第22話 青春っぽい?

~教室・休み時間~



3人娘で、和気あいあいと歓談していたところ、男子が恐る恐る近づいて来る。

遠くで磯谷くんが警戒感を強めているが、本当に意気地無しだよな磯谷くんは。

別に良いけれど・・・。


「どうしたの? 及川くん。 珍しいね?」


「あ、いや、その~・・・。」


私に話しかけるのにそんなに緊張しなくても良いのに・・・。

これが思春期のなせる業なのかな?

ニコニコして、彼が話し出すのをしばし待つ。


「今度、バスケの新人戦があって…、多分俺も出られると思うんだ…。」


「ふむふむ、凄いね」


「スタメンかどうかは分からないのだけど…。」


「それでそれで」


「その~、良かったら、試合………。」


「うん?」


「応援に来てくれないかな?」


「「「 え! 」」」


う~ん、意外だ。思春期すげ~。

確かに可愛い自覚はあるのだけれど、どこかで自分では無いような気がして実感がない。

こう言う感情を投げられると少し戸惑う。

さて、どうしたものだろうか?

私は、塔子ちゃんと今日子ちゃんの顔を代わる代わる見たが、二人とも苦笑いするだけだった。


「私は、特に用事が無ければ良いけれど・・・二人はどう?」


今日子

「私は、北村先輩もいるし良いけど…。」

塔子

「そうね、バスケだものね。問題は一美ちゃん…」


「じゃー、行こっか。私は多分大丈夫だから!」


「やったー! ありがとう! 俺、頑張るよ!」


及川くんは、これまでの緊張感が嘘のように解けて小躍りしている。

なんかカワイイ奴だな。あ、幼いと言う意味でね。

と、そこへおずおずと磯谷くんがやって来て何か言おうとしている。

しかし、及川くんが素早く磯谷くんの肩を掴み、そそくさと連れ出してしまった。


及川くんは、ふり返り「それじゃ~ね」とニコニコと手を振った。


~~~~~~~~~


(今回だけは、控えてくれ、な! 頼むよ磯谷!)



△△


試合当日


~公立体育館~


「うわ~、広~い!」


さすがに大会を開くだけあって大きな体育館だ。

コートも3面、4面か~、応援席・観客席は2階で、出場選手達とは明確に分かれていた。

体育館内は熱気に溢れ、応援も盛んに行われており、なにかと”わーわー、がやがや”と騒がしい。

さて、我が校は・・・と、


今日子

「あ! あっちだよ! 行こ行こ!」


塔子

「う~ん、負けてるっぽいね。口ほどにも無い」


「まぁ、まぁ、新人戦なんだしっ」と塔子ちゃんをなだめながら、ギリギリまでコート側に近づく。


俺は、身を乗り出して力一杯叫んだ。


「及川くん頑張れ~!」


      《 シ ー ン 》


すると、なぜか今までの喧噪が嘘のように静まった。


あ、あれ?


(おいおい、あの子誰だよ?)

(そこらのアイドルより可愛くない?)

(あの制服どこだよ?)

(こっちも応援してくれないかな?)


そんな中、こちらに気づいたコート内の及川くんが、大きく手を振って和やかに笑った。


今日子

「ちょっと一美ちゃん! 居るだけで目立つのに大声出したら駄目だよ~」


で、でも、来てるって及川くんに伝わらないと思うのだけど。

約束は守ったってね。


塔子

「制服で来たのはまずかったかも…。」


「なんかごめんね~、でももう一回だけ」


俺は、ご免なさいのポーズで二人に謝り、再びコートに目を凝らした。

あ、いたいた。


「北村先輩も頑張れ~!」


よし、これで使命は果たせたな。


すると、コート内で北村先輩は右手を真っ直ぐに突き上げた。


「ボールを俺と及川に回せ!」


おお~凄い!さすがは次期キャプテン?と思っていたところ、今度は母校の応援チーム(女子)から刺さるような視線を向けられた。

ごめんなさい、もうしません。


~~~~~


結果、この試合は我が校の逆転勝ちとなった。

北村先輩と及川くんが発奮し、我が校が息を吹き返したのだ。

二人とも格好良かったな。

女子達に人気なのも分かる。

点を入れる度にこちらを見てくれるのも嬉しかったしね。


そして、その後も勝ち進み、創設以来初のベスト16で今大会を終えた。


一美

「面白かったね~」

今日子

「うんうん。バスケって面白いね~」

一美

「こうやって、トントントンって、ひょいっと、パスって感じ?」

塔子

「うふふっ。一美ちゃんは可愛いね」


などと言いながら、私たちは応援席から退出し廊下へ出た。

応援チームや観客達は、まだ”わいわいガヤガヤ”しているが、混雑する前に帰ろうとの目論見だ。


「お~い、ちょっと待って~」

と及川くんがバタバタと駆け寄ってくる。


「今日はありがとう!」


肩で息をしながら、やや興奮気味に私の方をじっと見詰めている。

直球過ぎてちょっと引く。


「お疲れ様~」

と今日子ちゃんが脳天気に言ってくれて少し緊張感がほぐれた。


「大活躍だったね」


「まあ、まあ、かな?」


及川くんは、少し照れながらも今日の活躍でレギュラーになれそうだと頭を掻いた。

カワイイ奴め。・・・幼いと言う意味でね。

私は、気が緩み“清々しい若者って良いよな~”とじじ臭い感想をもらしてしまった。

すると、塔子ちゃんから脇を突かれた。

くすぐったいよ。

けれど、まずかったのね? 今の発言は? 

仕方が無いので「うふふっ、」と苦笑いで誤魔化す。

及川くんはさらに真っ赤になって照れている。


「及川! そろそろ戻れ! 皆待ってるぞ!」


いつの間にか北村先輩が来てた。


「佐藤さん!今日はありがとう!・・・と鈴木さんも藤宮さんも」


「「分かりやす~い」」


「な、何!?」


珍しく少し動揺する北村先輩。


「いや~、北村先輩が動揺するところって、初めて見たかも」

と及川くん。


「おい、行くぞ!」

と及川くんを小突く北村先輩。


「また今度、お礼するから…。」

と爽やかに去って行く二人。


どうでも良いけれど、及川くんは男臭がするけど、北村先輩はそんな臭いしないんだよな~不思議。


あ! お礼は要らないから!!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る