指示を出す。


 少女は頷きを返すと俺の狙い通りスイスイと奥へ進んでいった。亀裂の近くで見ている俺でも見えないぐらい奥に入ることが出来たからひとまず大丈夫だろう。


 あとは追手が離れた位置に移動してくれればベストだが、その為には俺が一芝居する必要がありそうだ。俺はこちらへ走ってきている鎧を着た5人組の男達に向かって手を振り、声をかける。


「おーい! 慌ててどうかしたっスか?」


「うむ、こっちに小柄な女が走ってきたはずだ。見かけなかったか?」


 5人組のリーダーと思わしき髭面の中年男性が血走った眼で俺に問いかけた。俺は自分が歩いてきた方向を指差して嘘の情報を答える。


「少女? ああ、栗色の髪の少女か。あの子なら向こうの方へ走っていったっスよ」


「うむ、あっちだな。いくぞお前達! 絶対に捕まえて帰るんだ!」


 男達は見事に俺の嘘を信じると勢いよく俺達から離れていった。男達を見届けた俺は岩壁の亀裂に近づき「もう出てきていいっスよ」と奥で隠れている少女に声を掛けた。少女は恐る恐る亀裂から顔を出すと、安堵の溜息を吐き、その場に座り込んだ。


「助かりましたオジサン。これで暫くは大丈夫そうです、お名前を伺っても……キャァッ!」


「ん? どうかしたっスか?」


「ああ、ごめんなさい。今まで逆光で顔が見えなかったから、あの~、その~、見た目に驚いちゃったというか……」


 少女が驚くのも無理はない、俺は自他共に認めるほどの強面だからだ。


 スキンヘッドに口髭、眉毛も剃っているからそれだけで充分怖いとは思うが、加えて199㎝の筋肉質な体系は威圧感があるだろうし左目には黒い眼帯もしている。加えて眼帯でも覆い切れない十字の傷は到底普通の人間には見えず、怖さを跳ね上げているだろう。


 実際、趣味でカードショップに入店した時も何もしていないのに警官に囲まれた事があるし、ヤ〇ザの事務所近くを散歩していただけでカチコミだ! と因縁を付けられた事もある。俺はどこにでもいる善良なオタクだというのに酷い話だ。


 とはいえ普通の人間が俺の姿に驚くのは仕方がないし慣れっ子だ。相手は小柄な女の子なのだから尚のこと恐く見えるだろう。ここはいつも以上に丁寧に接することにしよう。


「いつも恐がられているから全然平気っスよ。それより君はどうして追われているっスか? いや、先に自己紹介をした方がいいか。俺の名前は淡野 薫あわの かおる ランク30 スターレベル7500のソロ冒険者っス。自分のペースでゆっくりとタメ口でいいから君の事を教えて欲しいっス」


「あ、ありがとう。それじゃあ普通に喋るね。えーと、私の名前はアイリス。理由は話せないけど『悪い組織』と『悪いパーティー』から追われているの。組織の人はさっき通り過ぎていったからしばらく大丈夫だと思うけど、パーティーの方はまだ近くにいるかも……」


「ん? 組織とパーティーって別々の奴らから追われているのか。ってことはまだまだ油断はできないっスね。警戒しつつ出口を探さないと。とりあえず俺とパーティーを組むことにしよう。その方が守りやすいっスからね。能力板ステータス・ボードで冒険者番号を交換するっスよ」


「え? 能力板ステータス・ボードって何ですか? それにランクやスターレベルって言葉も聞いたことがないです……」


 冒険者なら誰もが知っているような基本情報を少女が一切知らない事に俺は驚かされた。とはいえ俺達が今いるダンジョンも他のダンジョンも9年前、地球全体にいきなり現れたダンジョンであり、分かっていない事も多い。ここは一旦昔話も交えながらアイリスに説明しておこう。


 あれは確か俺が15歳の時に全世界のスマホとパソコンの画面に突如『ダンジョン・スター』というアプリが現れたのが始まりだった。スマホやパソコンさえあれば誰でもダンジョンに侵入できるようになったのだ。


 ダンジョンに侵入といっても町にダンジョンがそびえ立っている訳ではないし、ダンジョン冒険中に傷ついた自分の体が脱出した後も傷ついている訳でもない。


 ダンジョン・スターのアプリ通称ダンプリを10秒間長押しすると肉体は湯気のように消え、異なる位相のダンジョンに飛ばされる仕組みのようだ。現実の体は一時的に消えているというのにダメージを持って帰らないのはいつもながら不思議だなと思う。


