#13 合同パーティー

260名無し

これガチ魔術師じゃん。どこがダンジョン初心者だよ


261名無し

ひっでえ無茶振り企画で草


262名無し

田中くんこわれちゃった……


263名無し

田中メシマズかよギルマスに代われ


264名無し

クマさんだけが癒し


265名無し

言うほど癒しか?爪の隙間に臓物挟まってんぞ


266名無し

くまくんが串刺しロリのこと「せんせい」って呼ぶのかわいい。せんせいはこわい


267名無し

は? 天使かこの熊???


268名無し

実質ロリ枠


269名無し

は?ショタなんだが?


270名無し

かーっ!卑しか熊ばい!


271名無し

熊 本 の 白 い 悪 魔


――――――――――――――――


 昼前には今朝上げた動画が結構な再生数で回っていて、コメント欄は主に「これ何の魔法?」という質問で埋まっていた。

 冒険者による魔法使用の動画程度は今更目新しくもなんともないが、生活魔法に関してはほとんど検索にヒットしない。


 どうやら老師が教えてくれたのは前世由来の知識であったようで、ほとんどの人々は混乱するばかりで、ただ一件だけ絶版本をソースに解説するマニアックなコメントがある。


 考えてみれば生活魔法などというものはダンジョンの消失と共に使い手が途絶え当然失伝するし、日々の生活に役立つから使われていたものを、役に立たないのに保存しようとする物好きもそうそう居はしないだろう。


 *


「権藤ォ? 知らねえなそんな奴」


 冒険の準備を進めながら今朝の男のことを聞いてみると、老師はあっさりと首を振った。


「いや、心当たりがないならいいんです」

「気になるんならこれからタニバにでも聞いてみると良い。あいつはあたしと違って顔が広いからな」


 タニバ? 耳慣れない名前を出されて疑問符を浮かべる俺に、先輩が助け舟を出してくれる。


「谷場さんはね、今日一緒にダンジョンに潜る予定の――っと、まずはこっちを説明しないとね。今日は他所のパーティーと合同で探索をするんだけど、その相手側の『鋒山』のリーダーが谷場さんなの」

「他ギルドと合同で?」


 初耳の情報に思わず聞き返すと、先輩が小さく頷く。


「そ。危険度の高いエリアに初見で挑むときなんかは、別のパーティーと一緒に潜るのも珍しくない話だよ。まああんまり人数が多くなりすぎても動きにくいから、大体二~三パーティーぐらいだけどね。あ、今日はそんなに危ない場所に行くわけじゃないから安心して」


 説明を終えると先輩はこっそりこちらに耳打ちする。


「老師は平日は午後からしかダンジョンに潜れないから、ぼくと田中さんだけでも他所の人と組んで潜れるよう気を回してくれたみたい」


 *


 準備を終えダンジョンゲートに向かうと、いつもの待ち合わせ場所に既に一団が待っていた。

 こちらが視界に入るや否や、一目でそれと分かるリーダーらしき男が大声で挨拶をする。


「久しいなソフィアくん! 新人はそちらの彼か?! 『鋒山』の谷場だ!! 今日はよろしく頼む!!」


 その声のでかさに驚いたが、更に俺の目を惹いたのはその男の恰好だった。なんというかこう、冒険者然というよりは武装した山男の格好なのだ。

 金属製の胸当てもつけ、背中には長剣こそ帯びているが、腰のロープやカラビナフック、それから年季の入ったブーツはまさに登山家の装備である。そして他のメンツも概ね同じ風体で、皆一様に揃いの色のポンチョを着用していた。


 話によると『鋒山』は大学の登山サークルを前身としたギルドだという。

 体育会系としか形容のしようがないリーダーの谷場に加え同年代の男が二人、さらに若い青年と女性がそれぞれ二人。ほぼ居ないも同然のチャールズ氏を加えてさえ四人しか見ない『さくら荘』とはえらい違いの大所帯である。


 「今日はよろしくおねがいします」


 先輩がぺこりと頭を下げる隣で俺も倣う。老師は満足げに頷くだけだった。

 さっそくとばかりに迷宮へ足を踏み入れ、歩きながら自己紹介をする。向こうの二人の女性の内、年の若い方は俺とそう変わらない時期に迷宮に潜り始めた新人であるらしい。

 どうやらこの合同パーティーはお互いの新人の研修を兼ねたものであるらしい。

 少し緊張気味に蔵見と名乗った新人の彼女は向こうの先輩たちから闘争心が足りないと野次を飛ばされていた。とはいえ両ギルドの威信をかけてというような話でもなく、老師も先輩もどこ吹く風だ。


