13 安藤恭太 6
年明けの京都は初詣で平安神宮や北野天満宮を訪れる観光客で大賑わい。年末年始、一度実家に帰省して戻って来た僕は、あまりの人の多さに住む場所を間違えたんじゃないかと錯覚してしまう。しかしそんなことももう四度目のことで、来年からは華やぐ人の賑わいを見ることができないと思うと、大切にしていた本をどこかへ置き忘れた時のような寂しさを覚えた。
京都駅へ向かうバスを待っている間に、これまでの大学生活を振り返る。
まったく散々な四年間だった。
華の経済学部に入学して、今度こそリア充生活を送れると思っていたのに。何度も死闘を繰り広げた挙げ句ようやく交際までこぎつけた彼女とは自ら別れを選択し、今こうして実るかどうか定かではない片想いをしている。
「僕には結局お一人様がお似合いってわけか」
口にすると余計に悲しくなってきた。脳内の学が、「ようやく気づいたのかい」と馬鹿にしたように鼻で笑う。うるさいねん、余計なことは言わんでええ!
一人脳内ツッコミを終えたところで17系統のバスが来た。このバスに乗れば30分程度で京都駅に着く。1月の冷たい風からようやく逃れられた僕はほっとしながらバスに乗り込んだ。
今日はこれから新幹線で東京まで向かう予定だ。
東京駅で西條さんや三輪さん、学と待ち合わせをしている。西條さんと三輪さんは東京、学は神奈川出身なので年末から引き続き関東に滞在しているらしい。一人、関西勢の僕だけが孤独に新幹線で皆の元へと向かうことになった。
京都駅に着くと、構内は出張でやって来たと思われるサラリーマンや、暇を持て余した学生の集団、真冬の京都一眼見ようと仕事を休んで家族旅行をしに来ているような人たちで溢れかえっていた。
京都へ降り立とうとする人たちの波を押し切って、僕は新幹線の乗車口へと進んでいく。途中、お土産を買おうかと一瞬迷ったが今から会うのが京大の友人たちだけだということに思い至り、慌てて手を引っ込める。結局、飲み物だけを買って新幹線に乗り込んだ。
ブルーのシートが旅に出るわくわく感を助長する新幹線の車内は、6割くらい席が埋まっていた。博多で買ったお土産を持った人たちが、物珍しそうに京都駅から見える景色を眺めている。京都といえば日本でも屈指の観光地だから、外を見たくなる気持ちはよく分かった。
おなじみのアナウンスが流れ、新幹線は動き出す。途端、後ろへと流れていく景色は確実に僕を京都から遠ざけていった。景色だけ見れば、今どこの都道府県を通っているのかよく分からない。違う都道府県に行っても、日本であるということは変わらない。どんなに張り切って旅に出た気分でいようと、僕たちはこの小さな島国の中で散歩をしているようなものだ。
誰かと誰かの心の距離だって、遠いようで本当は近い場所を行ったり来たりしているだけなのかもしれへんな——と、ポエマーな気分に浸りながら、さすらいの戦士となった僕は新幹線にひたすら揺られ続けていた。
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