 ダンジョン世界はまるでオンラインRPGのように『攻撃力、HP=生命力、MP=魔力残量』などの概念があり、スキルや魔術が使えて、基本4人までならパーティーを組むことができる現代っ子には分かりやすいルールだった。


 能力値確認・パーティー申請・フレンド申請なども能力板ステータス・ボードという板を使えば簡単に行うことが可能で、能力板ステータス・ボードは石版とタブレットを足して半透明にしたような見た目をしているから直感的に操作しやすい。


 また能力板ステータス・ボードをレンズのようにしてモンスターや人を見つめれば種族が分かるし、中立モブ・敵対モブなどの簡単な情報も確認できる親切な仕様もついている。


 しかし、ダンジョンの攻略難易度自体はかなり高く、死亡すればレベルや装備をいくつか消失ロストしてしまう。だが、それよりももっと恐ろしルールが存在する、それは『現実の肉体が100~999日間石化してしまう』というルールだ。


 加えてHP0の戦闘不能状態になってから幾らかダメージを受けるだけですぐに死亡扱いとなり死んでしまい、死亡状態から復活させる魔術やアイテムが無いのも厳しさに拍車をかけている。


 とはいえ石化している間は現実の肉体老化も止まり、解除後も副作用的なものが無いという点だけは救いがあるのだが。


 誰が何の目的で超大規模のダンジョン群とアプリを作ったのかは分からない。だが、1つだけ確かなのはアプリやダンジョンを作った奴は間違いなく性格が歪んでいるってことだ。


 他にも細々としたルールはあるが基本はそんなところだろう。これらの情報はアプリ初回起動時に必ず読むことになるのだが、ダンジョンに侵入しているアイリスが何故基本情報を知らないのかが謎だ。


 誰かに無理やりダンジョンへ放り込まれたのだろうか? それが親の虐待だったり学校のイジメなら絶対に許しておけないが、そもそも超社会現象と言っても過言ではないアプリ『ダンプリ』そのものを知らない現代人がいるだろうか?


 しかし、アイリスが嘘をついているとも思えない。あとで落ち着いてからゆっくり聞くとしよう。


 彼女に伝えるべき情報はこれくらいだろう。ちなみにダンジョン・スターにはスターレベルという名称の『尖ったシステム』が存在するのだが、何も知らないアイリスに説明しても頭がこんがらがってしまうだろうから今は黙っておいた方がいいだろう。


 俺が説明を終えるとアイリスは分からないなりに理解してくれたようで、覚えた情報を復唱し始めた。


「つまり能力板ステータス・ボードを出したいと念じるか、声に出せば能力板ステータス・ボードが出現して、パーティー手続きや強さの確認が出来る訳なんだね。ランクはあくまで強さの目安であってダンジョンクリアやモンスターの撃破などで上昇する……と」


「その通りっス。今はそれだけ覚えておけばいいっスよ。難しいことはダンジョンを出てからアプリ内チャットで教えるからさ。特にスターレベルの説明は今の『アイリスたん』には難しいからね」


「アイリスタン? 私の名前はアイリスですが……まあ、いっか。分かった、ありがとねオジサン。それにしても私はランクが1しかなくてスターレベルは0……相当弱いみたいだね……」


「まぁ、冒険にかけた時間や知識量がランクやスターレベルに関わってくるからな。加えて現実の肉体強度とかも戦力面で響いてくるから子供で素人のアイリスたんは戦おうとしなくていいっスよ。それより今は追手に見つからないように早くダンジョンを脱出す――――」




――――待ちな! やっと見つけたぜぇ、クソガキ! ――――




 俺の後ろから巻き舌でオラつく男の声が聞こえた。俺が後ろを振り向くと目の前には如何にもヤンキーですと言わんばかりに口、舌、鼻にピアスをした4人の男女が立っている。


 その中で特に目立っている金髪モヒカンの鋭い目をした男はアイリスを指差して声を張り上げる。


「そこのデッカいオッサン。悪いがガキはゲサンチャンネルの代表である俺様ゲサンの所有物だ。こっちに返してくれたら手荒な真似はしねぇ。さあ、こっちにガキを渡せ」


「ゲサンチャンネル? 悪いけど知らないっスね。それにあんたらみたいな如何にも悪者ですって見た目の奴にアイリスたんは渡すのは抵抗があるぞ。まずはあんたらが何者で、どんな理由があってアイリスたんを狙っているのか聞かせてもらおうか」


