第25話
巨大なオクトパスが8本の足を
くねくねとさせている。
青く光った目がこちらを見て
ギラギラと輝いている。
フィンレーとスカーレット、レクエペが
横にならんで、戦闘態勢になるが、
泉の中とあって、息が長く続かない。
何度も上に上がっては酸素を吸いに行く。
それを見かねたソフィアが、ドリュアデスを
召喚して、何か策はないかと尋ねた。
『アクアサークル!』
ドリュアデスは、魔法を唱えた。
召喚獣は魔法を使えるようだ。
水の中でも呼吸ができるよう、宇宙飛行士のような
球体が顔の周りを覆う。
3人は、集中して戦いに挑むことができた。
攻撃しようとしたが、オクトパスの足がブンブンと
こちらに向かってくる。
頭や体に味方全員にバシバシと当たって、
ダメージを食らった。
「地味に痛いなぁ。今度はこっちからだぞ。」
レクエペは、持っていた短剣をオクトパスの目に
めがけて攻撃しようとしたが、それを前に足が
飛んできて、体が吹っ飛んだ。
「俺が攻撃する。」
フィンレーがレイピアを振り上げて、
ぐるぐると動く足をすり抜けながら、
オクトパスの体を攻撃した。
どうにかダメージを食らったようだ。
「私もやるわ!」
スカーレットは、グレートソードを振り上げて、
後ろからオクトパスの体を攻撃した。
体が飛んだかと思われたレクエペは、すきを見て、
オクトパスの口の中に入っていた。
さすがは小人。自分のなすべきことを知っている。
内臓から攻撃しようとたくらんだのだ。
それは見事な作戦のようで、瀕死状態までのダメージを
与えることができた。
「よし、いいぞ。
あとは、魔法制限の謎だけど…。
やっぱり、あいつの目が怪しい。」
オクトパスの目は片方だけものすごい色の青色で
輝いている。フラフラになって動けなくなっているところを
フィンレーはここぞと剣を目の中に突き刺した。
すると、目と剣からおびただしい光が輝きだした。
まぶしすぎて、目がくらうほどだった。
「うわぁ!?」
みな、目を腕で覆った。
一瞬にして、オクトパスは砂のように消えた。
目の中から現れたのは、サファイヤの宝石だった。
パチンと音が鳴ると、さっきまで使えなかった魔法が
みんな使えるようになった。
その宝石は、魔法を封じ込める能力があるものだった。
フィンレーは手持ちのバックに忍ばせると、
ケラットとソフィアが待つ陸地に泳ぎ戻った。
レクエペとスカーレットも後に続いた。
「お疲れさま。
水の中で大変だったね。」
ソフィアが地面に手をつけて
泉の中をのぞいていた。
ケラットはソフィアの肩に乗っていた。
その横でドリュアデスがじりじりと
フィンレーに近づいてくる。
水もしたたるいい男がいるわと興奮している。
「ソフィア!早く元に戻して~。」
「あ、ごめん。」
慌てて、ソフィアはドリュアデスを
宝石の中に戻した。
「どうやら、あのオクトパスの影響で
魔法が使えなかったみたいだ。
この宝石に魔法封印の力が入ってる。」
「そうだったんだ。
これで魔法使えるから本当よかった。」
「ちょうどオアシスだと思って入ったが、
罠みたいだったな。
倒せたからよかったけど。」
「そうだよな。
魔法は使えた方がもちろんいいから。
物理攻撃だけでは不安だし…。
ソフィア、どうかしたか?」
「私、魔法、使えない。」
「なんで? オクトパスの力は
封印したはずだけど。」
「MPも回復してるけど、杖振っても
できない。ほら。」
ソフィアは何度も繰り返し、杖を振るが、
回復魔法も攻撃魔法も使えずにいた。
空振りに終わる。
「これじゃぁ、役立たずだわ。
何もできない。
やだぁ。」
「大丈夫、俺たちは魔法使えるから。
フォローするし、気にするな。
いてくれるだけで花になるんだから、
女子だし。」
「そんなこと言われてもうれしくない!!」
「そしたら、剣術学べば?」
スカーレットが見本見せる。
「剣は嫌~。」
「弓矢はいかがですか?」
ケラットが見せる。
「絶対当たらないわ。」
「短剣は?」
レクエペが見せる。
「短くて怖い~。」
「もう、パンチとかキックで良くない?」
返事するのも面倒になるフィンレーは
適当に言う。
「そもそも敵に近づきたくないわ!」
「わがままだなぁ。このお姫様は。
置いていくか。」
ソフィアを置いて、立ち去ろうとする一行。
「そんなこと言わないでー。
なんでもするからぁ。」
「なんでもって言うけど、何できるのよ?」
「うん、わかった。
これからかかる宿屋とか
装備する道具や武器の支払いは
全部私持ちってことで。」
「うわぁ、ここで財力を
アピールするのかよ。」
「え、いやなの?」
「……あー、いや、ありがたいことですけども。
その前に、お金はたくさん敵と戦っているので
特に要求もないのですが…。」
「私の存在ってぇー-。えー--ん。」
ソフィアの涙が両目から滝のように流れる。
横でレクエペとケラットが
小さなバケツで受け止めてみる。
水がたまっていく。
砂漠地帯では貴重な資源だ。
「わかった。もう、いいから。
戦わなくていいからさ。
横にいて、それでいいから。
必要とあらば、
ドリュアデス呼んでもらうし。」
「でも、フィンレーはドリュアデス
好きくないでしょう?」
「そうだけど、回復魔法とか特殊魔法
使ってくれるから役に立つでしょう。
そこは我慢するから。
機嫌直して。」
「…うん。機嫌直す。」
「よし、じゃぁ、行こう。」
ソフィアの手をつかんで立たせてあげた。
ぎゅっと引っ張られた。
「おんぶ!」
「え?!」
ソフィアは泣きつかれたようで
フィンレーの背中に乗っかった。
「ったく、仕方ないなぁ。」
何も能力がない今、求められることは
存在だけ。
寂しく感じて、温かさを求めていた。
心がほくほくして、フィンレーの首に
手をまわし、ニコニコしながら、先へと進む。
オアシスだった泉を出ると、
辺りはだだ広い砂漠。
時々、
暑さをしのいで
手足を上げたり下げたりする
トカゲを見かけた。
毒を持つサソリも砂の中から出てくる。
風が吹けば、目に砂が入りそうになる。
これがいつまで
続くかと気が遠くなりそうだった。
すると、先に進むスカーレットが悲鳴をあげた。
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