第39話 アイラの放課後とクズの寄合


 今目の前に座っている月野社長は俺の家に住み着いているレイに少し似ていた。

 だがレイよりももう少し大人にさせた容姿で恐らく30歳前後くらいなのだろう。


 だがそんなことよりも社長の隣にいるヤツが気になって仕方なかった━━。



「初めましてで大変申し訳ないのですが、この前廃墟でドロップしたガキがここに居るのはどういうことですか......?」



 俺は月野社長に何故メスガキが今ここに生息しているのか、幽霊と社長が似てる事よりもそっちが気になって仕方なかった。



「この子の事をスタッフから聞いた時に気になって話を聞きに行ったら一目惚れしてね......この歳の割によく言葉知ってるしキャラも立っててウチで活躍できるかなと思って採用したの」


 

 社長がメスガキを採用した理由にゆーちんも言葉を重ねる。



「私も社長の考えに賛成で後押ししたの。容姿も少しアイラに似てめっちゃ整ってるし、綺麗な言葉使いそうな見た目なのに大人を馬鹿にしたようなギャップで面白そうだしね━━」



 俺に似てるって......そりゃコイツの外見は俺が作ったようなもんだからな。

 でもコイツの中身は元殺し屋で顔に傷があったガラの悪いオッサンなんだぞ!



「ありがとおねーちゃん! おにーちゃんはわたしのこと嫌いなのぉ......?」


「そんな上目遣いしたって無駄だコッチはテメェの正体を分かってんだよ! 今度その顔をしたら目に砂利詰めるからな」



 殺し屋の上目遣いなんて完全に獲物を狙ってる威嚇じゃねぇか! 

 コイツの正体言いたいけど言えないのがめちゃくちゃ歯痒い......。



「アイラッ! 何でこんな可愛い子にそんな敵対心持ってるの!? まさか......このダイヤの原石に嫉妬してるの?」


「そうだよおにーちゃん! わたし泣いちゃうよぉ?」


「泣くってどっちだ? ポンか? それともチーの方か!?」


「いやそっちの鳴く・・じゃ無いからアイラ君......。とにかくこれで正式にアイラ君も咲耶さくやちゃんもウチのタレントなわけだからよらしくね」



 コイツいつの間にか名前までつけられてやがる......大人の懐に入るの上手すぎだろ!



「わたしのほうがせんぱいだから分をわきまえてね♡? よわよわおにーちゃん♡」


「ガキが『分を弁えてね』なんて言葉普通使うか!? しかもコイツ先輩なのかよ最悪だ......! 二宮○也みたいに独立しようかな......僕の心情は今肉なり焼くなり二○和也状態だよ」


 

 俺の言葉に社長はニヤリとしながらも怖い目をして俺を見つめる。



「それは絶対ダメ。あなたにはこれから人気になってもらうために私達がちゃんとマネージメントするから安心して。それと今は手続き中だけどこの子は正式に私の養子になるから」


「え!? こんなク○ガキ引き取るんですか!? すごい覚悟ですね......」


「うん、私はバツイチで条件満たしてるから。あと私には歳の離れた妹が居てね、でもずっと行方が分からなくて捜索中なんだけど......もし妹が帰ってきたら家族が多い方が妹も喜ぶかなって思って━━」



 そうか......社長の中で妹さんはまだ捜索願いが出されている状態で止まっているから殺されている事を知らないんだ......。

 てことは遺体はまだ何処かに眠っていると言う事か━━。



「そうでしたか......妹さん見つかると良いですね......。僕にも何か力になれることがあったら言ってください」



『『ねぇ今ドコ......? 連絡くれるっていったのニ......』』



 何だ今の脳内に響くこのセリフ......まさか.......!



「ありがとう......。7年前から探してるんだけどなかなか手掛かりが無くてね......そう言ってくれるだけでも嬉しいよ」



 社長は目に少し涙を浮かべながら悔しそうに言葉を並べたがすぐに切り替えて元の話に戻った。



「という訳でこの子とも仲良くしてあげてね。そのうちコラボもあると思うし.......ちなみにこの子のチャンネルを立ち上げてからまだ1日も経ってないけど登録者数10万人を超えてるから」


「......はい!? 有名タレントでも無いのに登録者の増え具合が佐○健並だ......すげぇ......」



『『ねぇなんで無視するノ......?』』



 うるせぇ......! お前と違って俺がテレパシー使えるわけねーだろ!

