第6話 地獄の住人達と真央の最期


 今日は放課後にある場所に来いと5人に呼び出された。

 一見普通っぽい家の中に入ると5人はもう既に来ていてイラつきながら俺を睨みつけた━━。


「よお黒羽、随分遅かったじゃねぇか。俺たちを待たせるなんていつからそんな偉そうになったんだよっ!」


「ぐふぇっ......うおぇ......!」



 大葉のパンチがみぞおちに思いっきりヒットし俺はその場に倒れた。


 そして海原が倒れて動けなくなった俺の髪を引っ張り上げる━━。



「学校でもみんなに無視されてセンセーにも噂のせいで相手して貰えなくて可哀想だなぁ......まぁ成績が良いからって調子に乗ったお前が嫌いだったから良いザマだけどな。とりあえず顔洗っとくか?」



 俺はトイレに連れて行かれ、ゴム手袋をはめた海原に頭を掴まれ便器に顔を近づけさせられた



「おい......この便器舐めて綺麗にしろ━━」


「そんな......だって......」



 俺が便器の中に見たのは誰かが事を済ませてある茶色いモノだった。



「俺の言う事が聞けないのかよ? やれや! さもないとこの家でもっと辛いことさせるぞ学年一位の黒羽くん?」


「そうだよ真央ちゃん。私達の言う事聞いた方がいいと思うよ?」



 脅された俺は匂いと見た目に吐きそうになりながらゆっくりと顔を近づけるが━━。



 グシャ......!



「ふぐぇっ......!」


「テメェおせえんだよ! さっさと顔面で掃除しろ!」



 俺は思いっきり叩きつけられ大便がついたままの便器に顔を雑巾の様になすりつけられた。



「おーおーちゃんと掃除できるじゃん! それじゃ使った雑巾は綺麗にしないとな」


 顔を上げた次にやられたのは高圧のホースで顔に思いっきり水を噴射されて顔面に強烈な痛みが襲う。



「はがっ......あぐっ......やめっ......!」



 水圧が強すぎてまともに呼吸ができず目も開けられない。



「なに? 聞こえねぇなぁ......あすみコイツなんか言った?」


「ううん、早く犯してくださいだって」



 そんなバカな事言ってない......!



「そうか......でもその前に奴隷である証をしとかないとな。大葉は準備出来てる?」


「俺に指図すんな、準備はできてるさ」



 俺はトイレから放り出されると大葉の元へ引き摺られた。

 大葉が皮手袋をして持っていたのは先端が赤くなった鉄の棒とガスバーナーだった━━。



「準備って......まさか......!」


「さすが学年一位は察しがいいな! これでお前に一生消えない焼印してやるよ......ははは!」



 俺は服を脱がされ鉄の棒がゆっくりと近づいてくる━━。



「やめて......やめ......」



 ジュゥゥゥ......。



「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」


「囀るなよ......次騒いだら殺すぞ......」



 ジュゥゥゥ......。



「ふ......ぐ......ぐ......ぐぅぅっ......!」



 大葉はゆっくりとお腹の皮膚をなぞっていく。

 なぞり終えた皮膚は水膨れになりその形はカタカナで『ゴミ』と書いてあるように見えた。



「はっはっは! ゴミの印の完成だ!」


「うぅ......い......てぇ......」


「そういえばお前の母親って......昔クスリやって殺されたんだろ?」



 なんでその話が......! 誰かが言いふらしたのか......?



「違う......! 母さんは何もやってない!」


「嘘つくなよ、もう学校中に知れ渡ってるぜその話。子供もゴミなら親もゴミだな! そんな奴殺されて当然さ!」



 その言葉に震えるほどの怒りが込み上げる。



「ふざけんな......ふざけんなよお前! 母さんは無実だ! お前みたいな奴に言われる筋合いなんか無い! 何も知らないくせに......勝手な事言うなクソ野郎!」


「なんだと......? もう一発行っとくか?」



 ジュゥゥゥ......!



「キ゛ェ゛ァ゛......! ぐ......ううっ......うっ......」



 今度は背中に鉄の棒が当てられ、焦げるような匂いが鼻に広がった━━。



「おいこんな事くらいでいちいち泣くなよ、まだまだこれからなんだから。なぁ......あすみ?」



「うん......ねぇ真央ちゃん? 服の上から私の胸触って?」



 は? 一体何言ってんだ.....?

 こんなの碌でもないことを企んでるに違いない......!



