第11話 インフルエンサー多田井由美
「とりあえずその顔に付いた血を落とさないと。濡れタオル持ってきたからこれで拭いてね、傷は大丈夫?」
「ありがとうございます。少し切れただけなんで問題ないです」
俺は渡されたタオルで血を拭く。
正直傷なんて無いに等しいのでこんなクズに診てもらうよりさっさと帰りたかった━━。
「遅くなってごめんね......。しかし転校初日から絡まれるなんて本当に不運としか......あの二人には重い処分を下してもらうように先生から告げておくから安心してね」
「ありがとうございます。では僕はこれで帰りますね」
「うん、一応帰ったらLIZEしてね。先生はアイラくんの事が心配だから......」
「はーい。そう言えば僕が今座ってる席って......前に座ってた子は自殺してたんですね」
俺が唐突に真央の事を言うと秋山の顔色が途端に変わる━━。
「なんでそれを......」
「青海さんから聞きました。もしその原因が......例えば“虐め“とかだったら周りは一体何してたんでしょうね? 先生は何故彼が自殺したか知ってますか?」
「彼は......私生活に問題があったみたいでそっちが原因かも......」
「へぇ......もちろん先生はその子の辛い声をしっかり聞いてあげてたんですよね?」
「え......? ええ、もちろん最善を尽くしたわ。結局助けられなかったのは悔しいけど......」
いいねぇ......あれで最善と言える神経には感服するよ先生━━。
「そうでしたか......やっぱり先生は生徒想いの素敵な女性ですね。尊敬します」
「ありがとう、じゃあ気をつけて帰りなさい。家に帰ったら忘れずに連絡するのよ?」
「わかりました、ではまた」
俺は学校を後にして家へと帰った━━。
「あんなイケてる子が私を心から頼りにしてくれてるのね......嬉しい」
* * *
家に帰ると瑠奈さんが夕飯を作り置きしてくれていた。
それを食べた後スマホをチェックすると何件か通知が入っていた━━。
『アイラくん、無事家に着いた?』
秋山から早速LIZEが入っていた。
俺は『はい、今日はありがとうございました』とだけ返信を入れて通知をオフにして次の内容を見た
『万季です、グループのプロフィールから登録しました。隣同士よろしくね』
万季か......やりとりするのはあの日以来だな。
今は下手な動きをするとこの段階でイケメン彼氏に目を付けられる可能性があるから『よろしく』とだけ返しておこう━━。
他にもグループから個人で送ってくる奴らが多かった。
その中には司や龍崎さんも居て昔と変わらないテンションの文で来ていたので無難な返信をしておいたが━━、
『ゆーちんだよ! アイラよろ!』
......コイツは既読スルーでいいか。
その後家事をこなしてからLIZEを開くと秋山から『夕飯はちゃんと食べた?』や『暇だったら私と少し通話しない?』とか教師の範疇超えた内容が来ていたので、敢えてノッてやろうと思ったが今日はスルーして寝た。
ただし念のためスクリーンショットは撮っておいた━━。
* * *
次の日、俺は校舎の玄関で自分の下駄箱を探して靴を入れると......。
「すみません......そこ私の下駄箱......」
振り返るとその声は万季だった━━。
このやりとりは入学初日以来だな......。
「あぁ......間違えちゃったすぐ取り出すよ。昨日は事務室側の玄関から入ったから自分の下駄箱の位置わからなくて......」
俺は自分の下駄箱を再び探し始めると万季は少し涙を流していた。
「ごめん! そんなに嫌だった? 一応靴の脱臭はしてあるんだけど......」
「ううん違うの......。ただ懐かしいなと思って......ごめんね」
多分万季も俺と同じ事を思い出したんだろう━━。
「いやいや万季さんが謝る事じゃないよ。はいハンカチ」
「そんな......悪いよ......」
「いいから、泣いて教室に入ったらみんな心配するでしょ? それあげるから使って」
俺は万季の手に無理やりハンカチを握らせて1人教室へと向かった。
「ありがとう......」
* * *
教室に入るとクラスのみんながそれぞれ挨拶をしてくれた。
そしてクラスの外にはまた俺を目当てに人集りが出来ていた━━。
「おはよう! 2日目なのにすごい人気だなイケメン! 来てる奴らに有料サイン会開けば儲かるぞ!」
「こらっ! いちいちからかわないの! ごめんねアイラくん」
「おはよう司......龍崎さん、残念ながら僕は今日サインペンを持ってないんだよね。だから司が放課後文具屋へと買ってきてくれない?」
「俺が買うのかよっ! 悪いけど俺と龍崎は放課後用事があるんだ」
「そうなの? まさか......2人でデートとか?」
「ち......ちげーよバカ! 誰がこんな奴と......いたっ!」