「今日は一層で魔物の討伐訓練を行う。先日の迷宮氾濫の影響で各所に魔力溜まりが発生しているのは知っているな? 普段よりも魔物の出現が多く、また上位個体が見つかる確率も高い。索敵及び初期対処は新人各位に担当してもらう。他の者はなるべく手伝わないようにするので、気を付けて掛かるように」


 谷場の説明を受けて気を引き締め直す。

 ダンジョン自体の持つ恒常性によって、基本的に魔物は成長しない。その例外が魔力溜まりの過密により起こる共喰いである。

 潮が引いた後に残る潮溜まりのように、現在この迷宮には無数の魔力濃度の高いスポットが点在しており、そこでは共喰いを生き抜いた上位個体が発生することがある。


 そんな危険度の高い場所で新人二人が先頭を切って、その後ろを熟練のメンバーらが付いていく。当然何かあったときに備えフォローの用意はしているだろうが、気の抜けない状況であることには変わりない。

 それにしても。寄せ集めの俺と比べ、向こうの新人は随分整った装備をしている。

 こちらの呟きに頭数の多いギルドの特権だな、と老師がぼそりと反応する。

 こっちの双頭犬のコートも間に合えばよかったがと続ける老師だったがそれは無いものねだりだ。


「――そっちの新人はもう三層に足を踏み入れたんだってな?」

「うむ、蔵見くんは良くやっている。期待の新人だ!」


 背後で雑談する老師と谷場さんの声が嫌でも耳に入って、俺は少し背筋を伸ばす。


「三層といっても行って戻っているだけだからそう焦る必要はない。普段はまだまだ二層で四苦八苦しているからな! 未踏の地に挑むための、毎日のトレーニングだ!! ダンジョンではそうした研鑽の成果が如実に表れるからな!!」


 こちらの反応を目ざとく見付け、谷場さんは大袈裟にフォローを入れてくれる。

 我が道を征きながらも世話焼きな辺り、あの二人は結構気が合うのかもしれない。


「とはいえ、その点では田中くんも大したものだ。上階を目指すために整えておくべきは装備だけではない。新人の内から重装備で強い呪いに晒すことで、深層の理不尽な程に強力な呪いに適応させる。そちらのやり方は独特だが、お互い考えていることは同じようだな? ソフィアくん」

「おう。まあな……」


 たぶん何も考えてないんだろうなという老師の返事を受け、谷場さんは快活に笑う。

 それとほとんど同時に、魔力の蠢きが進行方向でわずかに揺らいだのを感じ取った。『鋒山』側の蔵見さんもすぐに反応する。

 ウチの田中の方が早かったぞ、と老師が無駄話をしているので大した魔物ではない。だが同時に、それは対処が全面的にこちらに任せられるという意味でもあった。


「ゴブリンが四、こっちにまっすぐ向かってきます!」

「よし、自力で対処しろ!」


『鋒山』の判断に『さくら荘』も従う。自然、二と二でそれぞれ受け持つ形になった。

 今朝と同じやり方で対処する。

 切先で投げた石礫は魔力で強化され、突っ込んでくる二匹のゴブリンを斬り裂く。しかし向こうの身に纏った毛皮が災いし、致命傷には至らなかった。

 向こうは既に一匹を仕留めたようで、ポンチョの下から覗く装備の重厚さから分かっていたが彼女は前衛職。豪快な兜割が豪快な兜割がゴブリンの頭蓋を砕く。


 こちらの受け持つ二体は動きこそ多少鈍ってはいるが、変わらず脅威のままだ。二体同時に襲い掛かられるのは不味い。魔法で炎を浴びせ掛ける。それを牽制と目くらましにし、サイドステップで二体を同時に相手にせずに済む位置取りに動く。

 踏み込みと同時に剣を振るい、一体目を切り伏せ、返す刀で二体目も貫き通した。

 既に向こうも決着が付いているようで、初戦を終えた新人二人にお褒めの言葉が掛かった。


「田中さんお疲れ様。随分強くなったねえ」

「でも向こうの方が早く片付けましたよ」

「後衛がソロでやってんだ。お前も十分早かった。ただ、魔法があるからと気軽に剣を刺突で使うのは頂けねえな。お前は自分の担当は二匹だと思ってたかもしれないが、向こうはそんなことは関係ない。敵は四匹。あるいはそれ以上だ」


 老師の指摘に気を付けます、と返す言葉もなく反省する。咄嗟に身を守るには派手な魔法より剣一本の方がずっと頼りになるものだ。

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