「そんなこと......出来るわけない......!」



「おい......触らないともう一回焼印するぞ? 今度は顔か?」


「早く触りなよ、お尻もスカートの上からね」


「くっ......うぅぅ......」



 あの痛みから逃れたかった俺は恐る恐る手を伸ばしてあすみの服に触れる━━。



 カシャッ!



「はい痴漢ー! これ決定的証拠だよね? 富田、私の顔ちゃんと嫌がってる?」



「大丈夫大丈夫バッチリだよ。さて、これをネットで拡散しますか」



 俺が半裸で胸と尻を触った写真には顔にモザイクこそ掛けられているが、すぐに俺と分かるプロフィールを載せた状態で富田の手によってアップロードされた。

 その瞬間イイネや再拡散がされて瞬く間にネット内に知れ渡ることになった━━。


「そんな......俺は言いつけを守っただけなのに......!」


「仕方ないじゃん事実触ったんだから。本当はもっとちゃんとした形で触らせたかったけど......アンタが私の告白断ったのが悪いんだからその仕返しよ」



 そんな自分勝手な仕返しがあるのか......。

 俺はただ万季が好きだっただけでこの子にはちゃんと丁寧に断ったのに━━。



「そういえば瑠衣子、もうあいつら来てるんでしょ?」



「うん、おーい入っていいよー」



 瑠衣子が呼んで出てきたのはガタイの良い男とヨボヨボのおじさんだった━━。



「瑠衣子ちゃん......この可愛い少年が俺達の相手をしてくれるのかい?」


「そうそう、この子こういうの好きなんだって。オプションで女装させるけどどうする?」



「それもいいね......なんか燃えるよぉ。じゃあよろしく」


「分かった、真央ちゃんちょっと大人しくしてて? 時間はたっぷりあるから━━」


「いや......いやだ......やめてくれ......!」



 瑠衣子は別の部屋からカツラとメイクアップ道具を持ってきて俺に化粧とカツラを被せる。

 その間二人組の男を見ると両方とも股を膨らませて今か今かと待ち構えている雰囲気だった。


 この化粧がこのまま一生続いて欲しいと思ったのは後にも先にもこの時だけだった━━。



*      *      *



「ほら、可愛くなった」



 化粧を終えた瑠衣子は満足げに俺の顔を見た。



「マジに可愛いじゃねぇか。コイツが女だったら俺がヤリたいくらいだったな」



 大葉が恐ろしい言葉を俺に向ける━━。



「はぁ......はぁ......瑠衣子ちゃん、もう俺達やっちゃっていい?」


「良いよ、ただ下の方はローションつけてからね」



 下!? 本当にまさか......絶対に嫌だ......!



「やめて下さい......お願いします......! なんでもしますから!」


「そんな涙目で懇願すると余計に燃えるよ少年。それと今なんでもって言ったよね? そのなんでもは今だよ......歯は立てないでくれよ?」



 マッチョな男は俺の口に無理やり自分のを突っ込んだ。

 奥まで突っ込まれて吐き気が押し寄せるが吐いたら何されるか分からないので吐くわけにはいかない......。

 

 その後5分くらいさせられて口は解放された。



「うおぇぇぇ......おぇぇっ......! ひぐっ......」


「真央ちゃん可愛い......その涙で濡れた顔をもっとめちゃくちゃにしてあげたくなる......」



 クソ......何がめちゃくちゃだ田所のやつ......もうとっくにめちゃくちゃなんだよ俺は......クソクソクソッ......!



「タダで出来るなんて最高だよぉ。じゃあ本番行こうか━━」



「少年、今度はワシのを頬張ってくれよ。一生懸命な......!」



「そんな......! 嫌だ......やめろ......やめてくれっ!」




 俺の虚しい叫びは家中に響いたが誰1人助けてくれる事は無かった━━。



*      *      *



 あの後も散々俺は好き放題させられ、7人が満足した後やっと解放された。


 満身創痍で家に帰り現実から逃げるように再びゲームをやり次の日学校に行ったが━━。



「黒羽......お前痴漢したって本当かよ?」


「なんのこと......?」



 クラスメイトが見せたスマホの画像には昨日の写真が何枚か写っていた。



「惚けるなよこれ絶対お前じゃん! しかもこっちの写真はお前......男に......。やっぱ学年一位は違うよな! こんなふうに性欲発散してるなんてよ」


「そんな......違う!」


「これはれっきとした証拠だろ? それとお前担任に呼び出されてたぞ? 全く何やってんだか......キモすぎるよお前」



バカにしたような態度を取るクラスメイトに後ろから2人俺を擁護する声が聞こえた。



「お前ふざけんなよ! 真央がそんなことするわけねーだろ!」


「そうよ! これはディープフェイクよ! 真央くんに限ってそんなこと......!」


 

