第6話

「まずは、ソフィアのお腹を満たすか?」


 フィンレーは、手を腰に当てて、

 にぎわう噴水の前で街の中をぐるりと見渡すと、

 様々な店が並んでいた。


 奥の方から道具屋、武器・防具屋、金物屋、

 教会、図書館、スキルアップ塾、街の集会所、

 PUBにその隣には

 大きなホテルがあった。

 さらに奥には、お城の中に入れる

 大きな可動橋があった。

 今の時間は閉じている。


「あの、ホテルなら、立派だし

 おいしいものが食べられるんじゃないか?」


「え、本当だ。

 でも、かなり高級なホテルじゃない?

 プールとか、温泉とかあるみたいだし、

 私、そんなにお金持ってないわよ?」


 ポケットから寂しく

 ガマ口の財布を見るスカーレット。

 フィンレーは、 

 武器を新調していたためか、

 黒い長財布をさかさまにすると

 スカッスカだった。

 モンスターともそんなに戦ってないし、

 そうなったら、街を出て、レベル上げを

 しつつ、お金を貯めようかと思った

 2人だった。


 そんな時、黙っていたソフィアは、何も言わずに

 2人の間をすたすたと進んで、

 豪華なホテル入り口に入って行く。

 

 値段を気にしてないのか、お腹が減りすぎて

 どうでもよくなったのかはわからない。


 顔を見合わせた2人は、方向転換をして、

 慌てて、よだれを垂らしたソフィアの

 後ろを着いていく。


 受付カウンターについてすぐに、

 小さなバックから、想像を絶するくらいの

 お金をどさっと置いた。

 しっかりと白い束が巻いてある。

 

 ソフィアは、白いフードをかぶり、

 ホテルマンには顔を絶対に見せなかった。


「いらっしゃいませ。

 ご利用ありがとうございます。

 お客様には、当ホテルの

 スイートルームをご案内いたします。

 ご利用人数は何名様でいらっしゃいますか?」


 ソフィアは、カウンターの下から

 指を3本をマジックのように出していた。

 一切話そうとしない。


「お客様?

 3名様でよろしいのでしょうか??」


そこへ、フィンレーは助け舟のように

脇から声を出す。


「はい!!そうです。

 3名です。

 よろしくお願いします。」


「かしこまりました。

 3名様ですと、

 一泊150万フォンとなりますが、

 よろしいですか?

 こちらのキャッシュですと

 あと50万フォン足りませんが…。」


 ソフィアは慌てて、

 バックから足りなかった

 もう50フォンを取り出した。

 彼女のバックはいくらでも

 お金が出てくる

 魔法のバックのようだった。 


「ちょうどお預かりいたします。

 ただいま、ルームキーをお持ちしますので

 もう少々お待ちくださいませ。」


背の高いホテルマンは、奥の部屋から

スイートルームのカギを取りに行った。


「ソフィア、そんなにお金…どうしたんだ?」


「………。」


 絶対に目を合わせようとしない。

 言葉も何も話さなかった。


「お待たせいたしました。

 こちらが222号室のスイートルームでございます。

 どうぞごゆっくりお過ごしください。

 ただいま、スタッフがお荷物をお持ちいたします。」


 ホテルマンが、丁寧に挨拶してくれた。

 玄関に立っていたポーターが気づいて、

 ソフィアの荷物をささっと持ち上げた。

 

 特に小さなショルダーバックしかなかったが、

 ポーターに持ってもらったのは、魔法の杖くらいで、


 後ろの2人の荷物の方が多かった。

 武器に、防具など、騎士の方が何かと荷物が増える。


(貧相な恰好しているのに、なんであんなに

 お金持ちなんだ?)


 腕を組んで考えても答えが出ないが、

 聞くに聞けない雰囲気でもあった。


 豪華スイートルームに案内されて、

 3人は心底喜んだ。


 ふかふかのキングベッドが4つもあって、

 まるで高級なお家にいるような食卓。

 映画鑑賞ができそうなふかふかのソファ。

 窓の外を見ると、高いところから

 とても綺麗な街並みが

 一望できる。


「おおー--、すげー---。」


 窓にべったりと顔をつけるフィンレー。


 スカーレットもソファに座って景色を楽しむ。

 ソフィアといえば、ルームサービス係に

 食事を次々と頼んでいた。

 景色のことなんて、全然気にしていない。

 よほど、お腹が空いていたようだ。


 外を眺めたあと、ソフィアの行動が、

 本当に記憶喪失になったのか怪しくなってきた。


 少し冷静になって、ベッドの上に座った。


「なぁ、聞きたいんだけど、

 ソフィア、どこから来たんだ?」


「……え?」


「確かにそうね。

 私も気になったわ。

 こんなに高級なホテルに

 泊まれるなんて普通に生活してて

 ありえないもの。」


 ソフィアは、

 唾をごくんと飲み込んで、

 振り返った。


 2人はじっとソフィアを見つめる。


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