未確認飛行物体9

 想像を遥かに超えた人物の姿にマルクは思わず立ち上がり聖剣へ手を伸ばす。

 だがマルクを除く四人の王は少なくとも驚いた素振りは見せず冷静を保っていた。


「ここがどこだか分かってんのか?」


 先に口を開いたのはベイノバだった。


「ちんけな人間が作り出した亜空間と言ったところか?」

「その気になれば俺らごとてめぇを消滅させることができる場所だ」

「大国の王四人と勇者一人の命と引き換えに吾輩の命を貰おうというのか? フッ。そのような安価では交渉の場にすら着けんな」

「舐めた野郎だ。俺が指示を出せば今すぐにでもこの空間ごとてめぇを殺してやれるつってんだよ」


 恐らくやるとなれば躊躇なく引き金を引ける。鋭い眼光を向けるベイノバからはその覚悟が感じられた。


「止めとけ」


 だがそんなベイノバを止めたのはアーサーだった。


「どうやったかは知らんがこの場所に外から入ってきたのなら出ることも容易いだろう」

「アーサーの言う通りじゃ。確実にこやつを仕留められるのならこの老いぼれの命くれてやろう。じゃが、こやつもそこまでバカではあるまい。それに魔力を扱う者であるならそれが出来るのも知っておろう。それを承知の上でこの場所に現れたのなら策はあるということじゃ」


 二人の言葉で冷静を取り戻したのかベイノバは魔王への眼光を外し葉巻を手に取るとアーサーとヴァレンスへ向け軽く両手を広げて見せた。

 そしてヴァレンスはマルクへ目をやると一度頷く。それを見たマルクは聖剣から手を離し椅子に座り直した。


「それで? そちは一体何しに来はったんやろか?」

「提案だ。もっとも貴様らに聞く気があるのならだがな」

「うむ。まずはどのような提案か聞いてみようではないか」


 ヴァレンスはどうだと問いかけるように他の四人へ目をやる。

 それに対し皆、意義はないと沈黙で答えた。


「どうやら意見はまとまったようだな」


 マードファスはそう言うとテーブルから足を下ろした。


「吾輩からの提案は単純だ。アレを潰すまでの間、一時休戦とし手を組もうではないか」

「アレというのはお前の城に現れた飛行物体か?」

「あぁそうだ」


 ハッ、とその言葉にベイノバは先程の仕返しか嘲笑的な笑いをわざとらしくして見せた。


「意外だな。てめぇはてっきりあっちと手を組んで俺らを潰しにくるかと思ってたが?」

「吾輩もそうしようと思ったが、どうやらあっちにその気はないらしい」

「あの中に入ったん?」


 ゆっくりと左右へ首を振るマードファス。


「いや、我が城に近づいた時点で攻撃を受けた。聞く耳はないようだ」

「じゃから儂らと手を組みアレを潰そうというのか」

「そういうことだ。だが貴様らにとっても悪い話ではあるまい」

「お前の力は強大だ。それは認めよう。だがそのお前が自身の軍勢を率いても勝てんと判断するほどアレは力をもっているのか?」

「もしアレが吾輩の知っているモノならだが――。吾輩と配下だけでは厳しいだろう」


 マルクにとって魔王軍をも凌ぐ力を持っているということも驚愕的な事実ではあったが、それ以上に興味を引いたのはマードファスがアレを知っている可能性があるということ。それはヴァレンスも同様のようでマルクが浮かべていた疑問を代わりにマードファスへ投げかけた。


「知っておるのか? アレを?」

「確証はない。だがもし手を組むのなら知っていることは話してやろう」


 その言葉に四人の国王はどう決断すべきかを、時折互いに視線を合わせながらも各々考え始めた。現状とリスクを加味し、ありとあらゆる可能性を想像しているのだろう。

 それにより辺りに流れ始めた沈黙の中、向かい合って座るマルクの一切警戒の緩まぬ双眸とマードファスの余裕に満ちた双眸は交差した。


「そっちが裏切らない保証はどこにある?」

「無いな。だがもし同じ戦場に立つのなら貴様が後ろから斬りかかって来ない保証はどこにある?」

「どこにもない」

「そういうことだ。だが貴様も体感したはずだ。吾輩らを襲ったあの光の威力を」


 マードファスは立てた指で上を指差した。


「万全でないとはいえ聖剣と魔剣の力を使いやっと相殺出来た。互いに協力しなければ、いや、少なくともここでいがみ合っていてはアレを独り勝ちさせるだけだ」

「協力するフリをして最後に美味しいところを頂こうって腹の可能性もある」

「それも悪くない」


 すると魔王は提案の答えを国王らが出す前に立ち上がった。


「今の貴様らには考える時間が必要だろう。また来る時までに答えを出しておけ」


 そして話し合いの最中、部屋を適当に歩いたり外を眺めていた魔族が魔王の傍へ戻ると二人は現れたブラックホールのような空間の歪みに消えていった。

 マードファスは去ったが提案まで消えた訳ではない。会議の議題は依然としてマードファスの提案に関してだった。


「皆の率直な意見が聞きたい」

「もし魔王がこちらの手を必要としているのならそこまで焦って協力関係を結ぶ必要もないだろう。まずはアレの戦力を大体でも探るべきだ」

「そやなぁ。もし仮に魔王と手を組むんやとしても準備は必要やろうからすぐにちゅうんは厳しいやろ」

「安全面を確保出来ないんだったらあんな野郎と組むなんてのはリスクしかないだろ。現状で言えば反対だ」


 アーサー、陽花里、ベイノバの意見を聞いたヴァレンスの視線は最後にマルクで止まった。

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