「あいりすたん? もしかしてオッサン、反社会的な見た目をしているクセにオタクなのか? 俺らと同類のチンピラかと思っていたが。まあいい、教えてやるよ。俺達はいわゆるレアエネミー狩りが主体のダンジョン配信者だ。今回はお前がアイリスと呼んでいるソイツで配信を盛り上げるつもりだ」


「レアエネミー狩り? 何を言ってるんだ?」


「そうか、お前は何も知らないんだな、ちょっと待ってろ」


 そう告げるとゲサンは能力板ステータス・ボードを浮遊させ、形を板状から球体へと変化させた。能力板ステータス・ボードには360度を撮影できるカメラみたいな機能も付いており、球体に変えると冒険の様子をダンジョン外の人間たちへ配信することが可能である、つまりゲサンは配信を開始したわけだ。


 能力板ステータス・ボードの球体状態は通称カメラモードと呼ばれており、使用者は能力板ステータス・ボードを触るか声で操作することが出来る。カメラモードは更に状態を数種類選択できる仕様になっており


・視聴者のコメントを他の冒険者に見せることも出来る『全閲覧モード』


・逆に自分だけが見られるようになる『単独閲覧モード』


・パーティーメンバーだけがコメントを見られる『パーティー閲覧モード』


・コメント自体を禁止する『コメント禁止モード』



 といった様々なモードを扱う事ができる。


 このカメラモードを含むダンジョン配信機能こそがダンジョン・スターにおける最も尖ったシステムだ。現実の動画・配信サイトと同様に『再生数・視聴者数・登録者数・高評価数』の項目があり、それらの数値が増えれば増えるほど攻撃力や防御力などのステータスを強く上昇させるのだ。


 各数値がどんな計算式でステータスを増加させているのかは未だに解明されていないが、とにかく数字を増やす事がステータスアップに繋がるのは確かであり、アプリをタップした際に表示されるヘルプにも明記されている。


 故に現実やダンジョン配信でファンを増やし、人気を得た者こそが強くなれるシステムである。現実での身体能力の高さや反射神経も重要ではあるものの如何にして多くの人の心を掴む工夫が出来るかが重要なのだ。


 ゲサンのやっていることも倫理観は欠如しているがファンを増やすにはもってこいの手段であり、暴力的な配信などのいわゆる『炎上系配信』は扱う題材によっては爆発的に伸びる可能性が高い。


 そういえばゲサンチャンネルという名前もどこかで聞いたことがある気がしてきた。確かSNSで時々流れてくる炎上系のチャンネルだったはずだ。今回は可愛いアイリスを使って再生数を稼ぐつもりみたいだが、一体どうするつもりなのだろうか?


 俺が棍棒を構えて警戒しているとゲサンはアイリスの方へ向き、自身の頭を指差しながらとんでもない事実を口にする。


「おい、クソガキ。もう正体を隠すのはよせ。オッサンと視聴者にお前の耳を見せるんだ。もし拒否するなら乱暴するだけじゃ済まさないぜ?」


 下衆な言葉を吐くクソ野郎を今すぐブッ飛ばしてやろうと俺は棍棒の先に魔力を溜めた。しかし、アイリスは右手で俺の腕を掴んで首を横に振り、残った左手で自分の髪を掻きあげる。


 すると、アイリスのボブカットから熊の耳にそっくりな耳が栗色の毛に包まれた状態でピョコんと飛び出した。同じくローブの下からはタヌキの尻尾を大きくしたような栗色の毛の尻尾が姿を現し、ユラユラと揺れている。


 俺はそこそこ長期間ダンジョン探検を続けているが、アイリスの耳や尻尾のような装備は見たことがない。それどころかネットで集めたダンジョン・スタ―の情報ですら見たことがない。


 まさか、獣人なわけが無いと思うし一風変わった装備なのだとは思うが、少なくとも超レアであることに変わりない。それとも、ゲサンの言うように本当にモンスターなのだろうか? だとしたら随分と擬態の上手いモンスターってことになるが……。


 能力板ステータス・ボードのレンズ機能には対象者が味方or敵対モンスターor中立的存在かを見極める機能がある。俺は早速能力板ステータス・ボード越しにアイリスを見つめた。