司は顔を真っ赤にして俺に反論したが言葉の後半に問題があったのか龍崎さんに頭を叩かれた━━。
「こんな奴ってどう言う事かな?? アイラくん勘違いしないでね、私たちはある場所に毎日通ってるの......」
「......ある場所って?」
「ちょっと......教室の外に来てもらって良い......?」
俺達3人は教室の外に出て人集りが居ない場所まで移動すると2人は少し俯き、司が小さい声で言葉を口にした。
「俺たちの言ってた用事ってのは墓参りなんだ......俺の親友の......」
「それって......」
「ああ......今アイラが座ってる席に前まで座ってた男だよ」
そうか、この2人は俺が母さんの墓に納骨されてから毎日通っていたのか.......知らなかったよ━━。
「そっか......なんかごめんね言い辛い事聞いちゃって......」
「いや良いんだ......。俺達はアイツを救えなかった......アイツの本当の苦しみを理解してやれなかったんだ。そのせいで俺も結局クラスのやつと同じただの傍観者になっちまった......。その事が悔しくて申し訳なくて......俺は自分を許せない......!」
体を震わせる司と涙を流す龍崎さんにに掛ける言葉が見つからなかった━━。
確かに結果的に傍観者になったのかもしれないけどそう仕向けたのは真央である俺自身だ。
2人をあの5人からのイジメに巻き込みたくない一心で俺から避けるようになったから司達を俺は責められない━━。
「俺達は先生にもいじめについて相談した。でも秋山は全く取り合ってくれなかった......。アイツは、いやそもそもこの学校自体が自身の保身しか考えてないと痛感したんだ。ガキのやれることなんてここまでなんだって心底思い知らされたよ......」
司は余程悔しかったのか爪がめり込むくらいに拳を握りしめて俺に話してくれた。
「いろいろ動いてくれてたんだね。それだけでも天国にいるその真央って人には伝わっているんじゃないかな......?」
「だと良いけどさ、真央が死んじまった以上俺の罪は消えないよ......。ごめんな、昨日転校してきたばかりのお前にこんな重い話するなんてさ。でも何故かお前見てるとわかんねーけどアイツの影が重なるんだよ......全く似てないのにな」
「私も......それ思ってた」
鋭いねぇこの2人━━。
「そっか......今度僕もその子の墓参り一緒に行って良い? 彼の席に座ったのも何かの縁だし」
「ああ! アイツも自分の座ってた席にこんなイケメンが座ることになったって知ったらびっくりするだろうな!」
「いやいや、真央くんも可愛い系のイケメンだったから!」
久しぶりに3人で会話したかな......出会った頃に戻ったみたいだ。
でももうあの頃には2度と戻れない━━。
* * *
昼休みになり、1人机で弁当を食べようとすると廊下から大きな声を出して
「ア・イ・ラ・くん? なんで昨日既読スルーしたのかなぁ!?」
来たようるさいヤツ......この人ルックスは4大美少女の中で恐らく最強なのにやかましいくらい声通るんだよな━━。
「ブロックされてないだけありがたいと思えよインフルエンサー。そのデカい声は動画の中だけで十分なんだ......文句があるならアンチ呼ぼうか?」
「アンチはやめてぇぇ......! それより1人でお弁当食べてるなら私と一緒に屋上で食べない?」
その言葉を聞いていた周りは再びヒソヒソと話をしている。
恐らくまた初日に言われてたスクープだのなんだのと言っているのだろう、世間なんていつも勝手なもんだ━━。
「ちょっと......そんな大きい声で僕を誘って良いの?」
「別に周りなんて関係ないよ。私は今ただの高校生"多田井由美"として貴方を誘ってるからね」
俺も彼女の切り替えの早さとメンタルの強さを見習わないとな......仮面を被り続けるために━━。
「分かった......でも僕のリッチな弁当をイムスタにアップしないでね?」
「港○女子じゃないんだからいちいち豪華な食事を写真撮って上げないよ。早く行こっ」
俺はゆーちんに手を引かれて席を立つと、隣にいた万季が立ち上がって俺達を引き止めた━━。
「あの......私もお昼一緒に行って良いかな......?」
「えっ? いやその......」
「アンタは学校1番のイケメン彼氏が居るんだからそっちと食べれば良いでしょ? まあそのイケメンは昨日からめでたく大差で2位になったけど━━」
俺が言葉にする前にゆーちんが万季に対してかなりの皮肉を交えて断りを入れた。
「そ......そうだよね......。ごめん......」
「じゃあアイラ行こっか」
万季が悲しそうな顔をして席に再び座ったのを横目に俺達は屋上へ向かった━━。
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