 それに今クソガキの件でそれどころじゃねーんだ!



「すごいでしょぉ? でもおにーちゃんはおねーちゃんにおんぶにだっこだもんね? ほんとなさけなぁ〜い♡」


「うるせぇバカ野郎! 下がれテメーみてぇなのは! 家帰れバカ!」


「......アイラ君? ウチの娘とちゃんと仲良くやってね?」


「くっ......! すみません......」



 クソッ! これが社長のドラ息子を相手に散々苦労した買取会社の社員の気持ちか......!?



「まぁ冗談はさておき今日はこの辺でお開きにしましょう、今度はアイラ君が行きたがってた徐々炎に連れて行ってあげるからね。それとアナタは多分1人で重荷を背負うタイプだから何かあれば遠慮なく私に相談してちょうだい━━」


「はい、ありがとうございます」


「じゃあアイラそろそろ帰ろっか?」


「うん......早く帰らないと俺殺されるかも......」


「それどういう意味......?」



 俺は社長に頭を下げて事務所を出たあとゆーちんと駅まで歩き、一緒に夕飯を食べて家に帰った━━。



*      *      *



 ガチャ......。



「ただいまー」


「やっと帰ってきタ......おかえりなさいア・イ・ラ」


「アナタみたいに言わなくて良いから。それより突然テレパシーで脳内に語り掛けないでくれ、僕はアー○ャじゃないんだよ」



 レイはビリビリに破けたワンピースの上からエプロンを羽織って右手には包丁を持った姿で出迎えたが、レイのワンピースは短い上に破けている所為でエプロンに服が全部隠れて裸エプロンみたいな格好になっていた━━。



「あとその姿は刺激が......ていうかそのエプロン何処から万引きしてきたんだ!? それに包丁持ってこっちに来るなよマジで恐怖だから!」


「ごめんなさイ......。それより女の匂いがすル......アイラはワタシ以外の女と話したノ.......?」


「そりゃ話すよ......今日五人くらいと話したかな」


「なんデ......他の女とお話ししないでヨ......ワタシの事嫌いなノ......?」


「好きでも嫌いでも無いしまず包丁を置いてくれ。それより聞きたいことがあるんだけど、レイは月野ゆりって人知ってる?」


「っ.......! 何でお姉ちゃんを知ってるノ......」



「今日会った社長が月野ゆいさんだったんだ。レイの事凄い気にかけてたよ━━」



 俺の言葉を聞いてレイは少し涙ぐむ。

 その表情はさっき妹の事を話した姉のゆりさんの顔と重なった━━。



「そっか......お姉ちゃんに心配かけちゃったよネ.......会いたいナ......」


「僕に任せろ......そのうち必ず会えるさ━━」


「うん......ありがト......」


 

 俺はレイの肩にポンと手を置いてリビングに入る。

 リビングは俺が学校に行った時よりも整理整頓されめちゃめちゃ綺麗になっていた。



「すっげ......これ全部レイがやったの!?」


「うん、塩が置いてあるキッチンの奥は出来なかったけド......」


「本当ありがとう! でもやっぱり塩は弱点なんだね。いやちょっと待て.......これは一体どういうことだ......!?」



 テーブルの上に綺麗に並べられていたのは俺がベッドの下に隠し持っていたA○とエ○本の全てだった━━。



「それワタシがここに住むからには全て捨てル......私以外の女で興奮しないで欲しいノ......」



 レイの勝手な言い分に俺の怒りは一気にピークになった。



「母ちゃんみたいなことしやがってふざけんなよ!? これお前......警察が下着泥棒とか捕まえた時によくやってるやつじゃねぇか! こんな所で几帳面さを出さなくて良いんだよ! しかも俺の一軍と二軍がぐちゃぐちゃになってやがる......!」