 するとレンズには人間であることを示す緑色の光が示されており、アイリスが人に化けるタイプのモンスターではないことが証明された。俺は馬鹿げた台詞を吐くゲサンに真実を伝える。


「ちょっと待てゲサン。今、能力板ステータス・ボードのレンズ機能でアイリスたんを見てみたが人間と表示されたぞ。レアエネミー扱いなんて馬鹿な真似はやめてさっさと帰るんだな」


「いいや、オッサンは嘘を言っている。騙されないでくれよな視聴者の皆! 俺様はちゃんと自分の目でクソガキが敵対エネミーだと確認したんだ。邪魔するならオッサンを殺しちまうぜ?」


 今、ハッキリとゲサンの狙いが分かった。こいつらは配信を盛り上げる為に全員で嘘をつくと決めたんだ。


 視聴者目線ではゲサンの能力板ステータス・ボードが映し出すエネミー判定を確認できないし、俺とアイリスの二人だけが否定したところでチャンネル主であり人気者のゲサンが黒と言えば白だろうと黒になる。


 視聴者も仮に嘘が分かっていたとしてもゲサンが少女を痛ぶる様子を見たいから黙認している可能性だってあるだろう。


 アイリスは全てを諦めたのか俯いて涙を一粒地面に落とした。


 その瞬間、俺の心はゲサン達を完膚なきまでにぶっ潰すことを決めていた。ダンジョン・スタ―における死のペナルティは相当重いから極力他の冒険者たちを倒したくなかったが仕方ない。


 現実世界ほどではないが、ダンジョン・スター内でも痛覚はあるし、他人に見られている以上恥ずかしさだってある。そんな世界で苦しんでいるアイリスを放っておく訳にはいかない。


 アイリスは消耗しているうえに素人だから実質俺一人とゲサン達4人の戦いになるだろう。普通なら勝つのは厳しいが俺の意志力とスキルで刺し違えてでも倒してやる!


 俺が体に全快の魔力を漲らせるとゲサンは分析をしながらほくそ笑み、仲間に指示を出す。


「ほほう、中々の魔力だ。魔力を身に纏うことで身体能力を上げるのは基本にして一番大事な戦闘能力だからな、基礎がしっかりしたオッサンなのは分かる。だが、それだけ強い魔力を纏えばMPはすぐに枯渇するだろうな。アキラ! お前の槍と盾でオッサンのMP切れを狙え! オッサンがガス欠を起こしたら俺様がトドメを刺す」


 指示を受けた槍術士そうじゅつしの男は盾を構えながらじりじりとこちらへ近づいている。俺の戦闘スタイルが分からない以上、少しずつ距離を詰めるのは正解だろう。


 だが、相手がどんな攻め方をしてこようとも俺は真正面から相手を叩き潰すだけだ。槍術士そうじゅつしの男は自身の間合いに入ったと確信を得ると、片手槍を持つ右手をギュッと握りしめ、掛け声と同時に突きを放つ。


「喰らえっ!」


 男の突きは速く、槍先はブレることなく真っすぐに俺の左胸に直撃した。槍術士そうじゅつしの男は間違いなく手ごたえを感じたことだろう。実際に攻撃が直撃してダメージが入ったことを示す水色のエフェクトじみた光が槍先から溢れ出している。


 それでも俺の体は仰け反らず、顔も苦痛に歪ませてはいない。何故俺が平気な様子でいられるのか……それは何か特別な防御術や耐性スキルを持っているわけではない。単にフィジカルにものをいわせて痩せ我慢しているだけだ。


 ただの痩せ我慢とはつゆ知らず、不気味に思ったであろう槍術士そうじゅつしの男は慌てて槍を引こうとするが、槍を引くよりも先に俺の右手が槍の柄を掴んだ。


「ゲサン一味の強さはこんなものか? 俺が本当の『突き攻撃』って奴を見せてやるよ」


 俺が宣言すると槍術士そうじゅつしの焦りはピークに達し、綱引きのように体重をかけて不様に槍を引っ張り出した。それでも基礎のパワーが違い過ぎて槍術士そうじゅつしは一歩も後退できていない。


