第13話 富田守


 アイラが富田を襲った次の日━━。



「畜生! 親父のやつビビって警察に通報しない上に俺の事ボコボコにしやがって......!」



 俺は昨日宅配業者を名乗る男に突然襲われた。

 せっかく綾乃を俺のモノにするチャンスだったのにそいつにぶっ飛ばされた挙句、綾乃は消息不明だ......。



「あの男トマト運輸とか言ってたな......見つけ出して八つ裂きにやるっ!」



 昨日ボコボコにされた体を引きずりながら教室に入るとクラスの奴らは俺を一斉に凝視する━━。



「なんだよ......俺になんか文句あんのか!?」



 俺がそう言うと奴らは怯えたように目を逸らして俺を避ける。

 

 そうそう......それで良いんだよ、お前ら下等な人間とは違うんだからな。

 

 すると一人の可愛い顔したクラスメイトが俺の方にやってきた。



「富田くん......」


「なんだ? 告白なら体育館で━━」


「そんなんじゃないから......コレ富田くんだよね?」



 彼女が見せたスマホの画面には俺が昨日綾乃を襲った映像が流れ、次にスワイプすると今度はパンツを頭に被っている映像が流れた━━。



「なんで......こんなモノが......!」


「なんでって......富田くんが自分でアップしたんでしょ? 拡散希望とかタグ付けてさ」



 そんなはずはない......昨日俺は殴られてから一回もアプリを立ち上げていないんだ!



「そんなバカな!」



 俺は慌てて自分のSNSを確認するとそこには━━。



【俺の変態動画晒します! 新しいママが俺になかなか惚れてくれないのでパンツ被ってストレス解消! あー良い匂い......】


【ママがヤラせてくれないので遂に襲っちゃった♡ コレを晒したって脅せば言うこと聞いてくれるかなぁ?】



 というタイトルと共に映像が各々アップされていた。

 そしてアプリ内のステータスバーには通知やDMが鬼のように来ていた事が分かった━━。



「俺は......俺はやってない! だって通知来なかったし俺は昨日アクセスしてないんだ!」



 慌ててスマホの通知設定を見ると御丁寧に全通知がオフになっていた━━。



「そんな......一体誰がこんな事......」



 俺は直視できない現実のせいで足に力が入らずその場にへたり込んだ。



「アイツやべぇな......再婚とはいえ自分の母親のパンツをフツー被るか?」


「マジキモいんですけど。クラス変えてもらいたいわー」


「私たちのパンツも被られるかも......それって最悪じゃん! 変態!」


「てか自分でアップしたのに覚えてないとか言い訳痛々しすぎw」


「偉そうにしてた癖にこんな性癖持ちかよ......。マジ死ね」



 俺への罵声は止まることなくさらにヒートアップしたので俺は怒りに身を任せて立ち上がった━━。



「うるせぇ! お前ら下等な人間より俺は偉いんだ! 今俺をバカにした奴ら全員ぶっ潰すぞ!」


「下等な人間て......パンツ被ってるお前よりはマシだろ」


「そうだよ、文句言うならもう帰れよ気持ち悪い。二度と顔見せんな」


「てか前から思ってたけどアイツって歯科医の親いる癖に口臭いよなぁー」


「おいっ! お前調子乗んなよ!?」


「あ? そりゃこっちのセリフだろ」



 ボコッ......!



 一人の男子生徒が俺の腹に向かって思いっきり蹴りを入れた。



「うぇっ......! いっ......てぇ......!」


「こんなもの見せられた俺たちの方が痛えんだよ!」



 俺の怒りはみんなに届かず逆に反抗されて男子の奴らには蹴られたり殴られたりして昨日の傷を更に抉られた。



 クソッ......なんなんだこれは! こうなったらアイツらに頼んでこの映像を流した奴を......!



 すると俺の親父から俺のスマホに電話がかかって来たので出るといきなり罵声が飛んできた。



「お、親父! 今学校で俺━━」


『守......やってくれたな。お前の変態動画が俺の所にメールが送られて来たぞ? ふざけんなよお前......俺の綾乃に手を出しやがって! こっちは朝からお前宛の電話が鳴り止まなくてまともに受付もできないんだ! 帰ったら覚えておけよ馬鹿野郎っ!』



 親父や病院の連中にまで知れ渡っているのか! 俺はもう終わりだ......!

 

 置かれている状況に絶望しているとクラスが再びざわつき始め一人の生徒が入ってきた━━。



「おはようみんなー」



 そいつが挨拶をするとクラスの連中が一斉にそいつを見て驚いている。

 


「あれ? 明星くん!? ヤバッ! 超かっこいいんだけど!」


「やばいよねっ! あんな変態小太りとは大違いだよ! こっち見てーっ!」


「明星だ。間近で見るとオーラがすげぇな......」



 明星か......一体何しに来たんだ?



