未確認飛行物体18

「円盤型の飛行物体。心臓のようなモノ。吾輩は森の時点で攻撃を受けたが貴様らは難なく最上階まで行くことが出来た。この三つだな」


 だがそう並べられても誰一人納得出来た者はいなかった。


「それがなぜ根拠になるんじゃ?」


 更なる質問にマードファスまず、指を一本立てて見せた。


「まず円盤型飛行物体。これはペルスレヤが星代わりに生活していると言われている宇宙船と特徴が一致している」


 そして立ち上がる二本目。


「次に心臓だが、これは恐らく核だ。ペルスレヤがエネルギーを溜めるモノであり星の生命力を吸い上げるモノだ」


 最後に三本目。


「そして最後のだが、ペルスレヤは星に降り立つとまず核を設置する場所を確保しそれから待つんだ」

「何をだよ?」

「その星の主だ。つまりその星の食物連鎖の頂点に立つ者を待ち、王自らその相手をする。そこで王が敗れれば奴らは星を去り、逆に王が自らより下等だと思えばそのまま星の生命力を吸い尽くす」

「つまり僕らがあの時点であいつを倒さなかったからこのまま星の生命力を吸い続けるってこと?」

「奴らがペルスレヤならな。王の元へ何の弊害も無く辿り着き対峙できるのはその一回だけだ」


 つまりその1回を偵察で消費してしまった。そう思うと無駄遣いをしたような気もするが実際にあの力を目の当たりにしたマルクは完全にそうだと言い切ることは出来なかった。どれほどの戦力で挑めば勝てたか、今となってもそれは分からぬまま。

 もしかしたら全戦力を注いでも勝てなかったのかもしれない。それを想像するのは難しいが、それ程にアレの力は強大だった。


「待て。なら何故、先にあの場所へ行こうとしたお前は攻撃を受けた? その話が本当ならお前は何の弊害も受けることはないはず」

「それは知らん。だが吾輩はまだこの星の主ではない。奴らがもう少し遅ければそうなっていたが、まだ吾輩はこの星を狙う者。それを見透かされたのかもしれん。どうやったかは知らんがな」


 少し投げやりな理由を口にするマードファスは本当に知らないと言った様子。


「もうこれぐらいでお喋りは終わりだ。さて答えを聞かせてもらおうか」


 その言葉にヴァレンス・陽花里・ベイノバは小声で少し話し合いを始めた。そしてその結果をヴァレンスがアーサーとマルクに伝える。

 それから全員の同意を得ると、代表してヴァレンスが答えを待つマードファスへと顔を向け口を開いた。


「確かにアレが強力な力を持っておることは理解した。その上でお主と手を組むことが最善の策ならば致し方あるまい。じゃがこちら側からいくつか条件を提示させてもらう。それでもよいな?」

「当然の返しだな。構わん」

「詳細は後日までにベイノバの製作する誓約書にまとめさせてもらう。じゃがこれだけは今伝えよう。お主との協力関係にあることはここにおる者と一部を除き口外はせぬ。故にお主も儂らの元に姿を現す時は、名を変え人の姿をしてもらおう。それに加え現在世界に蔓延る魔物をどうにかしてもらう」

「それぐらい容易い」


 考える時間すら無くマードファスは最初から決めていたかのように即決で返事を返した。


「その言葉、嘘ではあるまいな?」


 ヴァレンスはマードファスの心内まで見透かしてしまうような鋭い視線を向けた。


「あぁ」

「――ではこれより四ヶ国国王の名の元に魔王軍との一時停戦、協力関係を結ぶことを宣言する」


 一度この世界を崩壊へ導こうとした張本人と不本意ながら協力関係になることは決して喜ぶべきことではない。それはマードファスとその手下を除く全員の表情に色濃く現れていた。

 だが脅威がとりあえずは一つ無くなったと思えばそれは強ち、最悪な状況というわけでもないのかもしれない――と思う気持ちも無かったわけではない。

 ただマルクはこれから始まろうとしている魔王軍との共闘よりそれが無事片付いた際にマードファスがどう出るのかが気がかりだった。それが一番油断を許さぬタイミングであることをマルクは勝利の安堵で忘れぬよう一人心に深々と刻み込んだ。


「では早速じゃが簡単に今後の行動を聞いておきたい」

「吾輩はとにかく魔力の回復に専念する。そこの奴が思った以上に足掻きよったのでな」


 マードファスの視線は正面に座るマルクの姿をしっかりと捉えていた。それに加えその表情に浮かんでいた笑みは自分の勝利を信じて疑わないモノ。あのまま続いていれば確実に勝っていたと言外で語っていた。


「だがまずはある物を探さねばならん」

「一体何を探すん?」

「確か『天来てんらいの書』そう名付けられていたはずだ」

「聞いたことないな」


 その名前に手を上げる者は誰も居なかった。


「それには何が書かれておるんじゃ?」

「ペルスレヤについてだ」

「なぜそんな物が存在する?」


 そのアーサーの疑問はマルクや恐らく他の国王も同時に抱いたモノだった。


「それに何の関係がある? 存在理由などどうでもいいだろ。あるのなら見つけ使うまでだ」

「確かにそれは一理あるの。じゃがそれはどこにある?」

「おい、じじい。吾輩は探すと言ったんだ。分かるはずがないだろ。兎に角それを探せ」


 それを言い残し立ち上がるマードファス。


「話は終わりだ。また明日来る」


 そして返事は待たず手下と共に前回と同様に空間の歪みへ消えていった。


「あんな野郎をほんとに信じていいのか?」

「信頼はできひんけど、このまま魔王も相手にするよりはマシやろ」

「鬼一の言う通りじゃ。ベイノバ誓約書の方は頼んだぞ」

「一日もあれば余裕だ」

「ヤツの言っていた天来の書とやらはどうする?」

「もしよければそれは僕達が探してみましょうか?」


 当ては何もなかったが、マルクは率先して手を上げた。


「うむ……そうじゃな」


 その申し出に少し考えるヴァレンス。どうするのが最善か考えたのだろう少しの沈黙を挟みながらもすぐに答えを伝えた。


「では暫くの間、その天来の書とやらは勇者一行に任せ、儂らは魔王との戦いで崩れた国の態勢を整えるとしよう。儂らは国王じゃ。いつの時も優先すべきは民。まずはそこを――国を万全の状態に戻すとしよう」


 その言葉に他の三人も頷き返事を返す。


「ならばすぐにでも動き始めるとしよう。新たなる脅威に備えるのじゃ」


 そして四人の王はそれぞれの国へと戻り、それぞれがすべきことを始めた。

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