第32話

真っ黒なマントをなびかせる男は

階段を颯爽と登っていく。


次々と現れるモンスターにひるむことなく

立ち向かって行く。


宝石を所持していないフィンレーは、

魔法を使えない。


すごく助かった。

鎧と兜、剣は装備していたが、

真夜中の戦いにはアンデッドがつきものだ。

魔法が無いと先には進めない。


たいまつを持っていた男は、

王座の間に続く道を急ぐ。


「こっちだ。」


目的地を言ってるわけじゃないが、

何かを察したのか言われるまま

フィンレーは着いて行った。


「あ、あの、

 なんで助けてくれるんですか。」


「……。

 私には、助けたい人がいる。

 このメンフィリア帝国のソフィア女王だ。

 君は、恰好を見る限り、悪い人ではなさそうだ。

 鎧を装備しているが、兵士でもない?」


男は、フィンレーをマジマジと見ると、

少しぶかぶかの鎧を装備していることに気づく。

変装がばれていた。



「わかっていたんですか。

 すいません、

 メンフィリア帝国の見習い騎士です。

 フィンレーと言います。」


「申し遅れた。

 私はマラツメリアス王国の

 ジュリアンだ。

 メンフィリアとマラツメリアスは、

 敵対する国同士だったが、

 ソフィア王女の行いで、

 友好条約を結ぶことができたのだ。」


「え、マラツメリアスの王子様ですか?

 この間、結婚の儀式をするとかしないとかの

 話を聞きましたが、それは破談したと…。

 ソフィアは、逆に戦争を起こすんじゃないかと

 不安がってましたけども。」


「いや、その逆だ。

 そもそも、

 私はこの結婚の話に反対だったのだ。

 幼馴染の許嫁がいるというのに

 父は無理やり推し進めようとしたのを

 ソフィア王女の計らいがなければ

 本当のことが言えなかった。

 それでも、私の父は、何とか

 テオドール王のために

 あの手この手で友好条約を結ばせた。

 そのお礼を込めて、王女を救いに来た。

 テオドール王が危険だということは、

 兵士の情報から聞いていた。」


「それが…。テオドール王は…。」


 フィンレーは言いにくそうに、

 既に亡くなっていることをジュリアンに話す。

 

「ああー-、なんと、一足遅かったか。

 力になれないなんて、悔しすぎる。」


「ソフィアは、まだ生きてると思います。

 探しましょう。」


「そうか。そうだよな。

 後継者が生きているのならば。」


(後継者…俺、息子って言われたけど

 別に王にならなくてもいいんだよなぁ。)

 

 なんとなく責任をかぶりたくなかったフィンレーは

 不安を胸に抱きながら、ジュリアンとともに

 王座の間に進んだ。


 赤いじゅうたんがひかれた先には、

 豪華な椅子が置かれている。


 誰もいない。


 とても静かに、大きな時計がカチカチと鳴っている。


 あと数分で午前3時になるところだった。


「誰もいない。

 みんな、どこにいるんだ。」


 ジュリアンも周りを見渡す。


 ボーンボーンと3時を知らせる時計が鳴る。


 その音と同時に歯車の音のような

 カリカリと連続して鳴り続けた。

 

 すると上から丸い氷のようなボールの形で

 できた入れ物に凍って入っていたのは、

 ソフィアとスカーレット、小人のレクエペ、ケラット

 そして、召喚獣のオピンニクス、タイム、

 ドリュアデス、ホワイトドラゴン、レッドドラゴン、

 のみんなだった。9個の大きな球体が存在している。


 星空観察のようにキラキラと光っている。

 鑑賞用ではないはずだ。


「みんな?!なんでそんなところに

 氷漬けになっているんだ。

 どうやって助ければ…。」


「今、やってみる。」


 ジュリアンは、魔法を使って溶かそうと

 挑戦してみた。


 一番手前にあるオピンニクスの球体に

 ファイアローを唱えた。


「無駄だ。特殊な魔法で凍っている。」


 ルァントが奥の方から静かに現れた。

 姿かっこうは騎士そのものでフィンレーと

 何ら変わらなかった。


「今すぐ、みんなをそこから出すんだ!!」


「そんなことして、どうする。

 私を倒すのか。

 この国の王を。」


「王様気取りか!?」


「そうだ、テオドール王は死んだんだろ。

 貴様の手で殺したはずだ。」


「違う。俺は、違う。

 殺したんじゃない。

 仕向けられたんだ。

 テオドール様は死を望んでいた!!」


「君には、処罰を与えないといけないな。

 王の命令は絶対だ。」


 指を天高く真上をさして、

 オピンニクスの球体を

 溶かした。

 オピンニクスの目の色が青く光りだす。

 翡翠の力なのだろうか。

 腕につけられていたリストが

 緑が光っていた。


「ご主人様、なんなりと…。」


「やれ!!」


 オピンニクスの目は操られていた。

 翼を広げては、勢いよく、フィンレーの

 前まで飛んでくる。


「オピンニクス!!目を覚ませ。

 操られてるぞ!!」


「問答無用。」


 風魔法の切り裂きの技を使う。

 空中散歩するように

 フィンレーとジュリアンの体が

 ぐるぐると宙を浮いた。

 

 床に勢いよくたたきつけられた。


 次々と、ルァントは、球体を溶かし始めては、

 翡翠の魔法で目が青く光っている。

 みんなが完全に支配されていた。


 フィンレーとジュリアンは、剣を身構えて、

 戦闘態勢になった。


 仲間同士で戦いたくないと思いながら、

 剣を振り上げた。

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