 大切にしていたコレクションの惨状を見て俺は膝から崩れ落ちた━━。



「そう落ち込まないでワタシが何でもやってあげるヨ? コレとか好きなんだネ......エッチなナースに迫られ━━」


「やめろぉっ! それ以上気恥ずかしい事言ったら塩撒いて無理やり昇天させるぞ! それと付き合ってない男女2人が密室でポルノの話なんてするんじゃありません!」


「昇天? 逆にアイラのを昇天させてあげよっカ......?」


「幽霊ネタ使って上手いこと言わなくて良いから。そういうセリフは明日花キ○ラとか紗倉○なとかが言うから良いのであって......」


「ふーン......ワタシアイラの為ならどんなコスプレするしどんなプレイもしてあげるけド......他の女に欲情しないように搾りとる為にネ━━」


「僕から欲情する権利を奪うなヤンデレ侵略者! 命ごと搾り取られそうで怖いわ......。てかそもそも幽霊がコスプレって客観的に見たら服が浮いてるだけだからね? 逆におっかないよ......」


「そうかナ? とりあえずお風呂沸いてるから入ってきてネ......女共の匂いがついた穢れを早く落として欲しイ」


「お前自分の姉の匂いもついてるのによく言えるな......。それより絶対洗面所に入ってくるなよ? 洗面台に出るお化けが一番怖いんだ......」


「......それフリ?」


「違う! じゃあ行ってくる━━」



 このあとシャンプーして目を閉じてる時にレイが俺の手をワザと触って死ぬほどビビらせたのは言うまでもなかった━━。



*      *      *



 同刻......とある空き家にて━━



 1人の男が連日の事件についての共通点を見つけて震えながら他のメンバーに話をしていた。



「なぁ富田に続いて笛吹も殺された......コレには絶対黒羽真央の件が関わってるって! もしかして次は俺らの番じゃねーのか!?」


「は? 何ビビってんだよ海原、そんな事あるわけねーだろ? アイツはとっくに死んでるんだ。それに大手芸能事務所の息子がそんなにオドオドするなよ」


「そうは言うけどな大葉! アイツの担任だったあの・・秋山も簡単に殺されたんだぞ!」


「それは警察官に殺されたんだろ? それに秋山が殺された件に関して焦ってるのは俺らじゃねぇよ。なあ氷川?」


「そうそう、ウチの親父が今躍起になってるよ......最近イラついてるのが目に見えてわかる。ところで大葉、田所はどうした?」


「アイツは今日帰ったよ......なんでも親に早く帰ってこいって言われたらしい」


「そうか......まあ例の件・・・で俺は少し気まずいから会わなくてよかったけどな」


「そうだよな......そういえばこの前来た刑事が黒羽の件について聞いてきたけどさ、海原は黒羽の事何も喋ってないよな?」


「喋ってないよ! 富田が殺された時に動画のデータを警察が回収したと思ってビビってたけど何も言ってこなかったし。それに俺はあの刑事嫌いだしな━━」


「確かにウザいよな......親父に頼んで消してもらおうか?」



 氷川が悪い笑みを浮かべ大葉と海原に冷酷な口調で話す。



「それ良いな、お前の親父ならマジでやってくれそうだ。とにかくだ海原......お前の親も俺達の親もデカい権力を持っていて俺達自身もその権力を振り翳せる。だから安心しろ、世の中なんて親ガチャで人生決まるもんさ━━」



 その言葉に氷川も同調する━━。



「そうだぞ? 死んだ黒羽だって親に力があればあんな事にならずに済んだんだ」


「確かにそうだな! 俺も父さんには一応相談してあるし大丈夫だよな!」


「ああ......この国なんて権力とコネが全てだ、上級であれば車で人殺しても何しても逮捕されずに済んで変な奴からも守られるのさ」


「そっかそっか! 父さんのコネでゆーちんが俺のモノになるのも時間の問題だしな! あのイケメンから絶対に奪ってやる!」


「ははは! そりゃ良い! 俺もアイツの相方のイケメンが気に入らなかったんだ。お前があの女をモノにするなら俺もあの飄々とした野郎を虐め抜いて自殺させるか━━」


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