 俺は右手で槍を掴みつつ、左手でスキルを発動させる為に魔力を練る。すると槍術士そうじゅつしはとうとう諦めて槍を手放し、背中を向けて逃げ出す。


「ヒイイィィ! や、やめてくれぇ!」


「悪いがどれだけ逃げても無駄だぞ。俺のスキル『言ノ葉飛ばしことのはと』はそこそこ射程が長いからな。覚悟して喰らいやがれ! 言ノ葉ことのは 正拳突きッッ!」


 俺は腰を深く落とし、槍術士そうじゅつし目掛けて真っすぐに正拳突きを放った。俺の拳が空を切ると同時に、手からバレーボールほどの大きさをした光が飛び出し、超高速で槍術士そうじゅつしに近づいていく。


 後ろから迫るエネルギーに気が付いた槍術士そうじゅつしが引き攣った顔で後ろを振り返ると、ちょうど光が槍術士そうじゅつしの額に命中し、衝撃で頭を後ろに反ると堪らずその場に倒れて気を失った。


「ふぅ……何とか命中してよかった。あそこで外していたら格好悪かったからな」


 安堵した俺が呟くと、一連の戦いを見ていたゲサンが大きく舌打ちし、眉間に皺を寄せた顔で俺に詳細を尋ねる。


「おい、オッサン、一体どんな攻撃をしたんだ? うちのメンバーを一撃で倒すなんて相当凶悪なスキルみたいだが」


「確かめたかったら仲間の体が死亡扱いで消失しちまう前に額を見てみるといいさ。そこに俺のスキルの跡が宿っているからな」


「スキルの跡だと? 妙な言い方をするじゃないか。まぁいい、俺様が直々に確かめてや……なんじゃこりゃ!」


 槍術士そうじゅつしに近づいたゲサンは幽霊でも見たかのように驚き、慌てて後ろへと飛んだ。まぁ、今まで俺の言ノ葉飛ばしことのはとを見た人間は全員がスキルの異質さにビビっていたからゲサンが大きなリアクションをとってしまうのも仕方がないだろう。


 ゲサンは他の仲間達にも見えるように槍術士そうじゅつしの上半身だけを起こすと、目尻を険しく吊り上げて怒鳴った。


「何なんだ! この額に付けられた馬鹿げた文字は! オッサンのスキルは人体にラクガキをするスキルだっつーのかァッ?」


 ゲサンの言う通り槍術士そうじゅつしの額には俺が刻んだ文字が刻まれていた。その文字はシンプルに2文字で『愚劣ぐれつ』と刻まれている。


 そう、俺のスキル『言ノ葉飛ばしことのはと』は質量を持った文字型の物質を浮遊させて飛ばしたり、文字を生物や無機物に刻むことが出来る能力だ。


 厳密に言えば他にも出来ることはあるのだが、基本的には文字を飛ばして文字を刻む能力であり、戦闘スキルとしてはパッとしない。そんなスキルを使って槍術士そうじゅつしにわざわざ『愚劣ぐれつ』なんてふざけた文字を刻んだのには2つ理由がある。


 1個目の理由はゲサンチャンネルを見た視聴者にゲサン達がクズであることを視覚的に分からせつつ、恥を与えて奴らの評価を下げる狙いだ。応援してきた冒険者たちが不様な刻印を付けられて敗北したならば応援の熱もいくらか冷めるだろう。


 そして、2個目の理由は極めて単純…………俺がムカつき、奴らに抱いた印象を刻んでやりたいと思ったからだ。刻印が刻まれる時間は魔力量に比例して長くなる性質があるから、大ダメージを受けて倒れた槍術士そうじゅつしは2,3日、下手したら1週間経っても刻印が消えないかもしれない。


 ゲサンは油汚れを拭き取るように必死で槍術士そうじゅつしの額を拭いているが無駄な努力だ。刻印が消せないことを悟ったゲサンはゆっくりとこちらへ振り向くと怒りを誇示するように地面へ唾を吐き、剣先をこちらへ向ける。


「ふざけたスキルを使うオッサンだな。お前は完全に俺様を怒らせた。こうなったらただ殺すだけじゃ済ませないぜ? 徹底的に痛ぶってお前のチャンネルを再起不能なまでに破壊してやる。お前のチャンネル名を名乗りやがれ!」


 ゲサンは血が逆流しているのではないかと思うほどにキレている。あんな奴でも一応仲間を大切にしているのかもしれない。だったらここはゲサンの怒りに応える為にも普段は名乗らないチャンネル名を名乗ってやろう。


「いいだろう教えてやる。俺のチャンネル名は『オタクよ、永遠なれ』だ。そして、俺の名前は淡野 薫…………ダンジョン・スターをクリアする男だ!」





=======あとがき=======


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