「おはよう明星くん、明星くんはこのクラスの誰に用があって来たのかな?」



 クラスの委員長がさっき俺に見せたゴミを見るような目とは打って変わり、キラキラとした眼差しで明星に近づき要件を聞いた。



「ちょっとある映像見ちゃってさ......富田くんここに居るかなと思って来てみたの」


「そっかそっかー。それならあそこで今うずくまってるよ」



 明星不気味なほどニコニコの笑顔で俺に近づいて声を掛けてきた。



「みよ......せ」


「おはよう富田くん、昨日は挨拶してくれてありがとう。でもまさか君がこんな人間だとは思わなかったよ......あの時握手しなくて本当によかったかも」


「なんだと......!」


「なーんてね、そんな怖い目で見ないでよ。まさか......僕のパンツも被る気?」


 

 そう言うとクラスの連中は一斉に笑い出す━━。



「ははは! 確かに被るかもな!」


「明星くんタイムリーすぎウケる!」


「富田やば! どっちもアリかよ!」



 コイツら......好き放題言いやがってぇ......!



「くっ......なんのつもりだ......!」



 俺が睨みつけると明星は悲しい顔をして俺に優しい言葉で話し始めた━━。



「僕は君を助けたくて来たのにそんな目をするなんて残念だよ......。そうそう、先生にはこの動画の事伝えておいたから良くて停学が最悪退学かもね。でもそれは君に自分を見直す時間が必要だと思って報告した事なんだ......」


「お前言ってることめちゃくちゃだぞ......! 一体なんなんだよ!」


「だって僕らは昨日から友達・・だろ? 君にはしっかり罰を受けてもらってその心に罹った病気・・を治したいんだ。友達なら間違ったことをしたら止めるのは当たり前でしょ?」



 俺は明星に肩をポンと優しく叩かれた━━。



「友達......」


「ああ、さっきのは冗談さ。僕は君がこんな姿で動画に映っていても友達だと思ってる、だから一緒に職員室に行こうよ」



 奴はさっき殴られて少し血がついた俺の手に優しく差し伸べてくれた━━。



「お前......潔癖症じゃ......」


「友達にそんなの関係ないよ。じゃあ行こうか」




「明星くん超優しいじゃん......」


「俺ならあんな奴の手なんか絶対触れねぇよ」


「アイツ中身もイケメンかよ」



 俺は明星の手に引かれて職員室へ入った━━。



*      *      *



 俺は担任の先生に別室に入るように呼び出され椅子に腰を掛けると学年主任の先生も入ってきた━━。



「なんで私が来たか、わかるよね?」


「はい......」


「君のお父さんにはこの学校に多大な寄付を頂いていると校長からは聞いている。だから今回もお咎め無しにしようと思ったんだが......こうも広がると学校側としても処分を下さないとならない」


「富田.....これはお前が自分で蒔いたこの動画は重大な罪だ。それはわかるよな?」


「俺は......こんなことしてません......!」



 俺の言葉に担任の教師は机を叩いて怒りの表情で怒鳴り始める━━。



「言い訳するなっ! お前がやった以外に誰がやったんだ!? ぁあ!? まだ言い訳して反省してないのか!? 本来なら退学じゃ済まされないんだぞ!」


「そんな......でも俺......」



 俺の言葉を遮って学年主任は冷たい顔で淡々と喋る。



「確かにディープフェイクの可能性はあるかもしれない。でも疑わしきは罰される時代なんだよ、そこは分かるよね? さっきも言ったが君が裏で悪いことをしてても以前は咎めなかったが今回はそうはいかない、今日の授業が終わったら正式に停学とする。じっくり今までのことを見つめ直すんだね━━」



 俺は結局教師2人に話を聞いてもらえず部屋を後にすると、あの4人が俺を待ってくれていた。



「お前ら......どうしてここに......」


「お前があの動画で停学になるって聞いてよぉ、見に来てやったぜ」


「そうか......クラスの連中にも馬鹿にされて大変だよ......。お前らは俺のこと分かってくれるよな?」












「ぷははっ! 分かるわけねーだろ気持ち悪い......お前とはこれっきりだ。今まで撮ってた動画は俺たちが処分するから明日の夕方いつもの場所にちゃんも持ってこいよ? もし隠してコピーでもしたら━━」


「そうそう......あの死んだ黒羽より辛い目に遭うよ?」



「大葉......田所......お前らぁ......!」


「この意見は満場一致だ、さよなら富田くん」


「海原ぁ......! クソッ!」



 俺はその場に耐えられなくて教室に戻ったが、俺の机は既に無くなっていた━━。



「誰がやった! ふざけんなよ......俺に楯突くと━━!」


「楯突くって......変態のお前に何言われても怖くねーよ。俺らはお前と同じ空気吸いたくないから机を外に出したんだよ」



 外を見ると彫刻刀か何かでボロボロにされた机と足か曲がってまともに立てない椅子が放り出されていた



「クソッ......俺をゴミ扱いか......」


「ゴミ扱いじゃなくてゴミ・・なんだよ」


「マジキモいんですけど......」



 クラスの全員から文字通りゴミを見る目で俺を睨みつける。

 俺はその視線に耐えながら机を元に戻して停学前最後の授業を受けたが、その間も先生やクラスメイトの冷たい視線に絶望して吐き気を催しながらなんとか1日を終えて夕陽が沈んで明かりが点き始めた学校を後にした。



「あんな学校に行くより停学の方がマシだ......」










「ははは......最後の学校生活は僕からのプレゼントで充実出来たみたいだね。さて、さっき握手した手も入念に洗ったし弱りきった蛆虫を地獄に沈めるとしますか━━」


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