 その声は司と龍崎さんだった。

 2人はまだ俺のことを信じてくれていたんだ━━。

 

 その優しさに思わず涙が出るが同時に焦りもあった。

 この現場を例の5人に見られたら2人まで巻き込まれるのは確実だ......だから......。



「良いんだよ司、龍崎さん。庇ってくれてありがとう、でも本当に大丈夫だから......2人を巻き込むわけには......」


「何が大丈夫なんだよ真央! 最近は万季ちゃんとも話さなくなってそれに比例してお前は毎日毎日ボロボロで......そんな親友の姿見てるのもう耐えられねぇよ!」


「そうだよ......! 私達真央くんのために協力したいの!」



 司と龍崎さんの言葉に今まで溜まっていたものが一気に溢れる。

 でも......だからこそ彼らを巻き込むわけには行かない。

 これは自分で解決しないといけないんだ━━。



「......でも俺はこの通り平気だからさ......2人まで悪者にされたら俺の方が耐えられないよ。2人とも本当ありがとう......」



 俺は涙を堪えて職員室へ向かった━━。



*      *      *



「失礼します......」



 職員室に入ると教員が一斉にこちらを向く。

 そしてクラス担任の 《秋山恭子》先生が俺に外へ出るように指示したその目は何時に無くキリッとしていた。



「黒羽君、あなたを呼び出したのは他でもないわ......」



 もしかして俺に対するいじめのことが知られた?

 そのことで俺を助けてくれる?

 俺はもうこんなに苦しい思いをしなくて済む......?















「あなた、女子生徒に痴漢したのね?」



 俺の淡い期待は一瞬で崩壊した━━。



「いえ違います! アレは無理やり......!」


「無理やり......? 誰が好き好んで無理やり痴漢をするの!? まさか証拠もあるのに痴漢を強要されたなんて言うんじゃないでしょうね? あなたが罪を認めないのならこのまま警察に連れて行きます。被害者の女の子はあなたが罪を認めれば被害届を出さないと言ってくれているから最悪停学で済むけどそれが無理なら出頭しなさい!」



「俺は......俺は......!」



 酷すぎる......ここで認めないと俺は逮捕され、認めれば逮捕はされないが痴漢男のレッテルが貼られた状態で停学を迎えるなんて......!



「早くどっちか言いなさい!」



「や......やりました......」



 恭子先生の言葉に俺はビクッとなって咄嗟に答えてしまった。



「はぁ......貴方は素直で成績もトップだから期待していたのにこんなクズの変態だったなんて貴方の担任になった事は一生の恥だわ......やっぱ死んだとはいえ親がダメだとこうなるのね。処分は追って連絡しますからさっさと教室に戻りなさい」



 恭子先生は捨て台詞を吐いて職員室に戻って行った。


 そして放課後俺は再び呼び出され、改めて停学処分を喰らい家に帰ることになった。



*      *      *



 帰りの駅のホームで俺は1人誰にもバレないように泣いていた。


 なんで俺だけがこんな目に......。

 親を殺され警察には疑われた挙句みんなから白い目で見られて...高校に入って好きな人と付き合えてやっとまともな生活を送れると思ったら彼女は寝取られていじめられて......この世に神様なんて居ないんだ━━!



「ごめん母さん......俺もう疲れちゃった......母さんに会いたいよ......」



 俺はトボトボとホームの黄色い線の内側に立って電車が来るのを待った。


 そして快速の電車が通過する直前━━。



 ドンッ...!



「えっ......」


 

 誰かに押された俺の身体はホームから飛び出して電車の目の前に投げされた━━。









『俺は死ぬのか......こんな惨めに死ぬ前に俺を虐めた奴らに仕返ししてやりかった......母さんを殺した犯人を見つけたかった......俺や母さんを犯罪者扱いしてきた奴らを見返したかった......そして出来ることなら万季ともう一度━━━』










 グシャッ......!






 俺が最後に聞いたのは電車の警笛音と甲高い金属音だった━━。

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